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「あ、あの、今日からよろしくお願いいたします」
玄関にて、身の丈もある大きなスーツケースを脇に置き、優雅な所作で頭を下げた少女。
コノハ姫である。
「いらっしゃいませ。
どうぞ、入ってください」
そう言って、ヒロは彼女を家の中へ招き入れた。
その際、ヒロはキョロキョロと外を確認した。
どうやら、事前に言われていたように彼女一人のようだ。
侍女はおろか、隠れて護衛する者もいない。
少なくとも、ヒロにはその存在を感知出来なかった。
いるのかもしれないし、いないのかもしれない。
しかし、アンク王の言葉を信じるなら、いないはずだ。
まずは、部屋に案内する。
「ここが姫様の部屋です。
好きに使ってください。
お茶を淹れてきます。
出来たら呼ぶので、リビングに来てください」
「わ、わかりました」
こうして、二人の同居が始まったのだった。
とりあえず、彼女のことは農業を学ぶために受け入れた研修生ということにした。
農業ギルドの方にも根回しがされていた。
ちなみに、コノハ姫は王都にある名門と名高い女学院に籍を置いているものの、基本的には家庭教師が教えていてたまに登校するだけの生活だったようだ。
この家に来てからの勉強については、王宮から課題が届きそれをこなして送り返すという方法に変えたらしい。
一応研修生ということで話が通っているコノハ姫には、パフォーマンスとして畑や田んぼの手伝いをしてもらうことになっていた。
恐れ多いなぁ、とビクビクしつつ、それでも翌日の早朝には二人並んで畑に立っていた。
「それじゃ、よろしくお願いします」
やり方を説明し、道具を渡す。
最初なので、とりあえず草刈でもしてもらおうと考えた。
軍手をはめて、草刈り鎌を手にし、中腰で作業をする姿は慣れていなくて危なっかしく見えた。
しかし、意外なことに腰痛などにはならなかったようだ。
だが、
「アンギャぁぁあああ!?」
突然悲鳴あがった。
見れば、顔の大きさほどもあるカエルがコノハ姫へと飛び掛かっているところだった。
カエルはコノハ姫の顔へダイレクトアタックを決めて張り付く。
コノハ姫はそのまますっころんでしまった。
情け容赦なくべたべたの体を、コノハ姫の顔面に押し付け、ゲコゲコ鳴くカエルはどこか誇らしそうだ。
ヒロはそのカエルを引っぺがして、ぽいっと投げる。
カエルは難なく着地し、素知らぬ顔でどこかへと行ってしまう。
「大丈夫ですか??」
抱き起こしながら声をかけると、彼女は怖いのとヌルヌルのベタベタで気持ち悪いのとで泣いていた。
すぐさま軽トラに走って、予備のタオルを持ってきて顔を拭いてやった。
(うーん、俺って母ちゃんみたいだ)
「うぅ……っ」
悲鳴を上げたことも恥ずかしかったのか、コノハ姫はしばらく顔を真っ赤にしていた。
「ちょっと軽トラで休んでてください」
ヒロとしては気を使っての言葉だった。
しかし、役立たずのレッテルを貼られたとコノハ姫は考えたようだ。
咄嗟に、
「大丈夫です!!」
と勢いよく返された。
「え、でも」
「大丈夫ですから!!」
そう口にして、思わず放り出してしまった草刈り鎌を拾い、握りしめて作業に戻ったのだった。
ヒロは少し苦笑して、自分の仕事に戻った。
そこからチラチラと軍手をしていても慣れていないため、危なっかしい手つきで草刈りをする、この国のお姫様に注意をはらう。
予定より少し遅れたものの、収穫と草刈を終えることができたのだった。
そこから、野菜を年季の入った箱に詰める。
木箱とプラスチックのコンテナと二種類あることに、コノハ姫は不思議そうにしている。
というか、興味があったようだ。
「ダンボール箱は使わないんですか?」
「あー、それはちゃんとお店にならぶやつなんで。
これは、言ってしまえば規格外品も入ってるんですよ。
だから、こういう箱に入れるんです。
ダンボールは基本行ったっきりだけどこの箱は何度でも使えますから」
あと、ダンボールだと土を落とすために洗い流すので、濡れて箱がぐちゃぐちゃになってしまうという点もある。
ちゃんと乾かせればいいが、あいにくそんな魔法も時間もヒロには無いのだ。
「そうだコノハ様。
シャワーは帰って来てからになります。
短い間ではありますが、慣れてくださいね」
他所の家はどうか知らないが、少なくともヒロはずっとそうしてきた。
そのことを説明すると、コノハ姫は少し戸惑ったものの了承してくれた。
軽トラに乗って、王都にある農業ギルドに向かう道すがら、おもむろにコノハ姫は口を開いた。
「何というか、お世話になるのでせめてお仕事ではお役に立とうとしたんですが、変な所ばかりおみせしてしまいました」
「いえいえ、それより驚かれたでしょう?」
「えぇ、とっても!!
