魔女のいる町

純音(すみね)

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ほのかな魔法

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 子供の頃は無邪気だった。何でも信じ込み、ちょっとしたことで感動を覚えた。
 今はもう当たり前のようなマジックでも、それは魔法なんだって信じ続けていた。
 マジックとは種も仕掛けもあるのが基本。魔法な訳がない。思い返すと笑ってしまう・・・。
 ・・・、どうせ・・・、と詮索し勝手に思い込み。現実的に理解する。私はいつ頃かからかそんな風に考えるようになっていた・・・。

 まだ中学生だというのに、何をそんな背伸びしているのかと思うかもしれない。だが、最近はそれが当たり前。一般常識的に魔法ごっこはとっくに卒業していなくてはならない。
 夢見る少女は馬鹿にされる。クラスに溶け込むためにはまず時代を生きなくちゃ。

 通学路を歩く私の脇を勢いよく少年が翔けて行く。まだ急がなくてはならない時間ではないのに、子供は実に元気だ。
 心の中で馬鹿にしてみると、少年はそのスピードのまま思いっきりこける。ほら・・・、はしゃぐとろくなことはない。
 すぐに膝は激しく痛み泣きじゃくる少年。血は滲み出てとても痛そう。それを横目に私は再び少年を抜き返す。
 救いの眼差しを向けてきた気がしたが、私は消毒液はおろか絆創膏すら持っていないのだ。話しかけるだけ無駄・・・。そんな目で私を見たって何も出てきたりはしないから・・・。

 気付けばそのまま校門だ、小学校はさらに遠くあの少年は恐らく遅刻だろう。お気の毒様・・・。
 それでも私が悪い訳じゃない。別に私が少年に危害を加えた訳ではないのだから当然だ。当然だ・・・。
 気にしたって仕方ない。私は私の仕事がある。学生は勉強が仕事だ。そんな見ず知らずの少年のことを気にしていてはすれ違ったもの全てを気にしなくてはならないじゃないか。たかが他人。関係なんてない。さて、勉強勉強。
 当たり前の授業をこなし、クラスメイトと他愛ない会話を繰り返して学校は終わる。
 ボーっとしているとやけにはしゃぐクラスメイトの話が耳に入った。
「そういえばさ、ユミがあのお店行ったらしいよ!」
「あのお店?」
「あれだよあれ、噂のアクセサリーショップ!」
「えっと・・・、なんだっけ・・・。『マチナミ』だっけ」
「それそれ、普通のお店だったってよ? 結構可愛いのとかあったみたいだから、今度一緒に行ってみようよ!」
 アクセサリーショップ『マチナミ』とは、住宅が並ぶ一郭に出来た異様な雰囲気を放つお店。すんなり入ろうと言うものもいれば、絶対に入りたくないと拒絶するものもいるなんとも不思議なところだ。私は今まで聞いたことがあってもそれほど興味が湧かなかった・・・。
 しかし、最近はマチナミの噂は学校中に広まり、知っていることが当たり前。行ったことがあるものは質問攻めで一躍スター状態になるみたいだ。
 今の流行といっていいマチナミ。私も一回行ってみようかな・・・。
 校門を出ると、帰り道を歩く。だが、途中で道を外れ、そのままマチナミに向かった。そこは私の家と学校の間にあり、行きやすいと言えば行きやすい場所。
 今まで店構えすら見に行かなかったのが不思議なくらいだ。ちょっと外れただけで寄れるならもう少し早くに行ってみるべきだったかもしれない。
 聞いたとおり住宅地にひっそりと並んでいた。言われなければ気付かない、だが確かにそこに店はある。私、何回かここを通った気がする・・・。
 全く気付けていなかったということは、まさにそういうことなんだろう。
 兎に角入ってみよう。見た目や雰囲気は神秘的でも、結局はアクセサリーショップなのだから。
  
