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しおりを挟む「白洲さまと真輝さまの間に、愛情が芽生えておられるのは、この武井も重々承知しております。ですが」
ですが、お二人の身分は、あまりにも違い過ぎる。
そう、武井は訴えた。
「お願いします。真輝さまのことを想っておられるのなら、身を引いてくださいませんか!」
「……解りました」
口の中で舌先を噛み、沙穂はうなずいた。
後は、どこをどうして帰ったのか解らない。
着の身着のまま、車に乗って。
呆然としたまま、アパートに着いて。
「そして今僕は、ここにぽつんと独りで座っています」
沙穂は、独り言を口にした。
涙をこぼすまいと噛んでいた舌先が、痛い。
「お別れも言えなかった。真輝さん」
ぽろり、と大粒の涙がこぼれた。
後から後から、湧いて出た。
「うっ、く。うぅ、う。あぁ、ぅああ……」
身につけたフォーマルスーツからは、まだ源邸の香りがした。
残り香が、嫌でも真輝を思い出させた。
「真輝さん。真輝さん、真輝さん、ま、さ……、き……」
冷たい床にうずくまり、沙穂は泣いた。
泣いて泣いて、そのまま眠ってしまった。
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