ほんわか騎士団首都日誌 ~無自覚美少年と筋肉幼馴染のすれ違いな日常~

kei

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~ シェガラン17歳 ~ 新年の「精霊の木陰亭」

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新年の村は、祭りの余韻で人も旅人も多く、宿屋兼食堂「精霊の木陰亭」は一年で一番の繁忙期を迎えていた。
ルシェファンが王宮の舞踏会に出席している間、シェガランは毎年恒例のように実家へ戻り、手伝いに精を出していた。

「シェガラン、こっちの客室の掃除もお願いね」
「分かった母さん。すぐ行くよ」

リサノアに声を掛けられ、シェガランはきびきびと動く。
食堂では木の椅子や机を拭き、厨房では食材を切り食器を洗い、宿屋では布団を干し、荷物運びまで。
その姿は手慣れていて、働く背中は凛々しい。

――と、そこに村の娘たちが群れをなしてやって来た。

「シェガラン、お手伝いするわよ!」
「そうそう、私も! 料理ぐらい出来るわよ!」
今年もルシェファンを伴わずに一人で帰ってきたと聞きつけ、今こそチャンス!とばかりに、ニコニコと笑顔で押し寄せる少女たち。
しかし――

「わっ、に、にんじんが黒焦げに!」
「きゃっ、塩をひと瓶丸ごと入れちゃった!」

リサノアが眉を吊り上げた。
「ちょっと、アンタたち! うちの厨房の食材を無駄にする気かい!? 
 ルシェファンぐらい出来るようになってから来るんだね!」
「す、すみませーんっ💦」

少女たちは泣きながら逃げて行った。


――一方そのころ、宿屋の方では。

「シェガランの役に立ちたいの♡」
と宿屋の掃除に潜り込んだ別の少女が、ちょうど廊下で出会った大きな影に飛びついた。

「あぁ~ん。お手伝いって疲れるわねぇ~、ちょっと休ませてぇ~♡」
「……おい」

低い声に気付いて顔を上げると、そこにいたのはシェガランの父:ノルガンドだった。
筋骨逞しい大男が眉間に皺を寄せ、腕を組んでいる。

「お前は誰だ!勝手に入ってくるな!」
「ひっ……! す、すみませーーんっ!!💦」

少女は脱兎のごとく走り去った。

ノルガンドはため息をつき、首を傾げる。
「なんなんだ、一体。最近やたらと妙な娘どもが湧いて出るなぁ……」

――そして、当のシェガランは。

「父さん、この部屋の荷物、運び終わったよ」
「おう」
「じゃぁ、ちょっと刺繍しに部屋に帰るよ」
「……お前は本当に……」
ノルガンドは溜め息交じりで、二階に上がっていく息子を見送った。

シェガランは二階の自室に戻り、机の上に広げた白い布を手に取った。
それはルシェファンのために用意した、新しいエプロン。



刺繍糸を選びながら、彼は自然と頬を緩める。
「新しい年の初めだし……何か特別な模様を入れたいな。
 やっぱり雪華模様は入れなきゃだよな。それにルシェファンが好きそうな花か?」

窓の外では、村娘たちがまだ「シェガラン~!」と騒いでいたが――
刺繍に没頭する彼の耳には、何ひとつ届かない。

夜は静かに更けていき、ランプの灯りの下で針が小さな音を立てて進む。

シェガランの心は、ただ一人の幼馴染に向けられていた。

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