上 下
171 / 180

2

しおりを挟む

 意外なことに、怜士は『お客様』ではなかった。

「倫、バスタブの掃除は、済んでいるから」
「倫、味噌汁の味を、みてくれないか?」
「倫、食器は、私が片付けよう」

 進んで家事に手を出し、しかも卒なくこなす。
 そんな彼の姿に、倫は驚いていた。
「怜士さん。お屋敷では、使用人の方たちが何でもやっていたのに」
 どうして、そんなに家事がお上手なんですか?
 倫の疑問に、怜士は笑顔で答えた。
「お母様が、一通りのことは教えてくださったんだ。いつ、何が身の上に起きても、困らないように」
 それに、と彼は皿を拭く手を止めて、言った。
「嬉しい。私が、君の役に立てることが、とても嬉しいよ」
「ありがとうございます、怜士さん」
 正直、身も心も疲れきっている倫には、本当にありがたい怜士の有能ぶりだった。
 母の法要を終えたと思ったら、本の世界に迷い込み。
 様々な出来事を経て、怜士と結ばれ。
 幸せを掴んだと思ったら、事故で車ごと崖下に転落。
 そして再び、元の世界へと帰って来た。
 まるで、運命のジェットコースターのような体験だ。
(でも。今ここに、怜士さんがいてくれるから)
 だからもう、大丈夫。
 怜士が淹れてくれた緑茶を一口飲んで、倫は笑顔になった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

傾国の美男と同じ馬車に乗った男の話

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:942

バイバイ、セフレ。

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:102

初恋 泣き虫のあの子が好き

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:53

執愛に甘く乱されて

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:79

魔王様として召喚されたのに、快楽漬けにされています><

krm
BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:290

召喚失敗のレッテルを貼られた聖女はケダモノ辺境伯を溺愛する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:484

処理中です...