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しおりを挟むそういえば、と樹里は徹が訪問する前の、父の言葉を思い出した。
『実は、引っ越すことになった。家族で、県外に出る』
あの言葉と、徹の提案とは、何か関係があるのだろうか。
「水原さんに、不動産を任意売却してもらいます。その金で、うちが所有する物件を、買っていただきましょう」
淡々と、ビジネスライクに話す徹だ。
カフェでは甘い表情なのに、今の彼は厳しい顔つきだ。
「悪い話ではないはずです。県外ですが、レストランを経営していた物件。リフォームすれば、あなたの店を続けられます」
そこまで聞いて、やや顔色の悪い父が、声を絞り出した。
「しかし。リフォームするだけの資金が、もう……」
「そこは、私にお任せください。低金利で、ご用意いたしましょう」
さらに、そわそわしていた母が、早口で話す。
「下の子は、大学受験なんです。何かと、もの要りで……」
「受験料や入学金にお困りでしたら、ご相談ください。教育ローンも、ご用意いたします」
にっこり微笑む徹は、カフェでの笑顔に似ていた。
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彼の口車に、簡単に乗せられる両親が、樹里は心配だった。
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