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空き部屋があるのは、幸いと言うべきだろうか。
農家の家、ということでこの家は最初から部屋数が多かった。
というよりも、大部屋が多いというべきか。
その中の一つで、比較的掃除がしやすそうな部屋を選んで、ヒロは部屋の準備を進めていた。
この部屋に人を迎えるのである。
それは本の二日前のことだった。
そうとは知らず、ヒロが悪漢から助けた女の子。
その女の子は、なんとこの国の姫、コノハ姫様だったのである。
色々あって、ヒロに礼がしたいということになり、コノハ姫とその父親であるアンク王と会うことになった。
そこまでは、まぁ、よかった。
気乗りはしなかったものの、喫茶店で極秘に顔を合わせて、とりあえず向こうから、
「助けてくれてありがとうございました」
と言われ、いくらかの謝礼をもらった。
ここまでは、良かった。
しかし、ここから先がイレギュラー中のイレギュラーだった。
なんと、そのコノハ姫の護衛を依頼されたのである。
その時のことを、床をモップで磨き上げながら、ヒロは思い返した。
***
「はい?」
「護衛だよ。娘を守って欲しい。
君だから頼むんだ」
「いやいやいや、何言ってるんですか?!」
ニコニコ笑ってアンク王は、戸惑うヒロに説明してくる。
それによると、数え切れないほどコノハ姫は暗殺されかけているらしい。
命を狙われる理由だが権力闘争だったり、大人の事情が複雑怪奇に絡んでいるとのことだった。
同席しているフェリオはポーカーフェイスのまま一言も口を開かない。
「それなら、えーと近衛兵とか親衛隊とか!
そういうプロに任せた方が良いと思いますよ?!」
必死に馬鹿な真似はよせ、早まるな、脳に蛆でもわいてんじゃねーか、病院行けという意味の言葉を、ヒロなりに丁寧に言い換えて、訴える。
「……変なことを聞くようだが、君は毒の臭いがわかる子かな?」
唐突に、アンク王はそんなことを口にした。
「毒?」
なんでここで毒の話題になるのかはさっぱりだ。
「毒味役もお願いしたい、という事ですか?」
「そうとも言うかな。
娘は、立場上物をもらうことがそれなりにあるんだ。
無下に出来ない相手からの贈り物だ。
だから受け取るしかない。
けれど、絶対安全とは言えない。
だから、毒味役が必要なんだ。
臭いだけでわかるならわざわざ食べる必要もないだろう?」
「それは、そうですけど」
どうにも、引っかかる。
ヒロは、不審そうにアンク王を見た。
どこか、確信を持ってヒロに仕事の依頼をしているようにしか見えないのだ。
そこに、疑問が生まれる。
ただの農耕士、それも移民である自分に、何故頼むのか。
たしかに、大きな蛇を倒した。
そして、コノハ姫のことも助けた。
これが彼の実力を証明するには十分なのは、わかる。
だが、護衛としては十分でも、なぜ毒味役まで任せようとするのか。
ヒロはアンク王を見る。
彼は、笑顔なだけでその奥底は見えなかった。
「それで、どうなんだい?
君は、臭いで判別可能なのかな?」
端的に言ってしまえば、出来る。
それこそ朝飯前だ。
ヒロはちらりと、コノハ姫を見た。
彼女自身も困っているのだろう、また不安そうな顔に戻って父親とヒロのやり取りを見ている。
「……できますよ」
このお人好しなところは、きっと死んだ父親に似たんだろうな。
そう考えつつ、ヒロはポリポリと頭をかき、コノハ姫を見た。
さっきからアンク王ばかりで、コノハ姫は喋っていない。
人見知りな性格なのか、それとも上流階級のマナーかなにかなのか、ヒロには判断出来なかった。
なので、平民らしい不敬さで、ヒロはコノハ姫をまっすぐ見て、尋ねた。
「コノハ様」
名前を口にされ、ハッと驚いたようにコノハ姫はヒロを見た。
「コノハ様としてはどうなんです?
困ってますか?