 見せの扉を開き、その幻想的な店に私も溶け込むのだった。
  
 店内はまさに幻想的。神秘的。ファンタジー世界。
 綺麗に並んだ煌くアクセサリー。ステンドグラスからは乱反射する日光が味を出していた。
 おまけにフロア中央に置かれた石像は魔女を想像させる女性が三人連なっていた。今にも動き出しそうな三人の魔女達は、優しく微笑み命さえ感じるまでに美しい。
 住宅街にこんなお店が隠れていたなんて、何故今まで来なかったのが不思議だと更に強く思った。
 この空間にいる事自体がここに来た意味だと言える。それくらい私はもう満足だった。
「凄い綺麗・・・。トパーズにエメラルド・・・。ルビーのネックレス?」
 値段は中学生にとって少し背伸びするくらいだったが、その値段に見合うくらいの価値に見える。
 アクセサリーショップというよりは、アクセサリーを模ったおまもりだろう。パワーストーンが多く使われており、安値のものにも絶対と言っていいほど使われていた。
 これが魔力・・・か。見ているだけで幸せいっぱい。
 この店に来たものがひと時のスターになれるのは、入ったことへの勇士ではなく、ここのパワーを授かるからなのかもしれない・・・。
 魂が清められ、心が洗われる。この店はそんな力を持っているのだろう。
 よく見ると奥にも部屋があるようだ。店員さんも見当たらないし、ちょっとだけ覗いてみようかな・・・?
 吸い込まれるように足が奥へ向かう。更に強い光が目を眩まし一層神秘的に部屋を染めた。スタッフルームにしては着飾りすぎているようにも思える。それは一般家庭ならなおさらだ、力の入りようが違う。私の部屋なんかと比べたら月とすっぽんだ・・・。
 アクセサリーを作る道具かな? 机の上には作りかけのアクセサリーと、細かくされたパワーストーン。ビーズなどが置かれている。
 魔法使いの絵だろうか、壁には大胆に飾られた肖像画。白髪で、年がいっている。老人の絵。黒衣のドレスを纏っているのをみると、魔女という印象。単なる私の先入観かもしれないけど・・・。
 膝には猫が気持ち良さそうに眠っている。見ているとこっちまで気持ちが安らぐ。
「あら、こっちは店内じゃなくってよ!」
「あっ! ご、ごめんなさい・・・」
 突然かけられた声に飛び上がる。店員さんかな、絵と同じ黒衣のドレスを着ている。だが、老人ではなくお姉さんと呼べるほどの年齢・・・、だと思う。綺麗な人だ。あれ・・・、そういえばどこかで会ったことあるような・・・?
「さぁさ、店内へお戻りなさい。それとも、あなたの求めるものは並んでいる商品ではないのかしら?」
「え!? ど、泥棒とかそういうんじゃないですッ!! ごめんなさい、すぐ出ます!」
 一目散に店から逃げ出す。これじゃ本当に泥棒みたいじゃないか・・・。とほほ・・・。

 その夜は店のことが頭から離れなかった。勘違いされてしまったかもしれないってこともあるけど、それ以上に店内の雰囲気が印象的で深く心に残ったのだ。
 私は元々ファッションや装飾品、着飾ることに興味なんてなかった。でも、流行に置いて行かれると馬鹿にされ、学校なんかじゃ普通に過ごすことなんて出来ない。孤立・・・。クラスでも何人かいるけど、置いていかれた子は忘れ去られなんだって除け者。流行がある意味ステータスなのだ。
 そんなことに資金を投じ、時間を投じ・・・。自分を投じた・・・。
 そう、私は自分の存在すら投げ出していたのだ。そんな私が、久しぶりに覚えた好奇心。心が高揚した。
「また行きたいな・・・。勘違いされたままじゃ嫌だし、ちゃんと謝りに行こう」
 そうは言いつつ、ただあの店に入りたいだけなんだけど・・・ね。




