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7章 偶像崇拝

地雷(踏み抜く)系女子

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「まともにログインすらしてないからもうやめたのかと思った」

 ブランド女は神を搔き上げ、そう言った。

「まともなネット環境がない場所にいてね」

「今時ネット環境がないとか人類未開の土地じゃん」

 実際に普通の人間にはたどり着けない場所にあるため、その表現は大きく間違っていない。

「まー否定はしないな」

「無人島だったらアレよね。昔の配信者に何故か流行った無人島生活みたい。誰も彼もブームに乗っかって、乱立しまくって、結局推しの無人島生活しか見ないアレ。というか配信者だったりする?」

「配信者ではないが、有名人だな」

「嘘はよくないなぁ。君みたいなのが芸能人とかだったら夢も希望もなくなるじゃん。もし芸能人だったなら、素敵な振る舞いの一つでもしてもっと夢見させてよ」

「いい年なんだから有名人に夢を見るな。そのクソみたいな希望もさっさと捨ててしまえ」

「まだ生後四年相手に現実見させるのいけないと思いまーす」

「ガキならさっさと寝ろ」

「そこは生後四年なわけないだろうって突っ込んでよ」

「なんだ久しぶり会いにきたと思ったら喧嘩がご希望か」

 視線を合わさず言うと、ブランド女は肩を竦める。

「こんなの私たちの間じゃご挨拶でしょ。あ、でも街中では嫌かな。男女の諍いだと思われたくないし」

「それは同感だな」

「これでもモテる女相手にそれは酷い」と文句を垂れつつブランド女が横に座る。

「そんで前言ってた悩み解決した?」

 作戦前日にブルースフィアで会ったときに話したことだろう。その時から立場が大きく変わって、困っているということを話した。数少ない知り合いの中じゃ、関係者とは程遠いこの女が一番愚痴を話しやすい相手になっていた。因果なものである。

「――それで、最終的にはむしろ悪化したな」

 世界を股にかけるテロリスト扱いを受ける日々である。バディであった頼りになる女性は殉死した。これを悪化と呼ばずして何と呼ぶのか。

「ふーん、無理しないでね。したくもない心配しちゃうから」

「お前に心配されちゃお終いだな」

「人を心無いみたいに言わないでくれる? こー見えても仕事じゃあ、みんなのお悩み相談承ってるんだから。ま、何かストレス発散する方法あるならそっち頑張れってだけなんだけど、そういうのってあるの?」

「シオミンの配信見ることだな」

 そう答えたら「マジかこいつ」って顔をされる。具体的には目は細くなり、舌を出していた。苦すぎるものでも食べたような顔つきであった。

「なんだその顔は」

 そう文句をつけると「一番聞きたくない名前が出てきて辟易してる顔」と返ってきた。

 ブランド女はその表情のまま続ける。

「アレそんないいもんなの?」

 そう言われたもんだから小一時間シオミンについて語り尽くそうと思ったものの精神年齢生後四年に言うのは可哀相だと思いとどまり「どうしてそう思うんだ?」と大人の余裕を見せつけてやった。

「中身空っぽじゃん。アレ」

 ようし、その喧嘩買った。
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