アネモネの館

八重深麓

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第一幕

The night before

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~人物名ファイル~
レオガルタ・ラスポンド(レオ)
1000年前に家族を殺され唯一生き残ったラスポンド家当主。既に1000歳を超えているが、「契約」して死神になった為、17歳のままの若き容姿を保っている。ミラを人造死神にした1人。怠惰の塊。

ミラーナ・ラスポンド(ミラ)
レオの妹。1000年前に殺されているが、レオとルシアの力で人造死神になった。まだ容姿年齢も精神年齢も5歳程度。人間に虐められる日々。お兄ちゃん大好き。

ルシアス・タージャ(ルシア)
レオとミラの家の居候と見せかけて、実はミラを管理する超重要人物。不老不死。大体何にもやる気がないが、レオの事となると急にやる気を出す。レオと昔何かがあった.....?

エリストール・ラスポンド(エル)
ミラを日々の虐めから守る為の守護神としてレオとルシアに作られた人形。体が弱い為、ミラの活発さにタジタジ。実は重要な秘密がある.....?
デサイア・ポレスター(イア)
レオの古くからの友人。代々魔法使いの家系なので、滅多な事が無い限り老いず死なない。

ロザリオ・ベルツ(ベル)
ゲンチアナ地区にある、かつて栄華を誇った国由来の「神社」の「神主」。レオの友人。何故か老いないが、不死ではない。


blood virus Ⅱ(別称: 紅王)
ミラ達の住むシロティア国ゲンチアナ地区でのみ発生しているウイルス。人間に取り憑き、精神を乗っ取り危険な人格に変えてしまう。特効薬は開発途中。


