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しおりを挟む紫苑は、通話を終えた。
波留が鼻をすすりながら、訊いてくる。
「由樹さん、何て?」
「元気でな、って」
「そう……」
しおれた波留の気持ちを上げようと、紫苑は少しだけ明るい声を出した。
「由樹に、バラされちゃったけど。波留、お前が好きだ」
「紫苑」
「来夢より俺の方が先に、波留を好きになったんだぜ。覚えてる? 初めて、この家に来た時のこと」
「覚えてるよ。小林くんたちと一緒に、お邪魔したよね」
そしたら、来夢のやつがどんどん波留を口説きにかかって……。
そうだね、そうだったね、と波留は紫苑の手を取り、過去を振り返った。
『君、可愛いね。名前、何て言うの?』
『オメガで北陽高校に入学できるなんて、すごいじゃん』
『俺は、アルファなんだけど。ね、運命のつがいって、信じる?』
来夢の言葉を思い出し、波留は頬を染めた。
「子どもだったね、僕。あんな言葉で、すっかりその気になっちゃって」
運命のつがい、か。
波留は、由樹の言葉で、それをなぞった。
『僕の幸せは、僕が決めるんだ。僕の選んだ道を進んで』
うん、と波留はうなずいた。
運命のつがいなんて、いらない。
僕のパートナーは、僕が決める。
波留は、もう泣いてはいなかった。
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