 学校が終わると駆け足でマチナミに向かった。私、今ワクワクしてる! 久しぶりの感覚に心が躍る。普通に走っているはずなのに、自然にスキップしてしまっていた。
 営業中などの標識がないため、確認できないが扉が開いていたので遠慮なく入らせてもらった。
 何故かここは私の遠慮をなくさせる。いつもは道を人に譲るほど遠慮深い私だが、今はそんな気持ちは微塵も感じなかった。
 相も変わらず綺麗な店内。それだけで私は幸せになった。またしても店員さんの姿は見当たらない。
 しかし今度は悪いことしてはいけないと思いぐっと我慢してじっと待つ。
 普段はじっと待つことなんて容易い。だが、ここはマチナミ・・・。それを困難とさせるのがここの魔力だ。気付けば私はあちこち見回り、商品棚を何週も見回っていた。
「おやおや、あなたは昨日の泥棒さんじゃないかしら?」
 今日もその美しい声が私の身体を飛び上がらせた。この店員さんは人を驚かすことを楽しんでいるのか・・・。それにしてもどこから現れたのかわからない・・・。
「違います! 私、泥棒じゃありません! それに、泥棒なら戻ってきたりしません」
「犯人は現場に舞い戻る。という言葉がありますけど?」
「それは殺人事件のことです!」
「そうとは限らないかも・・・。くすくす」
 冗談なのか本気なのか・・・。ちょっと怪しい雰囲気だ。兎に角謝るしかない。
「私はなにも取っていませんし、ただ・・・」
「・・・・・・?」
「ここにその、魅力を感じた・・・。といいますか・・・」
「気に入ってくれましたのね、この店を」
「そういうことです」
「有り難う御座います、どうぞごゆっくり御覧なさい。時間を忘れるくらいに楽しんでいくといいでしょう」
 取りあえず誤解は解けたってことでいいのかな・・・? うん、招いてくれたんだからそうなんだろう。
 お言葉に甘えてゆっくりしていこう。
 そのまま夕日が射すほどまで店内に居座ってしまった。途中店員さんが紅茶を用意してくれるなど、優しい一面も見せてくれ、警戒心なんてとっくに消えていた。
「ベロニカ・タウンゼント」
「え?」
「私の名前。ベロニカ・タウンゼントと申します」
 特に聞いたわけでもなく、でもこんなによくしてもらって名前を聞いていなかったのもおかしい話で。そんな焦りから私も続いて名前を名乗る。
「町田・・・。私は町田ほのかです!」
 こうして名乗ってみると、自己紹介をしたのなんて中学校入学以来だ。面と向かってするのは少し恥ずかしかった。
「ベロニカさんって、外国人なんですか?」
「生まれはそうですが、育ちが日本なので日本語以外は話せません」
「生まれた故郷に帰りたいとか思わないんですか?」
「誕生がどこであろうと、過程が重要。私の故郷はここです。それに、私たちは一度居付いてしまうと滅多に動けませんからね」
 商売人はって意味だろうか? 確かに突然引っ越されたら困る。折角見つけた最高のお店なのに、居なくなってしまわれたらがっかりだ・・・。そういうお客さんも少なくないはず。
 商売人は大変なんだなぁ。
「そうですよね、私も生まれは田舎だったみたいなんですけど、今はここに慣れてしまったので帰りたいなんて思いません・・・」
「全ては過程とその結果。そうだとは思いませんか?」
「はい、私は学生だからこういう例えですが、いくら頭がよくったってロクに勉強せずに怠けていたら結果なんて出せません。ちゃんと努力して出した結果こそ素晴らしいと思います!」
「そうは思っていても、動かなければ意味はありませんよ。あなたは・・・、出来ていますか?」
 え・・・・・・、私・・・?
 感じた・・・。私の思い違いかもしれないけれど、今の言葉は刃物。私に突きつけられた鋭利な一言。
 ベロニカさんは既に町田ほのかという人間像を、これまでに歩んできた人生を見透かし、それを見直させるかのようにこの話をしたのだろうか・・・。
 いや・・・、考えすぎだ。いくら魔女の風貌を見せる彼女だからって読心術なんて持ってはいない。
 でも考えさせられた。今まで私が生きてきた道。してきたこと全てを・・・。
「わか・・・、りません・・・」
「宿題」
「はい・・・?」
「それが私から課す今日の宿題です。あなたはまた明日、ここに来るでしょう。その時にお聞きします」
「・・・はい」
 私が自分自身にしてきたこと、それがどれだけ酷いことか。それによってどれだけの人が傷ついたか・・・。
 自分に価値はないと思い込んでいるものほど人を傷付けるのは容易い。なんだかんだ言ってこの世で一番大切なものは自分。その自分をどう扱うか、それが生き方。
 自分の価値を見出せないものは、大切なものなんてすぐに投げ出せてしまう愚かもの。そんな人に他人の心境や気持ちを考慮することなんて出来ない。1番があるからこそ2番がある。それはずっと連なって100、それに1000をも超える。だけど順番に差なんてない。その順位に入っているものは全て大切。本当に酷いのはそのランキングに入れてあげないこと。1番がなきゃ成り立たない大切なものの順位。自分がいなきゃ、成り立たない・・・。
 自分を捨てちゃいけない。自分があるからこそ、周りに幸福を与えられるんだ・・・。まだ方法なんてわからないけど、私はマチナミで大切なものを見つけた。