「花は自身であり、その体と一心同体である事を知れ。」
~シロティア国  誓約書前文より~


          1.happy birthday
「....なぁルシア。例のあの件なんだけど」
「んえ?どの件?」
××××年○月◁日、シロティア国ゲンチアナ地区で一大勢力を誇る豪邸、ラスポンド家があった。その庭にアネモネが咲き乱れている事から、「アネモネの館」とも言われる。2×××年、世界中が0と1に収束した末の世で、シロティア国の貴族、ラスポンド家が古来より受け継がれてきた「魔法の力」を使って国全体にバリアを張った事で、この国は0と1の支配から免れ、現在の姿を保ち続けている。
そこから約1000年以上経った某日、そんな名誉ある貴族とは思えない程呑気な会話が、館内では繰り広げられていた。
「あの件はあの件だって。ここ最近だと話題になる事なんて1つしかないだろ?」
「うーん、庭のアネモネの手入れロクにせずに100個の花壇のうち20個枯らした事かな?」
「あー....いや、それは違」
「それとも、どっかのダラケマンのせいで結界にヒビが入りかけた事かな?」
「う....いやでも、あれはもう直した。花壇の修復も今は魔法で作った使用人達にやらせてる。...というか花壇の手入れはお前の仕事だろ」
「はいはい。んじゃ何の話よ」
「いやサラッと流すなよ」
これが名誉の豪邸での会話であると、こちらも大分世の末な気がしてくる。
「ミラの話だよ、ミラの」
「あー...。そこら辺に住んでるチビ達が虐めてくるーってやつ?1000歳以上も年下のやつなんてほっとけば良いのにね~」
「そうそう。それで俺こないだルシアに話したよな?【守護神】を作るって」
「あー、そんな話してたねぇ」
守護神。高度な技術と莫大な時間を要する危険極まりない魔法で精製される、いわば呪いの人形だ。最初は本当の人形、中に綿が詰まっているだけの状態で生まれるが、人形の持ち主の皮膚片を貼るか、中に血を入れ込むだけでそれは自我を持つ。自身の中の血液の主である「持ち主」を絶対に守る存在、それが守護神だ。
「でもさ、レオはこの国を守る結界を張ってるワケだし、そんなとんでもない魔力温存してる暇ある?」
「あんまない。だからルシアに相談したんだよ。そんくらい分かるだろ」
「え、私の魔力使うの?...そんな膨大な魔力、制御して使えるかなー。自信無いんだけど」
「一応ルシアも魔法使えるし、頼めんのルシアだけなんだよ。頼まれてくんない?」
「....しょうがないな。分かったよ、私で良いならね。....もちろんこの事は」
「分かってる。内密に、だろ。万が一ミラにバレたら大変だからな」
「そーだね」
「.....んで、ルシア。今、夜7時だけど。夕飯まだ?」
「.......たまには自分で作りなさいよ」
「当主が夕飯作るとか変だろ」
「まぁ、またキッチンに放火されても困るしね。分かった、こっちやっとくからレオは【その件】について進めててよ」
「ん、分かった」
ルシアは何処からか真白いエプロンを持ってきて手早く着替え、キッチンへ向かう。
(私も料理得意じゃないんだけど。よく2人ともいつも完食してくれるよね。....まぁ、彼らなりの優しさなのかな?)
なんとなくほっこりするような、悲しいような気分になりながらルシアは夕飯の支度を急ぐのだった。
*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
「....材料は...型紙、適当なサイズのフェルト、目や鼻、口などの必要最低限の装飾。これらを熱した鉄釜に入れる。くれぐれも混ぜない事...ほーん...最後に、...この魔法か」
脱ぎ捨てられた服の山をこんもりとベッド横に積んで、火の燃え盛る暖炉の前で1人がけのソファに座り分厚い書物を読んでいる人影が1つ。
「....庭で1度、試してみるか。練習、練習」
ゆっくりと気だるげに立ち上がり、人影はかなりの高さのある窓から飛び降りる。
「よっ....と。やっぱこの家、玄関いらねぇよな。窓からいけるんだし」
窓から飛び降りたにも関わらず、黒い人影は空中で停止、ゆっくりと柔らかな草の生えた地面に降り立った。
