【短編完結】追い出した婚約者に呪われた男

ジャン・幸田

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【終】

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 それからというもの清次郎は気がくるってしまったかのように美羽を探した。きっと彼女が呪いをかけたに違いない、解くためには見つけ出さないとならないと。

 様々な者たち、探偵だけではなく祈祷師のような霊能力者まで動員して探させた。そうしている間も清次郎は呪いによるものか急速に没落していった。それでもなお探索をやめずにいた。そしてようやくとある山奥に住む修験道のの導師によって美羽がかけた呪いの正体を知ることとなった。

 「その女が呪いは、おそらくこれは自らの存在を消すことによって成就する死に至らないまでの呪いだ」

 その導師によれば古の時代から存在するもので、自分が死後地獄に落ちるのを約束することで、呪う相手も地獄に落とす呪詛よりも最恐最悪だという。

 「存在を消すことで得られる呪いだと? 何だそれは」

 「その正体は俺も知らないが、伝え聞いた話では、どうやら悪魔の契約することによるものしか言いようがないだろうな。多分、その女は深い恨みを持っていたのあろう。この世の中にいたっという事実を全て消し去ることを条件に、お主を不幸になるように願ったんだろう。
 ところで、その女のことを覚えているのは、おそらくお主だけだろうな。もう他の人間はすべて忘却してるはずだ。その呪いは強烈でな、おそらくこの世界で呪いを打ち消すことできる人間は、一人いるかどうかであろう。なんだって自分の存在を消すのと引き換えだぞ! ただ死ぬのではなくて、生まれてきたこと自体を消すんだぞ! 遡って消えてるはずだよ。それだけお主を恨んでいたんだろうな」

 導師は深いため息をした。それは清次郎に対し何もすることが出来ないという意味であった。

 「そ、そんな! ではどうすればいいのだ俺は」

 「さっき言っただろ! 無理だって! 強いて言えば、お主がもう幸せになろうと思わないことぐらいしかできないだろうな。そうすれば他の人を巻き込むことはなくなる。
 それと詳細は知らないが、この呪詛をかけた人間がいるはずだから、それを探せばもしかすると何らかの対処ができるかもしれないな。でも覚えておくがいい。おそらく解除は不可能だろうが、十中八九は」

 清次郎は今度は美羽に頼まれ呪詛をかけた者を探した。それから時が経過していったが、だんだん美羽の名前すら思い出せないようになった。あの日店から出て行ったあの女の姿はだんだんと薄れていった。自分は何て愚かな過ちを犯してしまったんだろう後悔するのも、すでに手遅れでだった。

 家業は潰れ、路上で生活する乞食にまで没落した。そののち清次郎は旅に出てしまった。呪詛をかけたというその人物を探すために。あの日から数十年後、ようやくその人物を探すことができた。遠くの山深い庵にいた祈祷師の老婆であった。

 「あの申し訳ございません。私はあのときどうすれば良かったのですか」

 老いと病に苦しんでいた清次郎は尋ねると、その老婆は冷たく答えた。

 「そのような計略を使って婚約を破棄した、お前さんが悪い! まあ一つだけ言えることは、もう手遅れですのお」


 「では彼女はどうなったのですか? それだけでも教えて欲しいです」

 「お前さんに言っても理解はできないだろうな。そもそもこの呪詛の方法は門外不出である。詳細を言うことはできないんだ。ただ言えるのは彼女は、もうこの世にいないってことだ」

 「死んだということですか?」

 「死ぬよりも恐ろしいことを知っているか、お前さん? 魂がなくなることなんじゃ。魂がなくなってしまったら、もはや転生することもないしな。
 彼女は大変慈悲があったと言えるぞ。お前さんはこうして生きていけるのだから。おそらくあと100年近くは行きそうだな。そうそう自殺だけはしようと思いなさんなよ。彼女と同じように魂が消滅するのであるからな」

 「さっきから言っていますけど、その魂が消滅するとはどういうことですか?」

 「簡単に言えば、無間地獄よりも更に恐ろしい地獄に落ちるということかな。彼女とあの世にいっても再会することは叶わないだろうな。そっから先のことはもう誰も知らないからな」

 「なぜそんなことをしたのですか? 彼女はどうなったのですか」

 「知らない方がいい! この世の中にはそういうこともいっぱいあるのさ。ただヒントだけは与えよう。彼女はこの世にいた事実を消し去るのと引き換えにするほど、お前さんに対する強い恨みを持っていたというのは確かだ!」

 何も対処することではなかった清次郎は、それかも100年近く生きたという。その人生は苦痛で孤独しかいなかった。美羽を追い出して150年後にこの世を去った時、清次郎が残したものは何もなかった。そして彼もまた忘れ去られてしまった。

 婚約破棄を計略によって成し遂げた男の末路は、哀れであるが自業自得であった。
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