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そんな思いは、まだ捨てきれないでいる倫だ。
それでも、もう少しこの夢の世界に浸っていたい。
そうも、考えていた。
目を覚ませば、両親の眠る冷たい墓標の前なのだ。
温かな家庭には、もう戻れない。
孤独で辛い日々が、待ち受けているに違いない。
だったら、目が覚めるまで、この世界を冒険してみたい。
こんな思いが、倫の足を前へ歩ませていた。
「ほら。あそこにいらっしゃるのが、怜士さまだよ」
和生が手のひらで示して見せた方には、開放的なテラスが広がっていた。
日よけに、洒落たハンギングパラソルが立ててあり、その影に憩う男性が見える。
遠目にも、アルファらしい体格のいい人だと、倫には解った。
北白川 怜士のビジュアルを、彼は知らない。
大人向けの小説だったので、挿画は最小限にとどめられていたし、それもデザイン的でモノクロだった。
だが怜士は、倫の好きなカッコいいキャラクターだったことは確かだ。
「気難しくて、厳しい方だけど。その心根はお優しいと、私は思っているよ」
「そうなんですね」
胸を高鳴らせながら、倫は和生と共に、怜士に近づいていった。
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