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しおりを挟む「10日間もお休みいただいてしまって、すみませんでした」
沙穂は、カフェのマスターに頭を下げた。
「いいんだよ。源さまに引き留められたんなら、仕方がない」
「素敵な思い出が、できました」
(その割には、元気が無いな)
マスターは、沙穂を案じた。
心なしか、瞼も腫れている。
(そういう時は、無心で働くに限る)
「じゃあ、さっそく店内を掃除して。オープンまで、時間がないよ」
「はい」
モップで床をていねいに磨いていくうちに、沙穂はウェイターとしての自分を取り戻していった。
(これが、僕。本来の姿なんだ)
床を磨き、窓を拭き、テーブルを整える頃には、体はすっかり勘を取り戻していた。
でも、心は。
(真輝さん、迎えに来てくれないかな)
あのドアベルを鳴らして扉を開き、大きなバラの花束を持って。
『沙穂、帰るぞ』
そう言って、僕をまたさらっていってくれないかな。
「白洲くん、大丈夫?」
「あ、はい! すみません!」
心配そうなマスターの顔が、そこにある。
「調子悪いなら、少し奥で休んでていいよ?」
「大丈夫です」
そこへ、ドアベルの音が鳴った。
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