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(1)旧時代末期のコンビニ店長に想いを寄せる少女

旧時代最期の週末に(1)

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 202X年11月の第四週、それが旧時代と呼ばれる最期の週末だと思った地球人は殆どいなかったに違いない。世界の政治・経済は混乱し終末思想的な事を唱える者が少なからずいたが、それらは全て起こることを正確に言い当てた者はいなかった。

 友近を乗せた高速バスが松山市駅前に到着したのが午前8時過ぎだった。そこに年老いた母親の芳子が待っていた。親子そろって結婚式が開かれる教会に行くためだった。キリスト教徒でもない二人が教会に行くのは滅多にないので、祝福の讃美歌が上手に歌えないと嘆いていた。それよりも緊急の課題なのは今後の生活についてだ。

 友近は結婚していないが芳子に田舎暮らしをやめて東京に出てくるように言っていたが、彼女は息子の方が戻るべきと主張していた。もっとも田舎に帰っても真面な仕事口の当てなどなかったが。だから二人は言葉少なかった。その時、友近のメール着信の着メロがなった。

 「剛志、お前の彼女からか?」

 何を言いやがるのだろうと思ってみてみると、朝霧満からのメールだった。ちなみに彼女はメールでミチルとしていた。メールには”店長、今度の火曜日待っているからね、ミチル”とあった。その日は友近の誕生日だった。

 「いやちがう」

 「そおいえば次の火曜日はお前の誕生日だったね、何歳になるのかい?」

 「三十七だ、あまり嬉しくはないが」

 「三十七か・・・いい加減に嫁を貰う事を考えておらんのかいよ? お父さんがいつも心配しよっちゃからな、お前のことを」

 母はそこから話を切り出すものかと舌打ちしたが、いつもなら鬱陶しいと思うところだが、今はミチルの事が気になっていた。でも二十歳以上も離れている彼女と結婚するのは想像できなかった。リアル感がゼロだから。

 「それはありがと。わしはのお・・・帰ろうかと思ってるんだよ。東京にいるんも飽きたからのお」

 田舎に戻ると微妙に標準語から外れるのが気持ちよく感じていた。そういった意味では東京はしんどい所ではある。

 「ところで母さん、今日の結婚式のあと時間が空くよね」

 「そうやけど、それがどおしたんじゃよ?」

 「ちょっと、電話をかけたいところがあるんじゃよ」

 「ほお、彼女へか? そりゃあ?」

 「違うで!」

 否定したが、本当にミチルにかけるためだった。彼女ではないと否定しているが。
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