父が趣味で家庭菜園をしているのですが、規模もなにもかもが違っていて、新鮮でした。
カエルも、あんなに大きいのを実物で見るのは初めてです」
「カエルにあんな風に飛び掛かられたのも初めてですよね?」
「そうですね。王宮内はたしかに緑はありますが徹底的に管理されているので、虫もカエルもほとんど見ません」
「それはうらやましい!」
「うらやましい、ですか?」
「害獣も害虫もいないってことでしょう?」
「え、でも、そういった存在がいる方が良いのでは無いのですか?」
「時と場合によりますよ。
少なくとも、ちゃんとした食べ物を収穫するということは、そういった害虫や害獣との闘いですから」
それこそ、今はまだいいがこれからは害獣の強襲にも気を付けなればならないだろう。
あとで、そのこともコノハ姫に説明しなければならない。
軽い会話は、なんとか弾んだと思う。
コノハ姫が楽しんでいたかは不明だが。
それにしても、好奇心は邪推をさせやすい。
好き勝手な妄想とも言う。
農業ギルドにて、ヒロはそれを嫌というほど味わうことになった
玄関にて、身の丈もある大きなスーツケースを脇に置き、優雅な所作で頭を下げた少女。
コノハ姫である。
「いらっしゃいませ。
どうぞ、入ってください」
そう言って、ヒロは彼女を家の中へ招き入れた。
その際、ヒロはキョロキョロと外を確認した。
どうやら、事前に言われていたように彼女一人のようだ。
侍女はおろか、隠れて護衛する者もいない。
少なくとも、ヒロにはその存在を感知出来なかった。
いるのかもしれないし、いないのかもしれない。
しかし、アンク王の言葉を信じるなら、いないはずだ。
まずは、部屋に案内する。
「ここが姫様の部屋です。
好きに使ってください。
お茶を淹れてきます。
出来たら呼ぶので、リビングに来てください」
「わ、わかりました」
こうして、二人の同居が始まったのだった。
とりあえず、彼女のことは農業を学ぶために受け入れた研修生ということにした。
農業ギルドの方にも根回しがされていた。
ちなみに、コノハ姫は王都にある名門と名高い女学院に籍を置いているものの、基本的には家庭教師が教えていてたまに登校するだけの生活だったようだ。
この家に来てからの勉強については、王宮から課題が届きそれをこなして送り返すという方法に変えたらしい。
一応研修生ということで話が通っているコノハ姫には、パフォーマンスとして畑や田んぼの手伝いをしてもらうことになっていた。
恐れ多いなぁ、とビクビクしつつ、それでも翌日の早朝には二人並んで畑に立っていた。
「それじゃ、よろしくお願いします」
やり方を説明し、道具を渡す。
最初なので、とりあえず草刈でもしてもらおうと考えた。
軍手をはめて、草刈り鎌を手にし、中腰で作業をする姿は慣れていなくて危なっかしく見えた。
しかし、意外なことに腰痛などにはならなかったようだ。
だが、
「アンギャぁぁあああ!?」
突然悲鳴あがった。
見れば、顔の大きさほどもあるカエルがコノハ姫へと飛び掛かっているところだった。
カエルはコノハ姫の顔へダイレクトアタックを決めて張り付く。
コノハ姫はそのまますっころんでしまった。
情け容赦なくべたべたの体を、コノハ姫の顔面に押し付け、ゲコゲコ鳴くカエルはどこか誇らしそうだ。
ヒロはそのカエルを引っぺがして、ぽいっと投げる。
カエルは難なく着地し、素知らぬ顔でどこかへと行ってしまう。