 ベロニカさんの予言どおり、次の日もマチナミに向かった。それは予言されたからじゃない。私の意思で足を運ぶ。私の意志で魂を運んだ。
 扉を開くと吸い込まれるように店内へと入った。
 相変わらずに綺麗な店内。だが、ひとつ違和感を覚えた・・・。
 あれ、この石像こんなに汚かったっけ? 中央に飾られた魔女の石像はひびが入り今にも崩れそう。二体の魔女はそうなのに、何故か一体だけは
亀裂ひとつない綺麗な形を保っていた。
「あぁら、いらっしゃい!! お客様ねぇ!」
 いつもとは違う明るい声が聞こえる。それによってまた私は驚かされるのだった。
 ここの店員さんは私を飛び上がらせることが好きらしい。
「ほらぁ、どう? この新商品! エメラルドをふんだんに使ったネックレス! 効くわよぉー」
 ずいっと目の前に出される。エメラルドって高いんじゃなかったっけ? 値段を見るとやはり目玉の飛び出るほどの値段。
「たかっ!!」
「むむむ! じゃああなたに特別、半額でご提供!」
「馬鹿ね、マチコ。半額だって中学生には到底払える金額ではないでしょう」
 奥からベロニカさんが現れる。私が探す前に現れるのは珍しい。
 ベロニカさんが奥へ手招いてくれ、マチコと呼ばれる店員さんに解放された。
「助かりました・・・」
「ふふっ。見ていて面白かったのだけど、マチコの強引なセールスは困惑してしまうものね。・・・痛いほど解かるわ・・・」
 珍しく溜息を吐く。ベロニカさんもあれには敵わないみたいだ・・・。確かにおしとやかなベロニカさんには相性悪そうなタイプ。
「マチコさん? ってこの店の店員さんですよね」
「私もそうだけれど、店員と呼ぶには相応しく無いかもしれない。私たちは三人で店主ですもの」
「三人ですか?」
 そういえば昨日「私たちは」って言ってたっけ。てっきりベロニカさんだけで店を開いていると思っていたから少し引っかかったけど、マチコさんともうひとりいるみたいだ。
「えぇ、私たちは三人でこの店を作り上げた。だから三人が全員が店主であり、三人合わさって店主であるの」
 言い回しがなんだかややこしいが、三人が長い間一緒にいることだけはわかった。
「それはそうと、宿題は・・・。やってきたみたいね」
「はい、私は・・・」
 昨日の夜、考え、反省したこと。全てを話しにここに来た。だけど話し出す前に人差し指によって口を閉ざされた。
「いいの、言わなくて。あなたが真剣に悩み見直し、そしてやり直す決意を持ったのならそれを聞かずともオーラでわかる。どういう道を歩むかなんて解からない。わからなくていい。あなたが輝きだしたそれだけで、私の役目は終わったの」
「でも・・・」
 私は考え直せたことに浮かれ、様子だって明るかったかもしれない。けど、これが正しいかなんてわからない・・・。いくら見直したからといって不安は拭えなかった。
 頼りきりになってしまうかもしれない・・・。だけど、私はベロニカさんに道標を求めたかった。
 ベロニカさんは首を横に振る。その先は自分で歩めと何度も何度も私をなだめた・・・。