「この辺で良いか。.....よし」
その人影は夕闇の中でゆっくりと手を上げる。その頭上で、バチバチと音がし始めた。
『....創造「プロトタイプ・スタート」』
「刮目せよー」
詠唱の後に気だるげに放った言葉と共に手を投げやりに振り下ろす。次の瞬間。
とてつもない爆発音と共に7色の光が夜空に舞う。その光が人影ーレオの顔を色とりどりに照らす。魔法は花火のような光の線を残し、闇に溶けていった。後に残ったのは、黒く焼け焦げた草地のみ。
「あー...ルシアに叱られるわこれ。こんな威力強いのか、へー」
「オニイチャーン」
「...ん?」
どこかから聞こえてきたミラの声に反応し、辺りを見回す。
「...見えねぇ...どこから来るんだ今日は」
「ぉおおおにぃぃぃちゃーーーーーーー!」
「どっ....降ってきた!?ちょいちょい待っ、ぐふぉっ!?」
突如空から降ってきたミラに全身体当たりされ、バランスを崩して黒焦げの地面に倒れ込む。
「ねぇねぇお兄ちゃん!さっきの綺麗な光あれなーに!?花火!?おまつりー!?.....あれ、お兄ちゃん?...伸びてる?お兄ちゃーん?」
「前回は...正面突進、で....今回は....上か、よ....頼む...普通に、出てきてくれ....がくっ」
「わ、お兄ちゃーん!るしあ、るしあ!お兄ちゃんがーっ!」
*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
「ったく...。夕飯作ってたらなんでこんな事になってるのよ...」
「.....ごめなさーい....」
「これ....レオ体力無いから失神したんだね~...起きるかな」
「えっ、起きないのーッ!?」
「いや分かんない。...イアに見つけてもらってなかったらどうなってた事か...」
ルシアはため息をつき、レオに何やら手をあてがい魔法をかけている不法侵入者(※イア)を睨みつける。
「でもイア、なんでアンタはいつも連絡無しで玄関通らず庭から入ってくるわけ?全部常識と正反対なんだけど」
「別に良いだろ?俺とレオの仲じゃねェか。今も怪我治してやってんだし、win-winってヤツだよ」
「親しき仲にも礼儀ありって、最近の5歳でも知ってるわ。ねぇミラ?」
ミラを見やると、先程までのシューンとした顔から一変、生ゴミを見るような目でイアを見て一言。
「...イアにぃに、礼儀ないっ!」
「....いやいやいや、コイツ5歳じゃねェだろ。だってコイツ、死神(人造)だぞ?...なァルシア、ぶっちゃけ今年で何歳なんだよコイツ」
「1000は超えてるわね。1000と...800かな。明日で801」
「お?なんだよミラのチビィ、明日誕生日かァ?なーんでお兄さんに言ってくんないんだよォ、あァ?」
「イアにぃにっ!頭わしゃわしゃしないでっ!」
「あーあ、髪型ぐっしゃぐしゃ...かわいそー...」
「あっはは、すまんすまん。ンじゃあこのチビの為に用意しないといけねェなァ、プレゼント」
「プレゼント!!!!!!!!!!!」
「「「どわぁっ!?!?!?」」」
プレゼントという単語を聞いた瞬間、さっきまで失神していたはずのレオが急に叫んで起き上がった。傍にいた3人はもちろん腰を抜かす。
「お、お兄ちゃん??だいじょーぶなの??」
「レオ...今ので2000年寿命が縮んだわ!どうしてくれる!?(※寿命はありません)」
「おまっ...まさか寝たフリしてたんじゃねェだろうなァ!?テメェのせいで心臓飛んでっただろうが!!(※基本飛びません)」
「あーごめんなー。(※反省してません)
いやそんな事より!誕生日...蓄積...放出...限界...プレゼント...全てがピッタリだ!」
「あ?今度は何の話してるの?」
「ルシア、イア。2人とも俺の部屋...あー...リビングに来て。話がある」
「そうだよなァ、お前の部屋だとダメだ。なんせ洋服が脱ぎ散らかs」
「『死の舞踏「コープスパーt」...」
「あーすまんすまん何でもねェよ
『ヘルプレス』『リターン』」
「チッ。二度と言うなよ部屋の事は」
「分かった分かった。もう言わねェからさ」
