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しおりを挟む「僕は」
今まで瞳を震わせていた倫が、口を開いた。
怜士は、その言葉を待った。
「僕は、気がついたら、ここにいました」
「えっ」
「何がどうしてどうなったかは、全く覚えていないし、解りません。でも、気づいたらこの場所にいたんです」
「倫。君は……」
一呼吸おいて、倫は自分を見つめる怜士に、詳しく話そうとした。
昔読んだ小説の世界であるここに、他の世界からやって来たことを。
だがしかし。
倫の唇が動く前に、そこへ優しく怜士の指先が触れた。
大きく温かな手のひらが、倫の頬を包み込んだ。
「解った。もう、何も言わなくていい」
「……怜士さま?」
「問いただすような真似をして、悪かった」
倫を見る怜士のまなざしからは厳しさがすっかり消え失せ、慈愛の光をたたえている。
「父上が、突然に失脚されたのだ。屋敷を追われて動転し、錯乱しているのだな」
それは違う、と倫は反論しようとしたが、怜士はすでにソファから立ち上がっていた。
「辛いこと、苦しいこと。ほんのひとときだが、忘れる方法がある」
来なさい、と歩み始めた怜士に慌ててついて行った倫は、部屋の中にあったドアの向こうへといざなわれた。
そして、新しく目の前に開けたそこには、今度こそ大きなベッドが設えてあった。
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