 それからというもの、私は生き方を変え、自分を見失うことなく歩んだ。
 無理に着飾ることをやめ、好きなものを付け、好きなものを着た。流行なんて関係ない。
 今まで流行に遅れたり外れたりすることが怖かった・・・。間違いなく馬鹿にされるからだ。一時期私は怠けていた、その時に言われた言葉。それが深く傷付きトラウマになった。だから、恐れていたのだ。
 自分らしさを出すのと着飾るのを怠けるのでは全く異なっていた。友達の反応も、以前のものではなく私らしいと褒めてくれた。
 町田ほのからしさ、それが大切。自分を捨てずに歩んだ結果は素晴らしい世界だったのだ。

 季節も変わり、マチナミへ足を運ばなくなってから2ヶ月ほどが過ぎたことになる。
 いつもと同じ、でも以前とは違う。俯き癖はすっかり治り前を向いて歩く。むしろ太陽を見つめていたいくらいだ!
 本当にやったら目をやられた・・・。うあぁ・・・視界が・・・ッ!!
 賑やかな教室。ふと耳に入るのはマチナミの話題。当時ほどの人気はなくなったものの、未だにマチナミに興味を向けるものは多い。
 それほどあそこには魅力があるのだろう。私が証明ですッ!
 いつもはスルーする会話だが、今日は何故か気になって聞き耳をたてていた。
「ねぇ、知ってる? あの噂」
「マチナミの店主のやつでしょ? あれってガセじゃね」
「うそ臭いけど本当なんだって!」
「お前それ日本語おかしいぞ。確かに容姿は魔女だけど、本当に魔女なわけないじゃん。ってか本当なら焦るわ」
「じゃあ焦ってよ! 本当だから」
「証拠みせろ!」
「えー、ないよぉー」
 なんとも馬鹿馬鹿しい話だろう。その気持ち解からなくはないけど、本当に魔女がいたら確かに焦る。
 どこか怪しくて、でも綺麗で。ベロニカさんをみていると魔女だと思いたくもなるが、マチコさんが入ってくるとそんな疑いは綺麗さっぱりなくなるだろう・・・。
 ・・・、久しぶりに行ってみようかな。