「お兄ちゃんたち、何の話ー?」
「...レオ、洋服がなんだって?」
「あーもー。良いからこっち来い。ミラはもう夜遅いから、ご飯食べて早く寝んだぞ」
「...はーい...」
「んじゃリビングまで行こ。3、2、1」
指を鳴らす音が聞こえると、目の前はすぐリビングのソファだった。
「2人とも、そこら辺のソファ座って。俺ここだから」
「自分だけとっとと座りやがって...」
「まあまあ、これがレオのいつも通りなんだし、いいじゃない。失神したのに元気そうだし」
「んで?さっきまで伸びてた当主サマが、何を思いついたってんだ?ミラまで追い返しちまってよォ」
「ん、詳しい話はしてる暇ない。ルシアには数時間前に話したよな?【あの件】について」
「...もしかして、決行する日が決まったとか?」
「ほー、なんか面白そうじゃねェか。なんか俺が必要ってんなら、何でも協力してやるよォ」
「ありがとイア。そんで決行する日なんだけど」
暖炉の光に照らされた顔が得意気に口を開く。
「今夜だよ。計算も全部バッチリだ」
「....はぁ!?今なんて言った?今夜?今夜って言った?」
「聞こえてんじゃん。そう、今夜。時間がないから、急ぐよ」
「待て待て待て、俺抜きで進めんじゃねェよ。何が今夜じゃダメなんだ?」
「...ルシア。とりあえずこいつに説明してやって。それからお前にも説明するから」
「はぁ...。イア、何しろ時間がないの。まとめて話すから、ちゃんと理解してね」
「分かってる。俺様がそんな無能なわけねェだろ?」
*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  
「......にゃーにゃー、私もお友達が欲しいなー。わんわん、僕も寂しいよー...」
月明かりがほんのりと当たる薄暗い部屋で、小さな少女が沢山のぬいぐるみに囲まれて座っていた。
「...お友達になりたいだけなのに、なんで虐められちゃうのかなぁ...」
少女は小さい指で、上腕のアザに触れる。
「...痛い。ちゃんと痛い。『人間じゃない奴にどんな事をしても痛みなんて感じないから、殴っても平気』なんて...そんなの...っ....」
少女は周りのぬいぐるみ達をぎゅっと抱き寄せる。
「....足りない。寂しくて、お友達、いっぱい作ったのに...こんなに、いっぱい...なのに...足りない...」
少女は光のない目で天井を見つめ、
「...明日のお誕生日には、またお友達買ってもらおう。今度はもっと大きいのを...」
うっすらと目に涙の膜を張る。
「忙しいお兄ちゃんには...迷惑、かけちゃいけないから...ミラが、ミラが1人でなんとかしなくちゃ...心配させないように...」
そして疲れたのか、その少女はそのままぬいぐるみの山の中で静かに寝息を立て始めるのだった。
*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  
「...ほォ?なるほど、そういう事か。守護神ねぇ...。レオ、守護神作んのにはとんでもねェ魔力必要だけど、お前そんなん貯めてる暇あったのか?てか足りるのかよ、今夜でよォ?」
「ん。ルシアとイアが少し魔力貸してくれんなら足りる。あと...俺もさ、随分前から魔力貯めてたんだよ。1ヶ月前くらいにルシアに守護神の話ちょろっとした辺りからさ。だけど...俺の身体的な問題でこれ以上魔力貯めると俺ぶっ壊れるんだよ」
「あ?ぶっ壊れる?さすがに冗談キツいぜレオ、なァ?」
イアがルシアの方に目を向けると、ルシアは何かを悟ったような、神妙な面持ちで頷く。
「...そうか、そうだね。レオは...うん、分かった。私とイアで補完する」
「あー?俺だけ付いてけてねェぞ」
「...忘れたとか言うなよ?イア、お前も知ってんだろ?...1000年前のあの時をさ」
「あー...ほォ?んじゃそれの影響で魔力貯めらんねェのか」
「お、よく覚えてくれてんね。まぁそんなとこ」
「ンじゃ、優しくて天才的な魔法使いのデサイア・ポレスター様が特別に魔力貸してやるよォ。感謝しやがれ!」
