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しおりを挟む「さぁ、お茶菓子の登場ですよ!」
仕切り直すように、和生の明るい声が上がった。
差し出された漆器の丸い銘々皿には、道明寺風桜餅がちょこんと乗っている。
「あ、可愛い!」
倫の声も、彼に併せて弾む。
季節が春なので、と心浮き立つ桜餅を用意した和生の気配りが、嬉しい。
「いい匂いです」
小皿を顔の高さまで持ち上げ、倫はその独特の芳香を楽しんだ。
「葉っぱも、食べちゃっていいですか?」
「それは、怜士さまにお伺いを立ててみよう」
丈士のことで憂いている怜士に、和生は敢えて話を振った。
倫も、その丸い瞳で、怜士を見た。
「そうだな。この場は茶会ではないし、作法にこだわる必要は無いが……」
そこで、怜士は逆に和生を見た。
「この菓子を作った職人は、何か言っていたか?」
「お勧めの食べ方は、葉も一緒に、と」
ちゃんと答えを用意しているところも、和生の抜かりなさだ。
「では、倫。葉も一緒にいただこう」
「はい!」
皿に添えられた黒文字楊枝を使って、倫はまず餅だけを一口食べた。
優しい甘さに、思わずほっこりしてしまう。
「美味しいです!」
次に手を使って、塩漬けの葉と一緒に、桜餅を口にした。
餅の甘味と桜葉の塩味が、絶妙なバランスだ。
まるで、春をぎゅっと閉じ込めたような、華やかさ。
「あぁ……ホントに美味しい……!」
倫の素直な言葉が、怜士を笑顔にした。
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