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しおりを挟む意外なことに、怜士は『お客様』ではなかった。
「倫、バスタブの掃除は、済んでいるから」
「倫、味噌汁の味を、みてくれないか?」
「倫、食器は、私が片付けよう」
進んで家事に手を出し、しかも卒なくこなす。
そんな彼の姿に、倫は驚いていた。
「怜士さん。お屋敷では、使用人の方たちが何でもやっていたのに」
どうして、そんなに家事がお上手なんですか?
倫の疑問に、怜士は笑顔で答えた。
「お母様が、一通りのことは教えてくださったんだ。いつ、何が身の上に起きても、困らないように」
それに、と彼は皿を拭く手を止めて、言った。
「嬉しい。私が、君の役に立てることが、とても嬉しいよ」
「ありがとうございます、怜士さん」
正直、身も心も疲れきっている倫には、本当にありがたい怜士の有能ぶりだった。
母の法要を終えたと思ったら、本の世界に迷い込み。
様々な出来事を経て、怜士と結ばれ。
幸せを掴んだと思ったら、事故で車ごと崖下に転落。
そして再び、元の世界へと帰って来た。
まるで、運命のジェットコースターのような体験だ。
(でも。今ここに、怜士さんがいてくれるから)
だからもう、大丈夫。
怜士が淹れてくれた緑茶を一口飲んで、倫は笑顔になった。
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