 なんだかんだしていたらもう暗くなってしまった・・・。今後先生には極力声をかけられない様に移動しよう・・・。無茶な手伝いはごめんだ。
 おかげでマチナミに到着するのがこんなに遅れてしまった。
 そういえばこんな薄暗い時間にここに来たのは初めてだ。扉を開くのにちょっと緊張する。
 扉にベルなどは付いてなく、すぅっと音もなしに開くのが少し気味悪い。これだからベロニカさんが帰ってきても気付けなかったのだろう。
 店内は薄暗く、出始めた月の光によりやや見渡せる程度だ。もう閉店なのかな?
 昼は神秘的でも、夜はなんとも奇妙。中央の石像の笑みがこちらを嘲笑っているようにも見える。まるで世界が逆転したみたいだった。
「あら、こんな時間にお客様?」
 この雰囲気の中突然の声は誰でも驚く。私は以前のように飛び上がった。
「ふふっ、ほのかね。今晩は。そのジャンプはもうお決まりかしら?」
「したくてしてるわけじゃないですよ!! プンスカ」
「奥へいらっしゃい。実は店内に明かりは取り付けていないの。こんなに薄暗くても入ってくるなんて常連さんしかいないものだから」
「昼は明かりなんていらないくらい日が入ってますもんね」
 奥には湯気を吹くティーポットと、空のティーカップが三つ置かれていた。
「あれ、もしかして今日はもうひとりの店主さんいるんですか?」
「えぇ、みーちゃん。お客さんよ」
「・・・・・・なんじゃいな? そんな叫ばんでも聞こえとるわ」
 いそいそと身体を引き摺るように現れたのは老婆。みんなお揃いのドレスを持っているらしく、みーちゃんと呼ばれるこの老婆も黒衣を纏っていた。制服かなにかかな?
 開いた椅子を見つけると私を見るより先に腰掛、それから聞き返した。
「あんたがお客さんかね? 随分若いモンがこんな夜遅くに・・・」
「そうですね、月と顔を合わせるくらい遅いのは褒められたものではないわ」
「あぅ・・・。すいません」
「まぁいいでしょう。それにしてもほのかは変わりました」
「そう、・・・ですか?」
「まるで海からもがき出たおたまじゃくしじゃな」
「・・・・・・・・・・・・・・・??」
「まぁだまだ子供ってことよ! おわかり?」
 気付くと真後ろには豊満な体をしたマチコさん。ぽんぽんと肩を叩いたあと、彼女も椅子へ腰掛けた。
「あーっ! マチコ、その図体で急に現れるとわしの心臓に悪いわぃ・・・」
「おっほっほ、まだ万年も生きていないくせにババ臭いったらありゃしない!」
「なぁにいっとる、ババアはみんな一緒じゃ!」
 なんだか凄い会話だ・・・。ついていけない・・・。
 マチコさんはおっほっほ、みーちゃんはわしゃわしゃ笑っている・・・。のだが、ベロニカさんはというと・・・?
「誰がババアだぁぁあああ!! 私はまだまだ若いわあほんだら!!」
「「ひぃいいッ!!」」
 本気で怒っていた・・・。何かこういうネタには敏感な気がしていたのだが、予想は当たっていたみたいだ・・・。だからってこの状況は全く喜べない。
 でも、こうしてお茶しながら話していることは楽しかった。みーちゃんとも初めて会った気はしなく、マチコさんは相変わらず苦手だけど嫌いではない。ベロニカさんの意外な一面も見れて、あっという間に時を刻んでいった。

 目の前が真っ白に光、耐えられず目を擦る。
 気付いた時にはもう朝・・・。私はソファーに寝かされており、奥部屋にひとりきり。
 正面に見える肖像画だけが私に微笑んでいた。その横にかけてある時計に目をやると、なんともう7時。急に現実に戻された感じがして更に焦りが増した。
「起きた? おはようほのか」
 開けっ放しの扉からベロニカさんが顔を見せる。
「あの、あの! 私寝ちゃったんですか? あぁどうしよう、お母さんに怒られる・・・」
「今日は休日だから、友達の家に泊まったと言えばよろしいのでは? あながち嘘ではないでしょう?」
 そうだ、もう私たちは友達だ。きっと許してくれる。前の私なら怒られに行くことを疑わなかっただろう。
 本当に私は変われたんだな・・・。
「有り難う御座います! 今日はもう帰りますね」
「それが宜しいでしょう。また気が向いたらきなさいな」
「今日のベロニカさんは優しいままですね」
「んん? な・に・か?」
「いえ、失礼しますッ!!」
 あれ、前はこの石像ひび割れてなかったっけ・・・? それは身体の大きな魔女の石像。細身の魔女は綺麗なままだし、美人な魔女は未だ傷だらけ。
 修復するなら全てをするだろうし、ひとつだけを直すなんてなんだか不思議な話だ。
 その時頭に浮かぶ、クラスメイトが話していたこと。マチナミの店主は魔女・・・か。そんなはずないよね・・・?
 少し不安になる、突然現れる人たち。昨日話していたのは冗談だと思っていたけど、あれが本当だとしたらこの人たちは1000歳近くになるのだろうか?
 帰ったら二度寝しよう・・・。慣れない場所で寝たから疲れてるんだ。そうに決まってる。

