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貴士の部屋には、お茶の支度が整っていた。
高価な茶器に、特級の茶葉。
そして、貴士がソファに掛けて待っていた。
「どうした。早く君も掛けたまえ」
「あの、他の方は?」
貴士のことなので、バリスタや使用人がいる、と思っていた悠希。
だが、そこには貴士一人しかいなかった。
「君の腕前を、試したくなってね」
「腕前、ですか」
そう、と貴士は指を組んだ。
「あれだけ凝った弁当を作るくらいだ。紅茶を淹れることなど、造作もないだろう」
絹のスカーフに包んだ植木鉢をテーブルに置き、悠希はうなずいた。
「僕でよければ、喜んで」
「期待してるよ」
悠希は、てきぱきと動き始めた。
簡易キッチンで湯を沸かし、まず茶器を温める。
茶葉の種類を見極めて、湯の温度と抽出時間を決める。
茶葉の量も、きちんと量った。
やがて芳しい紅茶の香りが部屋中に漂い、貴士は満足げに微笑んだ。
「さすが九曜家の子息。一分の隙も無い」
「他に、取柄も無いんです」
謙遜した悠希だったが、彼の淹れた紅茶を一口飲むと貴士は瞼を閉じた。
(完璧だ)
まろやかで、とろけるような味わい。
その中に潜む、きりっとしたコク。
茶葉の持つ旨味を、最大限に引き出している悠希の腕前は、本物だった。
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