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8章 神と巫女
交渉の席がなくなった場合の帰結例
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「桜庭は親友じゃないのか?」
全ての予定が狂ったのかケイオスは目を見張る程度にはうろたえたように見える。
「親友だよ。けどそれと人質としての価値を担保するかどうかは別問題だ」
「何を言っているんだ。親友とは命を掛けても助けたいものであり、親友のためなら何でもやれるものなのではないのか。メロスとセリヌンティウスのように」
「俺らはそんな美しい関係じゃない」
そう言ったが妹の結婚式に出るために親友を売るところまではクソみたいな関係性であるなとも思ったが口にはしない。
「俺らは親友だが、互いに互いをクズ野郎と思ってる。恩を売り合うし、恩には利子をつけて返して貰う。返して貰うアテすらないのに助け合うような生温い関係じゃない。むしろ、裏切りあうからこそ信用できる。俺がメロスなら絶対に帰らないし、アイツがセリヌンティウスならそもそも王の呼び出しから逃げ出して代わりを用意できなくて処刑される様を高みの見物を決め込むだろうな」
信じられないようなものを見る目をケイオスはした。
「ありえない。なんでそんな関係性で親友になれたんだ」
「およそ人として落第点つけられる者同士が出会ったら無二の親友になるか生涯の敵になるかの二つに一つしかないだろう」
「……お前頭おかしいんじゃないか」
「世界滅ぼそうとしている奴に言われてもな」
「それを認めたら僕がしたことの意味なんてないじゃないか」
「なんの話だ」
ケイオスは舌打ちを一つ。
「もういい。もういいよ。君と話すのは不愉快だ」
ケイオスは立ち上がる。
「待てよ。せっかくだから桜庭の近況でも教えろよ」
「知ってるでしょ。あの模造品の魂を捕えようとして出向いたら君と出会ったそうじゃないか」
汐見のことか。
「君に出会って失敗したらしいが僕にとってはあんな栄養もなければ、神使にするのも覚束ない三流品なんかいらないよ」
挑発だ。汐見がAIであることを知って、そう言っているのだ。買う必要のない喧嘩だ。ここで買ったら店や従業員、ひいては里に被害が出る。ケイオスも言っていた通り、コイツ自身も樹神さんや退魔師がいるこの場で争えばタダでは済まないだろうが、被害は確実に出る。だから買ってはいけない。
「まともな手段じゃあ神様に選ばれないからって禁忌を犯した奴が随分と偉そうな口を叩いたな。汐見が三流品なら、お前は炎上でしか注目を集められない最底辺だろう」
だが買った。汐見を馬鹿にされて冷静でいられるほど大人ではない。
ケイオスは机に腕を鉄槌の如く振り下ろす。
凄まじい衝突音。
机は真っ二つに割れ、地面に崩れる。
静まり返った店内でケイオスの激しい息遣いだけが聞こえた。
「……僕は完璧だ。二度とそういうことをいうな」
そう言い残してケイオスは作り出した虚空に身を隠した。
その後すぐに看板娘の雪女が音を聞きつけて個室に入ってきて、真っ二つに割れた机を指差した。
「これはどういうことですか!」
それだけでも困りものなのに、結界内にケイオスが力の一端を行使したため、五分もしないうちに里の退魔師がぞろぞろと店内に乗り込んでくる。
そうなるともうてんやわんやの大騒ぎ。
雪女は机の弁償や掃除とかどうするつもりなのかと俺に問いただしたいが、何があったのか聞き出したい退魔師たち。気が強い雪女は退魔師相手に一切引かず、むしろ営業の邪魔だからと追い出そうとすらした。退魔師も職務があって、はいそうですかとはいかずに押し問答。そこに騒ぎを聞きつけた野次馬が集まり、少し遅れて北御門や樹神さん、西野さんや堂島さんたちも到着する。
俺を囲んでみんながみんなあーだこーだ言い合う。