 夜になっても頭から離れない・・・。人間は未知の物に恐怖を覚える・・・。それはSFな小説や映画では笑い話だが、実際に自分に降りかかると恐怖しかない。
 あんなに仲良くしていた人たちが魔女だったら、そんな不安だけで私たちの友情は壊れてしまうんだ・・・。あの崩れかけの石像のように。
 日曜日にすることなんてない。家にいたって落ち込むだけ・・・。なら、散歩にでも行こう。

 近所の土手・・・。普段はこんなところ来ないけど、今はいつもの町並みを見ていたくなかった。
 流石に朝は犬の散歩をしている人が多い。ほら、まただ。リードに繋がれた可愛い犬・・・・・・いぬ?
「ひぃ!」
「どうしたかな?」
「い、いえ・・・」
「ふっ、君はこの子を見てどう思うかね? 気味が悪いか、不気味で見ていたくないか?」
「・・・・・・・・・・・・」
 なんだか解からないそれは、こちらを見つめてくる。警戒心を持つ私には威嚇の眼差しにしか見えなかった。
「君は何か悩んでいるようだね。人は知りもしないものに出会うとそれを気味悪がる。それだけならまだしも、多人数が集まり自分が勝った気になれば囃し立てたりもする。やられているものにとってそれは気はしないだろう」
 少し歳がいった御爺さんは土手に腰をかけ語り始めた。恐らく実年齢よりずっと若く見えるんだろうと勝手に思ってしまっていた。ベロニカさんたちの影響だろうか・・・。
 私は御爺さんの言葉に惹かれ、聞いてみることにした。他に当てもないのだから・・・。
「誰かが受け入れてやらなくちゃいけない。イメージで人を決めつけていいものか? いや、駄目だ。その者の真意の魂の奥底を感じてからこそ、恐れたり、許したりしてやるべきなんだ。誰も争いなんて望んではいない。受け入れることこそが平和を作り上げるのだ」
「受け入れる・・・、ですか。でも、私・・・魔女なんて」
「彼女達がなにか悪さをしたのかな? いいや、君に光を教えてくれ、そして友と言ってくれたのではないのかな?」
「・・・・・・はい」
 あ・・・れ・・・?
「ふっ、自分らしく突き進むなら、イメージではなく自らの目を信じて見なさい。自らが感じたことで、彼女らへの態度を決めなさい。最後にどうするかは、自分自身の判断だ」
「御爺さんは魔女を知っているんですか? ベロニカさんたちを知っているんですか?」
「はっはっは! やっぱりベロニカ殿のお客かね。あぁ、知っているよ。他の魔女も色々な。それと御爺さんはやめてくれ、私のことは城崎ガイと呼んでくれ」
「は、はい。ガイさんはベロニカさんが魔女だって知っていたんですか?」
「ふっ、知っていたよ。彼女等はいい魔女だ。私もあの店の常連でね、ちょくちょく顔を出しているよ」
 驚いた・・・。まさか常連さんだったなんて・・・。
 私がガイさんの言葉に惹かれたのは、マチナミと同じ匂いを感じたからだったのかな・・・。
 段々と落ち着きを取り戻してきて、さっきは怖かったこの不思議な子犬も可愛く見えてくる。恐る恐る手を伸ばすと、ぺろぺろと舐めてきてくれた。
「あっ、可愛い!」
「君は感受性が強いようだ。ベロニカ殿が君を友と呼ぶのもわかる気がするな」
「どうしてですか?」
「ふっ、・・・君はいつか魔法が使えるからだよ。それは近いうちに訪れるかもしれないな」
「え・・・、えぇ!?」
「いい顔だ! はっはっは、まぁ頑張りなさい! 君なら成れるだろう」
 目を見開き吃驚している私の頭をポンッと優しく叩く。その手は実に暖かかった。
 そしてガイさんは手をふって歩き出す。散歩の続きをするようだ。見送っていると少し離れた場所で振り返りこういった。
「いい忘れていたが、この子は狐の子だよ。はっはっは」


