春風のように君を包もう ~氷のアルファと健気なオメガ 二人の間に春風が吹いた~

大波小波

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 屋敷に戻った貴士の隣に、悠希がいない。
 使用人たちは、それだけで全てを察した。
 残念だが。
 悠希さまは、他の方々とは違うと思っていたが。
 あの方ならば、貴士さまの氷の心を溶かしてくださると信じていたが。
 しかし、誰もそれらを口に出さなかった。
 貴士もまた、常日頃のように振舞った。
 シャワーを浴び、お茶を飲み。
 残務をこなし、夕食を摂り。
 バスタブでくつろぎ、寝酒を嗜む。

『お休みになる前のお酒は、あまり体に良くないと聞きます』
 
 悠希の言葉が、思い出された。
「好きで飲んでいるんだ。放っておいてくれないか」
 ぼそりとつぶやいた後、言い直した。
「そうだな。だが、今夜は酔いたい気分なんだ」
 飲んで、酔って。
 忘れてしまいたい。
 全てを。
 この体に、心に残った悠希の全てを忘れてしまえれば、どんなにいいか。
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