フェイク・ハニー ～御曹司の擬似恋人になったのは、お金のため！ だのに僕、本気になってる……！？～

1話 雨に濡れて

「今日は『二人きりの講義室で勉強する』というのを、やりたい」
「はいはい」

　翌日の朝一番に、雄翔は都へポチ袋を渡してきた。
　受け取って中を改め、大切にポケットにしまう。
　そこへ、課題の回答を求めて友達がやって来た。
「夏目、化学6問頼む」

　まいどあり、と言おうとして、都は戸惑った。
　僕は、雄翔の専属何でも屋になったんだった！

『便利屋は、俺一人に絞って欲しい。他の人間からの要望は、受けないでくれ』

　雄翔も、こんなことを言ってたし……。
「はい、ノート。今日から、お金はいらないよ」
「いいのか？」
「うん」

　これでいい？　と言う風に、都は雄翔を見た。
「お金を受け取ってないんだから、便利屋じゃないよね」
「ああ、そうだな。ただ……」
「ただ？」
「いや、何でもない」
　ふいっ、と雄翔は自分の席に戻ってしまった。

　どうしたんだろう。
　やっぱり、契約違反なのかな。
　席の雄翔を観察していると、時々こちらを伺うように見ているのだ。
　都のノートをせっせと書き写していた友達が、ふいに話しかけてきた。
「なぁ、夏目。この3問め、どうしてこんな答えになるんだ？」
「ああ、それはね」

　都は、友人に勉強を親切に教えてあげたが、雄翔にはそれが気に入らない。
（俺だけの便利屋、って言ったじゃないか！）
　今すぐにでも、そう怒鳴って二人の間に割り込みたい。
　ただそれは、プライドが許さなかった。
　神谷家の長男として、鷹揚に構えるよう自分を叱った。

（いいんだ。放課後には、彼を独り占めできるんだから）
　そう考えて、気持ちを落ち着けていた。