それと、俺なんかが護衛兼毒味役で安心できますか?」
この依頼の謝礼を出すのは、父であるアンク王だ。
でも、ヒロはもう1人の当事者の意見を、本人の口から聞いておきたかったのだ。
コノハ姫は、少し恥ずかしそうに顔を赤くして、コクン、と頷いた。
(マジかぁ)
そして、さらに仕事が増えた。
この話の流れで、ついでとばかりに、なんならしばらくコノハ姫をヒロの家に避難させてほしい、と打診されたのである。
さすがに、それは間違いが起こったら洒落にならない、と強くヒロは断った。
しかし、アンク王から、
「君の村出身の古い知り合いは、とても紳士だった。
学生の頃、この私を助けてくれた。
私だけじゃない。他の生徒も命を救われているんだ。
だから、そんな彼と繋がりのある、故郷を同じくする君を信じてるし、娘を預けるんだよ」
とてもいい顔でそんなことを言われ、押し切られてしまったのだった。
***
改めて、ヒロは思った。
「母ちゃんに知られたら、殺される」
考えがそのまま口に出た。
年頃の男女が、仕事とはいえひとつ屋根の下で同居。
字面にしてもなかなかインパクトがある。
母だけでなく、親同士が勝手に決めた許嫁に知られても八つ裂きにされる未来しかない。
そこだけは、アンク王に説明し、徹底的にお願いした。
絶対に自分が関わっていることは、漏らさないように、と。
アンク王が、物凄く楽しそうに微笑んでいたのが印象的だった。
とりあえず、今は掃除である。
黙々と部屋を綺麗にしていると、携帯に着信があった。
許嫁からだった。
農家の家、ということでこの家は最初から部屋数が多かった。
というよりも、大部屋が多いというべきか。
その中の一つで、比較的掃除がしやすそうな部屋を選んで、ヒロは部屋の準備を進めていた。
この部屋に人を迎えるのである。
それは本の二日前のことだった。
そうとは知らず、ヒロが悪漢から助けた女の子。
その女の子は、なんとこの国の姫、コノハ姫様だったのである。
色々あって、ヒロに礼がしたいということになり、コノハ姫とその父親であるアンク王と会うことになった。
そこまでは、まぁ、よかった。
気乗りはしなかったものの、喫茶店で極秘に顔を合わせて、とりあえず向こうから、
「助けてくれてありがとうございました」
と言われ、いくらかの謝礼をもらった。
ここまでは、良かった。
しかし、ここから先がイレギュラー中のイレギュラーだった。
なんと、そのコノハ姫の護衛を依頼されたのである。
その時のことを、床をモップで磨き上げながら、ヒロは思い返した。
***
「はい?」
「護衛だよ。娘を守って欲しい。
君だから頼むんだ」
「いやいやいや、何言ってるんですか?!」
ニコニコ笑ってアンク王は、戸惑うヒロに説明してくる。
それによると、数え切れないほどコノハ姫は暗殺されかけているらしい。
命を狙われる理由だが権力闘争だったり、大人の事情が複雑怪奇に絡んでいるとのことだった。
同席しているフェリオはポーカーフェイスのまま一言も口を開かない。
「それなら、えーと近衛兵とか親衛隊とか!
そういうプロに任せた方が良いと思いますよ?!」
必死に馬鹿な真似はよせ、早まるな、脳に蛆でもわいてんじゃねーか、病院行けという意味の言葉を、ヒロなりに丁寧に言い換えて、訴える。
「……変なことを聞くようだが、君は毒の臭いがわかる子かな?」
唐突に、アンク王はそんなことを口にした。
「毒?」
なんでここで毒の話題になるのかはさっぱりだ。
「毒味役もお願いしたい、という事ですか?」
「そうとも言うかな。
娘は、立場上物をもらうことがそれなりにあるんだ。
無下に出来ない相手からの贈り物だ。
だから受け取るしかない。
けれど、絶対安全とは言えない。
だから、毒味役が必要なんだ。
臭いだけでわかるならわざわざ食べる必要もないだろう?」
「それは、そうですけど」
どうにも、引っかかる。
ヒロは、不審そうにアンク王を見た。
どこか、確信を持ってヒロに仕事の依頼をしているようにしか見えないのだ。
そこに、疑問が生まれる。
ただの農耕士、それも移民である自分に、何故頼むのか。
たしかに、大きな蛇を倒した。
そして、コノハ姫のことも助けた。
これが彼の実力を証明するには十分なのは、わかる。
だが、護衛としては十分でも、なぜ毒味役まで任せようとするのか。
ヒロはアンク王を見る。
彼は、笑顔なだけでその奥底は見えなかった。
「それで、どうなんだい?
君は、臭いで判別可能なのかな?」
端的に言ってしまえば、出来る。
それこそ朝飯前だ。
ヒロはちらりと、コノハ姫を見た。
彼女自身も困っているのだろう、また不安そうな顔に戻って父親とヒロのやり取りを見ている。
「……できますよ」
このお人好しなところは、きっと死んだ父親に似たんだろうな。
そう考えつつ、ヒロはポリポリと頭をかき、コノハ姫を見た。
さっきからアンク王ばかりで、コノハ姫は喋っていない。
人見知りな性格なのか、それとも上流階級のマナーかなにかなのか、ヒロには判断出来なかった。
なので、平民らしい不敬さで、ヒロはコノハ姫をまっすぐ見て、尋ねた。
「コノハ様」
名前を口にされ、ハッと驚いたようにコノハ姫はヒロを見た。
「コノハ様としてはどうなんです?
困ってますか?
それと、俺なんかが護衛兼毒味役で安心できますか?」
この依頼の謝礼を出すのは、父であるアンク王だ。
でも、ヒロはもう1人の当事者の意見を、本人の口から聞いておきたかったのだ。
コノハ姫は、少し恥ずかしそうに顔を赤くして、コクン、と頷いた。
(マジかぁ)
そして、さらに仕事が増えた。
この話の流れで、ついでとばかりに、なんならしばらくコノハ姫をヒロの家に避難させてほしい、と打診されたのである。
さすがに、それは間違いが起こったら洒落にならない、と強くヒロは断った。
しかし、アンク王から、
「君の村出身の古い知り合いは、とても紳士だった。
学生の頃、この私を助けてくれた。
私だけじゃない。他の生徒も命を救われているんだ。
だから、そんな彼と繋がりのある、故郷を同じくする君を信じてるし、娘を預けるんだよ」
とてもいい顔でそんなことを言われ、押し切られてしまったのだった。
***
改めて、ヒロは思った。
「母ちゃんに知られたら、殺される」
考えがそのまま口に出た。
年頃の男女が、仕事とはいえひとつ屋根の下で同居。
字面にしてもなかなかインパクトがある。
母だけでなく、親同士が勝手に決めた許嫁に知られても八つ裂きにされる未来しかない。
そこだけは、アンク王に説明し、徹底的にお願いした。
絶対に自分が関わっていることは、漏らさないように、と。
アンク王が、物凄く楽しそうに微笑んでいたのが印象的だった。
とりあえず、今は掃除である。
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