 学校の授業なんて頭に入らない。私は今日、マチナミの人たちにいいたいことがある!!
 授業を終えるとすぐに走り出す。勿論先生には見付からないように少しこっそりと。
 輝かしい扉を前に唾を飲み込む。今日は吸い込まれていくんじゃない。自らの足で、歩いていくのだ。
「いらっしゃい! 今日は凄い形相ね・・・」
「え? そうですか!? 緊張しすぎたー・・・」
「あぁらいらっしゃい! ほのかちゃんこんなのどう?」
 またしても高いイヤリングを押し付けられる。それを叱るようにみーちゃんが口を出した。
「こら、大事な話の邪魔をするでない! マチコはけーわいじゃのう」
 杖でコテッと殴られると二人は奥へと入っていった。
 私は再びベロニカさんに向き直る。
「私、その・・・私」
「はい、いってごらんなさい」
「私、魔女に成りたいです!!」
「くすくす、あなたは私たちと話、そして笑いあって手に入れました。捨ててしまった自分の光を再び。その光を失わない限り、成れるでしょう。魔女に」
 ・・・・・・・・・・・・・・・!!
 私は外へ飛び出す。そして飛び跳ねながら精一杯叫んだ!
「やったぁぁぁあああ!!」


 明るい朝日、それは私の心の象徴。この町は光り輝いている。
 気分良く歩いていると、私の脇を少年が翔けていった。あの時の少年だ。

「私は言い方を間違えてしまったかのしれないわ」

 また危なっかしいことをしそうだと思っていると、本当に勢い良く転んでしまった。
 その光景がちょっと懐かしく、私はつい噴出してしまった。

「ほのか。あなたはもう成っている」

 私はすぐに駆け寄ってあげる。今度は絆創膏もある、完璧!
 いたいのいたいのとんでけーなど、子供だましではあるが一生懸命励ましてやる。

「あなたはもう使えるじゃない、魔法が・・・」

 精一杯の笑顔で撫でてあげる。それがどれだけ嬉しいことか。
 人に励ましてもらうことがどれだけ大切なものか、私は知っているから。

「それはファンタジー映画のような雷鳴や津波を起こすようなものと比べたらほのかなものだけど、その幸せは比べ物にならないくらい勝っているから」

 やっと少年は笑顔を取り戻す。有り難うと手を振ると、足の痛みなんて忘れてしまったかのようにスキップしていった。
 私も負けじと満面に浮かべた笑みで手を振った。

「ほのかの魔法・・・。それは人を笑顔にする魔法」
 あなたも立派な魔女に成れましたね。
 カップに残された紅茶を飲み干すと、ベロニカは崩れかけた石像を撫でる。
 店内を一度見回し、そして石像に身体を預ける。解けるように身体は透け、石像がベロニカを飲んでいった。それと同時にひびは消え、石像には命が宿った。

 町の朝日に煌く店内には、乱反射する綺麗な光と、美しく連なる三体の魔女の石像が笑みを浮かべていた。

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みんなの感想(1件)

関谷俊博
2016.08.25 関谷俊博

マチナミってお店がいいな。あったら行ってみたい。

解除

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