上 下
5 / 6
婚約破棄の章

【2】

しおりを挟む
 親同士が決めた婚約。恋愛相手を探すのが面倒だったり、はたまた異性に興味を持たれる自信がないような男女にとってうらやましい事かもしれない。でも、そんな親が決めた線路レールを嫌になる時期があった。そう、反抗期だ。俺は王族なのに父である国王に反抗してしまった。

 エカテリーナは将来の王妃であるので、幼いころから英才教育を受けていた。元々の素質が良かったので、歴代最高の王妃になるのは確実だといわれていた。しかし、俺は何か違うという感情が芽生えていた。そんな心の隙に付け込んできたのがエレナであった。

 レイナはエカテリーナと同じ伯爵令嬢であり、俺の婚約者候補であったが、幼いころに候補から除外されていた。その理由は病弱であったが、そのころには健康が回復したとみられていた。だから、俺は婚約者がいるのに好きになってしまった。浮気な恋で不倫といえるのに、それを「真実の愛」などと正当化してしまった。

 アンテノール邸で行われたパーティーは婚約破棄披露会になった。邪魔なエカテリーナを排除して俺はまさに人生の絶頂を迎えていたが、その時はこれからもっと最高の人生が始まると疑っていなかった。この婚約破棄にアンテノール伯も協力しており、婚約破棄を正当化する証拠も用意(捏造)してくれる手はずだった。それに父である国王に廃嫡など排除されぬように、王位の譲位を迫ってくれるはずだった。全てはうまくいくはずだった。

 後に知った事であるが、これらはアンテノール伯によるクーデターの一環であった。俺を傀儡にして実権を握る意図があった。そんな裏心など当時の俺は何も知らなかった、愚かにも。なお、連れ出されたエカテリーナは辺境の修道院に幽閉すると聞かされていたが、本当は道中で儚くするつもりのようであった。そんなことを知らない俺は目の前のレイナしか眼中になかった。

 「ヨーゼフ様、これからもっと良い事が起きますわ。わたくしは幸せです」

 エレナの笑顔に俺は満足であった。その言葉に俺は激しくその通りだと感じていた。でもそれは、転落直前の儚き夢でしかなかった。
しおりを挟む

処理中です...