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ハジマリの話

前編

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その日、世界は滅んだ。
なんの前触れもなく、あっけなく、滅んだ。
いきなりだ。
本当に、唐突に、それは起こったのだ。
彼は呆然と、周囲を見回した。
見慣れた光景が広がっている。
畑があって、田んぼがあった。
十五年、見続けてきた光景が広がっている。
でも、実った作物は枯れている。
それだけじゃない。

「母さん、親父、じいちゃん、ばあちゃん……」

泣くのを必死に堪え、彼は倒れ伏して動かない家族を呼んだ。

返事はない。
返事はない。
返事はない。
返事はない。

さっきまで、普通に生きていた。
動いていた。
それなのに、今は死んでいる。
彼は、生きているものがいないか、探し回る。
口にするのは、

「フェイ、カイ、クロッサ……」

弟たちの名前だ。
妹たちの名前だ。
順番に名前を呼んでいく。
しかし、誰も返事をしない。
倒れて動かない。
誰も彼もが動かない。
それは、地獄だった。
訳が分からなかった。
彼――ウカノ・サートゥルヌスは、訳がわからなかった。
ただ一つ、理解出来たのは。
彼だけが、ウカノだけが生きているということ。

やがて、

「シン、シンノウ」

産まれたばかりの弟の名前を口にした。
まだ、産まれたばかりで、小さくて、壊れそうなほど小さくて。
でも、声はない。
泣き声すら、ない。

「あ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ」

理解できなかった。
どうして、皆死んでいるのだろう?
何故、自分は生きているのだろう?
わからない。
わからない。
わからない。
だから、声を出すしかなかった。
取り残されたこの世界で、たった一人声を出して、幼い子供のように泣きじゃくるしかなかった。
頭がおかしくなりそうだ。

そんな彼に、声が届いた。

「あっ、おーい!!
こっちこっち!!
生きてる奴、居たぞー!!」

声の方へ、振り向く。
まず、ウカノの目に入ったのは、綺麗なピンク色だった。
続いて、黒が現れて。
最後に、馬が現れた。
何を描写しているのかわからないだろうが、この時ウカノの見た光景を描写するとこうなってしまうのだ。
ピンク、黒、馬。
ピンクは髪の色だった。
ピンク色の髪をした、女神のような美しい少女だ。
黒も髪の色だ。
こちらは、自分の父親よりも上だろうと思われる男性だった。

そして、馬。
頭が馬で、体は人間のよくわからない生き物が少女に促され、ウカノを見ていた。
ウカノの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
でも、それは仕方の無いことだった。
だって、なんの前触れもなく、世界が壊れて滅んだのだ。
そして、家族まで全て亡くしたのだ。
あまりの毒親ぶりに、いつか絶対ぶっ殺す、と決めていたクソ親父ですら、呆気なく死んだのだ。
世界にただ一人、彼だけが取り残されていた。

馬と黒が何やら言葉を交わしている。
そして、ピンクがウカノへと近づいてくる。

「さてさて、ふむ」

ピンクはウカノを見て、なにやら思案しているようだった。
やがて、

「災難だったなぁ、お前」

なんて言って、ウカノへ手を差し出してきたのだった。

「とりま、俺たちと一緒に来い」

こんな地獄のような光景の中で。
壊れてしまった世界の中で。
滅んでしまった世界の中で。

その手はあまりにもキラキラと輝いて見えた。
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