誰も彼も自分の話をし出すせいで、誰かが一旦外に出ましょうと提案したのはケイオスが消えてから三十分も経過した後であった。
全ての予定が狂ったのかケイオスは目を見張る程度にはうろたえたように見える。
「親友だよ。けどそれと人質としての価値を担保するかどうかは別問題だ」
「何を言っているんだ。親友とは命を掛けても助けたいものであり、親友のためなら何でもやれるものなのではないのか。メロスとセリヌンティウスのように」
「俺らはそんな美しい関係じゃない」
そう言ったが妹の結婚式に出るために親友を売るところまではクソみたいな関係性であるなとも思ったが口にはしない。
「俺らは親友だが、互いに互いをクズ野郎と思ってる。恩を売り合うし、恩には利子をつけて返して貰う。返して貰うアテすらないのに助け合うような生温い関係じゃない。むしろ、裏切りあうからこそ信用できる。俺がメロスなら絶対に帰らないし、アイツがセリヌンティウスならそもそも王の呼び出しから逃げ出して代わりを用意できなくて処刑される様を高みの見物を決め込むだろうな」
信じられないようなものを見る目をケイオスはした。
「ありえない。なんでそんな関係性で親友になれたんだ」
「およそ人として落第点つけられる者同士が出会ったら無二の親友になるか生涯の敵になるかの二つに一つしかないだろう」
「……お前頭おかしいんじゃないか」
「世界滅ぼそうとしている奴に言われてもな」
「それを認めたら僕がしたことの意味なんてないじゃないか」
「なんの話だ」
ケイオスは舌打ちを一つ。
「もういい。もういいよ。君と話すのは不愉快だ」
ケイオスは立ち上がる。
「待てよ。せっかくだから桜庭の近況でも教えろよ」
「知ってるでしょ。あの模造品の魂を捕えようとして出向いたら君と出会ったそうじゃないか」
汐見のことか。
「君に出会って失敗したらしいが僕にとってはあんな栄養もなければ、神使にするのも覚束ない三流品なんかいらないよ」
挑発だ。汐見がAIであることを知って、そう言っているのだ。買う必要のない喧嘩だ。ここで買ったら店や従業員、ひいては里に被害が出る。ケイオスも言っていた通り、コイツ自身も樹神さんや退魔師がいるこの場で争えばタダでは済まないだろうが、被害は確実に出る。だから買ってはいけない。
「まともな手段じゃあ神様に選ばれないからって禁忌を犯した奴が随分と偉そうな口を叩いたな。汐見が三流品なら、お前は炎上でしか注目を集められない最底辺だろう」
だが買った。汐見を馬鹿にされて冷静でいられるほど大人ではない。
ケイオスは机に腕を鉄槌の如く振り下ろす。
凄まじい衝突音。
机は真っ二つに割れ、地面に崩れる。
静まり返った店内でケイオスの激しい息遣いだけが聞こえた。
「……僕は完璧だ。二度とそういうことをいうな」
そう言い残してケイオスは作り出した虚空に身を隠した。
その後すぐに看板娘の雪女が音を聞きつけて個室に入ってきて、真っ二つに割れた机を指差した。
「これはどういうことですか!」
それだけでも困りものなのに、結界内にケイオスが力の一端を行使したため、五分もしないうちに里の退魔師がぞろぞろと店内に乗り込んでくる。
そうなるともうてんやわんやの大騒ぎ。
雪女は机の弁償や掃除とかどうするつもりなのかと俺に問いただしたいが、何があったのか聞き出したい退魔師たち。気が強い雪女は退魔師相手に一切引かず、むしろ営業の邪魔だからと追い出そうとすらした。退魔師も職務があって、はいそうですかとはいかずに押し問答。そこに騒ぎを聞きつけた野次馬が集まり、少し遅れて北御門や樹神さん、西野さんや堂島さんたちも到着する。
俺を囲んでみんながみんなあーだこーだ言い合う。
誰も彼も自分の話をし出すせいで、誰かが一旦外に出ましょうと提案したのはケイオスが消えてから三十分も経過した後であった。
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