「大丈夫ですか??」
抱き起こしながら声をかけると、彼女は怖いのとヌルヌルのベタベタで気持ち悪いのとで泣いていた。
すぐさま軽トラに走って、予備のタオルを持ってきて顔を拭いてやった。
(うーん、俺って母ちゃんみたいだ)
「うぅ……っ」
悲鳴を上げたことも恥ずかしかったのか、コノハ姫はしばらく顔を真っ赤にしていた。
「ちょっと軽トラで休んでてください」
ヒロとしては気を使っての言葉だった。
しかし、役立たずのレッテルを貼られたとコノハ姫は考えたようだ。
咄嗟に、
「大丈夫です!!」
と勢いよく返された。
「え、でも」
「大丈夫ですから!!」
そう口にして、思わず放り出してしまった草刈り鎌を拾い、握りしめて作業に戻ったのだった。
ヒロは少し苦笑して、自分の仕事に戻った。
そこからチラチラと軍手をしていても慣れていないため、危なっかしい手つきで草刈りをする、この国のお姫様に注意をはらう。
予定より少し遅れたものの、収穫と草刈を終えることができたのだった。
そこから、野菜を年季の入った箱に詰める。
木箱とプラスチックのコンテナと二種類あることに、コノハ姫は不思議そうにしている。
というか、興味があったようだ。
「ダンボール箱は使わないんですか?」
「あー、それはちゃんとお店にならぶやつなんで。
これは、言ってしまえば規格外品も入ってるんですよ。
だから、こういう箱に入れるんです。
ダンボールは基本行ったっきりだけどこの箱は何度でも使えますから」
あと、ダンボールだと土を落とすために洗い流すので、濡れて箱がぐちゃぐちゃになってしまうという点もある。
ちゃんと乾かせればいいが、あいにくそんな魔法も時間もヒロには無いのだ。
「そうだコノハ様。
シャワーは帰って来てからになります。
短い間ではありますが、慣れてくださいね」
他所の家はどうか知らないが、少なくともヒロはずっとそうしてきた。
そのことを説明すると、コノハ姫は少し戸惑ったものの了承してくれた。
軽トラに乗って、王都にある農業ギルドに向かう道すがら、おもむろにコノハ姫は口を開いた。
「何というか、お世話になるのでせめてお仕事ではお役に立とうとしたんですが、変な所ばかりおみせしてしまいました」
「いえいえ、それより驚かれたでしょう?」
「えぇ、とっても!!
父が趣味で家庭菜園をしているのですが、規模もなにもかもが違っていて、新鮮でした。
カエルも、あんなに大きいのを実物で見るのは初めてです」
「カエルにあんな風に飛び掛かられたのも初めてですよね?」
「そうですね。王宮内はたしかに緑はありますが徹底的に管理されているので、虫もカエルもほとんど見ません」
「それはうらやましい!」
「うらやましい、ですか?」
「害獣も害虫もいないってことでしょう?」
「え、でも、そういった存在がいる方が良いのでは無いのですか?」
「時と場合によりますよ。
少なくとも、ちゃんとした食べ物を収穫するということは、そういった害虫や害獣との闘いですから」
それこそ、今はまだいいがこれからは害獣の強襲にも気を付けなればならないだろう。
あとで、そのこともコノハ姫に説明しなければならない。
軽い会話は、なんとか弾んだと思う。
コノハ姫が楽しんでいたかは不明だが。
それにしても、好奇心は邪推をさせやすい。
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