金曜日の少年～「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく～

5

　意外なことに、生徒会室には、伊織の他には誰もいなかった。
「読んだよ。手紙」
「……」
　伊織の前に出ると、身がすくんで喋れなくなってしまう駿だ。
　黙っていると、伊織の方から、突然まくし立てて来た。
「どうして、私宛じゃないのかな？　この手紙は！　なぜ君は、私より篠崎を選んだんだ！」
「え！？　え？　え？」

『親愛なる篠崎さん、あなたをお慕いしています。
　あなたは、僕の光です。
　一度会って、お話しがしたいと思っています。
　一度だけで、いいのです。お願いします』

　ふん、と伊織は鼻を鳴らした。
「篠崎がオメガだからか？　オメガ同士で、つるみたいのか」
　話しなら、私がしてやろう、と伊織は椅子にふんぞり返った。
「話題は？　株価指数？　トーハクの国宝？　宇宙線アマテラス粒子？」
　残念ながら、駿にはどれも、ちんぷんかんぷんだ。
　仕方がないので、自分が知りうる一番新しい、素敵な話題を伊織に提供した。
「花壇の菊の花が咲いてて、とってもきれいです」
　ほう、と伊織は少し感心したようだった。
「朝食のメニューでも喋り出すかと思ったら。意外に雅だな」
　そしてすぐさま、立ち上がった。
「よし、観に行こう」
「ええっ！？」
　案内しろ、と伊織はすでに歩き始めている。
（話しだけで済むと思ったのに！）
　仕方なく、駿はのろのろと椅子から立ち上がった。