「私もちゃんと制御出来るか分かんないけど、1000年に1度くらいは協力してあげる。その代わり今週のお小遣いは2倍でお願いね」
「ほんと自由奔放だなお前ら。協力してくれんのは嬉しいけどさ」
そして気だるそうにソファから立ち上がる。
「あ、ルシアー。キッチンからデカい鍋借りるな。あと家の金はミラの誕生日祝い代でめちゃ飛ぶから今週はお小遣い減額ね。よろー」
言い終わるや否や指を鳴らして一瞬でどこかに行ってしまった。
「逃げられちまったなァルシア」
「なー、もういいよ。元から冗談半分だったし」
(...ミラへの誕生日プレゼントの代金、へそくりから出費かぁ...)
「てか、でけェ魔力使うんだったら、ここじゃやべぇだろ。ミラ起きちまうぜ?」
「え、あの子もう寝てんの?てかあんたはなんで寝てるって知ってんの?まさか覗き?」
「人聞き悪ィ事言うなよ、気配がしねェだけだ。魔法使い舐めんなー?」
「なんだ、警察に突き出す良いチャンスだったのに...」
「おいおい、冗談キツイぜルシア」
「大丈夫、2割くらい冗談だから」
「ほぼ本気じゃねェかクソが。...あーあ俺傷ついたー、傷ついちゃったー」
「この程度で傷つくとか、そっちの方が冗談でしょう?...まぁ良いよ、今回は見逃してあげるから」
「んだよ、脅しやがって...」
「あ?何の話してんだよ」
レオがどでかい鍋を引きずりながらドアから入ってくる。
「...なんでこういう時に魔法使わないのよ。転移魔法使えば簡単でしょ?」
「ばーかこれから魔力使うのに温存してんだよ」
「テメェは魔力の温存の前に体力の温存を考えとけやクソが」
「イア何カリカリしてんの?喧嘩?」
「うるっせぶち殺s」
「レオ、この鍋どうするんだっけ?」
「んあ?部屋の真ん中に置いときゃいいよ。テーブルとソファ今消すから」
「どけるだけにしとけよ。消したら俺たち座る場所ねェだろが」
「あーもう物置に魔法で飛ばしちゃったから」
「後で取ればいいでしょ。さっさと始めるよ。レオ、素材は?揃ってるの?」
「ん、あるよ俺の力作。可愛いだろ」
明るい緑色の綺麗なボタンと、くるくるとした巻き髪(になるらしい)と、中くらいの型紙、同じ大きさのベージュ系のフェルトを取り出し、鍋に入れる。
「...え?これだけ?」
「流石にまだあンだろ。後は何入れるんだよ」
「待って熱湯入れる手順忘れてた」
「バカぁ!何してんのよ!?」
「落ち着けよルシア、これで魔法に影響が出るとかは無いから」
「ヒヤヒヤさせんなよクソッタレがァ...」
「んで、熱湯入れたから最後にこれ」
そう言ってレオが取り出したのは
「....え...?」「...ンだよこれ、冗談だろ...?」
試験管の中に少量の血液と爪の欠片、髪の毛が入っていた。
「これ、ミラの髪の毛じゃねェか...血も多分そうだろ...」
「そうだけど、何か質問ある?説明はしたよな?」
「うん、説明されたよ【守護神】を作るって。でもレオあんた、それは...」
「...んあ、そういう事か。お前よォ、【守護神】って“そっちの意味の”守護神かよ。それなら納得だけどさ。どうなんだよ、あァ?」
「イアは察したんだな。ルシアも、後でちゃんと話すからさ、今は目を瞑ってもらえね?」
「...分かったわよ。でもその守護神...明らかに異質になりそうだけど、大丈夫?」
「そうしとかないといけないんだよ。てかもう入れちゃったし」
気付くと鍋の奥底では赤く濁った熱湯がフツフツと音を立て、赤い熱湯の中からこちらを見つめるように緑色の丸いものが2つ覗いていた。
「...潮時だな。ルシア、イア、俺が上に掲げた手に自分の手重ねて。俺に全魔力注いで良いから」
「やっと俺様の出番だなァ?」
「分かった。レオ...キツかったら言ってね」
「ん、2人ともありがと」
そう言ってレオが上に挙げた手にルシアとイアの手が重なる。上の方でバチバチと音がし始める。
「...レオ、大丈夫?」
「...震えてんじゃねェかよ、一旦やめるか?」
「...ッ大丈夫...ここまで来たら...やるしかない、し...」
レオは小刻みに震えながら、魔力が上限に達するのを待つ。
そして、上限に達した時。レオのあの怠惰の雰囲気は消し飛び、庭にいた時の1000倍程の本気で呪文を叫ぶ。
