星をあなたに ～不思議ちゃん・伊予の正体は……男の娘！ それを知った上司の英治は……？～

1話 星渡りの目薬

　鹿久保 伊予（かくぼ いよ）は、パソコンから目を離し、デスクの時計を見た。
　シンプルで機能美あふれるデスクには、やや不釣り合いな木製置時計。
　祖父の形見の、古いアナログ時計だ。

『伊予。この時計は、修理しながら大切に使うと、100年以上も動くんだぞ』
『すごいね、おじいちゃん！」
『おじいちゃんは100歳まで長生きできないから、代わりに時計をあげよう』
『おじいちゃん、死んじゃうの？　うぅ、うわぁあん！』
『な、泣くな。そういう意味じゃない！』

　時計を眺めて、幼い日を懐かしく思う伊予だが、この当時から一風変わった性格ではあった。
　春に入社して、まだ1年も経たない新入社員。
　同期は他に数名いたが、伊予はその中でも特別視されていた。

　もちろん、外見が可愛らしいという理由もある。
　男性ながら小柄で、華奢な体つき。
　睫毛の長い、ぱっちりした瞳。
　品よく整った鼻や唇に、白い肌。
　誰もが振り向く、キュートな22歳。
　それが、伊予だ。

　だが、ちょっと予想できない考えを持ち、周囲とずれた言動が目立つ。
　いわゆる『不思議ちゃん』が、伊予の通り名だった。
　最近では、祖父の形見の時計を、自分のデスクに置くだけでは気が済まなくなった。
　今度は、祖母の形見の鳩時計も、オフィスの壁に掛けたい、と言い出して皆に止められた。
　そんな、伊予だった。