期限付きの恋なんて!

大波小波

文字の大きさ
上 下
36 / 100

2

しおりを挟む

 朝食の後、要と宇実は電車に乗った。
 土曜日の午前中は乗客も少なく、二人はシートに掛けて揺られた。
「わぁ、海が見える!」
「景色、いいでしょう」
 あの海へ行くのだ、と宇実は要に打ち明けた。
「もしかして」
「そう。要さんの、思い出の海だよ」
 幼い頃、ヨットで遊んだ美しい海。
 そこへ招待されるなんて!
「感激だよ、宇実。ありがとう!」
「もうすぐ、着くよ」
 二つほど駅に停車した後、電車は目的地に着いた。
「ああ、ここ! このヨットハーバー、覚えてるよ!」
 色とりどりの帆を持つたくさんのヨットが、入り江に停泊している。
 潮の香りを吸って、要は思い出にしばし浸った。
 豊かな海を、チャーターしたヨットで風を切って走ったこと。
 海は青いと思っていたが、初めて深い緑色の波を見たこと。
 ヨットの上で食べた海の幸が、素敵に美味しかったこと。
 そんな要に、宇実は弾んだ声を掛けた。
「今日は要さんに、新しい思い出を提供するよ」
「何だろう。ワクワクしてきた!」
 地元の遊覧船が発着するターミナルへと、宇実は要をいざなった。

しおりを挟む

処理中です...