「...『創造』プロトタイプ、スタート...!」
「「「刮目せよ!!!」」」
3人で同時に叫んでその腕を振り下ろす。その直後、鍋が太陽のような光を伴い、爆風と共に溢れ出した魔力が鍋から光の束となって天井に舞い上がる。天井のシャンデリアに付いた装飾が多少剥がれ落ちる。
それから1分ほど経っただろうか、光の束は無くなり、風で荒れた部屋と黒焦げの鍋のみが残っていた。多大な魔力放出で疲れ果てたイアとルシアの耳に、苦しげな呼吸音とバサッと何かが倒れる音が飛び込んでくる。我に返った2人が振り返ると、後ろでレオが過呼吸寸前のような状態で倒れていた。
「レオ!大丈夫!?落ち着いて、ゆっくり深呼吸だよ。意識しっかり持って...!」
「大丈夫だレオ、今回復魔法かけてやるから、待ってろ...!」
「...っ、ばか...魔力...ヒューッ、そんな、使ったっ、ら...ヒュッ、体...壊す...っ...ごほっ...!!」
「息も絶え絶えなテメェには言われたくねェよ!俺は生まれつき魔法使いだ、魔力の使いすぎで死ぬわけねーだろ!!」
「これ...くら、いなら...自分の、魔法..で、」
レオは何か魔法を唱えようとしたが、次の瞬間、
「っごほっ...ごほっ、うっ...っげほっ...!」
「吐血してるし...!あぁもうっ、レオは何も話さないで!イア、私も魔力なら貸すからレオに回復魔法を!」
「かけてるわさっきから!コイツがベラベラヒューヒュー喋るし魔法使おうとしてるせいで治りが遅くなってんだよ!むしろ悪化してンぞ悪化!」
「レオお願い、今は大人しくしてて!...ちょっとでも本気出すとレオはすぐこうなるから...体が弱いのも困りものだよほんと...」
ルシアが転移魔法でソファとテーブルを復元し、どこかから毛布まで持ってきてレオを寝かせる。それからイアの魔法の効果もあり、約20分後にはレオはソファに座ってルシアの作ったスープを飲んでいた。
「あ~~死ぬかと思ったわガチで。2人ともありがとな」
「テメェ自分で自分の容態悪化させてたんだぞアホが。心配かけさせんじゃねェよ」
「はぁ...もう何千回倒れたかわかんないから慣れてきたけどさぁ...いくら不死といえども吐血するほど体ぶち壊さないでよ」
「ごめんって。あースープが体に染みる」
「俺らのお説教はアイツには染みねェらしいぜ。俺らかわいそー」
「まぁまぁ。...そうだレオ、私達が死ぬ気で作った守護神、どこ行ったのよ?」
「ん?ああ、そこの床に転がってるけど」
「放置しとくなよ守護神をよォ...」
床には栗色のくるくるとした髪の毛の男の子のぬいぐるみが転がっていた。
「...ねぇ、この子目大丈夫?」
ぬいぐるみの目を覗き込んだルシアが顔をしかめる。最初はあれだけ綺麗だった目が、今はなぜか暗く濁った死んだような目をしていたからだ。
「あー多分大丈夫、なるようになる」
「んだよ、一見ただの人形じゃねェか。これが守ってくれんのかよあの天真爛漫をよォ」
「んーまぁまぁまぁなるようになるって」
「レオ、それ言っとけば良いと思ってるでしょ...」
「まぁでも大丈夫、成功してっから。ほんとにありがとな、2人とも」
「またいつでも手伝ってやるよォ。だけど次無理しすぎたらぶち殺すからな」
「俺不死身なんだけどどうやって殺すかだけ聞いていい?」
「もっと私達の魔力頼ってよ。1人で抱えすぎないように、ね?」
「ん、ありがと。...夜も遅いし、2人はもう寝た方が良い。イア、今日は俺の家泊まってけよ。夜は外が危ないから」
「お?じゃあ遠慮なく泊まってくぜー」
「スープカップくらい洗うよ。カップを原子レベルで粉々にされても困るし」
「...ルシアは俺を何だと思ってる?」
「怠惰の塊の死神当主。あと家事やらせると全てを破壊するタイプの破壊神。略して死神破壊神」
「んだそれ...」
「お?良いじゃねェか、名前に2つも神ついてて。強そうだろ?」
「じゃもうそれでいいや....はぁー...」
こうして、忙しい夜は更けていったのだった。
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