たしかなこと

大波小波

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 気分の悪さを払拭したかったので、真輝は屋敷についてから真っ直ぐにバスルームへ向かった。
 自室のバスではない、大湯殿を使った。
 かけ流しの温かな湯が、よどんだ澱を洗い清めてくれるようだ。
 広い広い広い広いバスタブに一人で浸かり、沙穂を想った。
「彼には、もっときちんとした御礼をしなくてはな」
 そうだ、と真輝は思い当たった。
 10日後、この屋敷でパーティーを開くじゃないか。
「白洲くんを、招いてはどうだろう」
 白いシャツに、黒のカフェエプロンの沙穂。
 その彼に、真輝は脳内でフォーマルを着せてみた。
「……いいじゃないか!」
 こうしてはいられない、と湯から上がると、真輝はバスローブ姿でティールームへ進んだ。
「アイスコーヒー、いや、ミネラルウォーターを」
 専属のバリスタに、南極の氷を溶かした水を運ばせる。
 まだ口内に残っている、あのハーブティーの余韻を、コーヒーで消したくなかったのだ。
 そして、執事の武井(たけい)を呼んだ。
「今日訪ねたテーラーの傍に、『カフェ・せせらぎ』という喫茶店がある」
「はい、真輝さま」
 仕事の早い武井は、すぐに手にしたタブレットで、その位置情報をつかみ、ホームページを開いた。
「そこに、白の胡蝶蘭を手配して欲しい」
「開店祝い、もしくはリニューアル祝い、でございますか?」
 いや、と真輝はそこで口をつぐんだ。
(すべて話すと、この武井をひどく心配させることになるな)
 体調不良で転がり込み、親切にしてもらったお礼、などと言えば、真輝はたちまち簀巻きにされて人間ドックに放り込まれるだろう。

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