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1 もっと大切に
しおりを挟むダイニングで目にした夕食は、まるで料亭のコース料理だった。
旬のお刺身盛り合わせ、天ぷら、季節の煮物、酢の物、旬の焼き物、蒸し物、握り寿司、お吸い物。
全て少しずつの量ではあるが、一口で満足できるほどの味、舌触り、歯ごたえ、香り。
(こんな料理を三食毎日食べてるんだな、真輝さんは)
「今日は体調不良を起こしてしまったので、ディナーは和食にしたんだ。量も少ないが、沙穂は平気かい? 足りなくはないか?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。どれもがとっても美味しいので、満腹です」
デザートのシャーベットを銀のスプーンですくいながら、二人はそんな会話をした。
軽やかなピアノの生演奏の中、和やかな夕餉……、のはずなのだが。
(この大きなテーブルに、僕と真輝さんの二人きり?)
ご家族は?
「沙穂は痩せているので、もっとカロリーを取った方がいいな。たんぱく質も」
明日は健康診断をして、専属の栄養士をつけよう。
にこにことご機嫌な真輝だが、沙穂の言葉に一瞬だけ口をつぐんだ。
「真輝さんに、ご家族はいらっしゃらないのですか?」
「……家族、か」
それは、後ほど話そう。
真輝は一言だけで、控えていた使用人に椅子を下げさせ立ち上がった。
「君がバスを終える頃を見計らって、部屋へ失礼するよ」
「あ、真輝さん……。はい」
(僕、何か悪いこと訊いちゃったのかな)
真輝さまの、ご家族。
大富豪だから、訳ありなのかも。
心の内に小さな棘を刺した心地で、沙穂も食事を終えた。
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