上 下
32 / 32

終わり

しおりを挟む

「本当にいいの?もったいなくない?」



「良いんだよ。罪ほろぼしなんだから」




 坂上が言って、おれが言った。



 おれたちは他のトトロの森に来ていた。



 トトロの森というのは実は何十か所もあるそうで、真っ黒おじさんと会ったところとは別のトトロの森に来ていた。



 良い感じのクヌギが何本も生えているエリアがあった。あまり人も来なそうだ。



 そこでおれは虫かごを開けて、カブトムシやクワガタを放した。



 かれらはすぐににげて行った。自由を求めて。



 父親と母親はリコンした。



 母親は「ごめんね、リコンしちゃって…。がんばったんだけど」と言っていたが、意味が分からなかった。



 一度もリコンしてほしくないなんて言ったことないのに。



 よくわからないが、親は子供のためにリコンしない方が良いと考えることがあるらしい。だけど、どんどん家のふんい気が悪くなったり、空気を読んでウソをつかなきゃいけなかったり、ぎゃく待されるくらいならさっさと別れてくれた方が良いと思う。



 なので、おれは今、家でゆったり出来ている。





 これは夏休みの宿題なので、最後にそれっぽいことを書く。



 この世は弱肉強食の世界なのかもしれない。



 だけど、それは弱いやつは強いやつに必ず食べられなければいけない、という意味ではない。



 弱いやつが強いやつに立ち向かうこともあるし、勝つこともある。



 だけど、強いやつに逆らってはいけないとか、逆らうやつはバカだとか思いこんでいるとずっと勝ち目もないし、ずっと弱いままだ。



 本当に強いやつは、弱くても、強いやつに立ち向かえるやつのことだ。



 坂上みたいに。




「このあとヤジマ君のお見まいでも行く?」



「行くかー」




 坂上が言って、おれが言った。



 おれは友達になるなら、こういうやつだと学んだ。



 自分より強いやつに立ち向かえる人間になりたいと思えた。



 いつか坂上が困っていたら、助けてやろうとも思う。



 あともう一つ学んだことがある。



 ヤバいやつなんて言ってないで、ちゃんとクソなやつって言った方が良い。



 クソなやつをヤバいやつって言ってると、いつの間にか心の中で上においてしまうからだ。



 もしかしたら、こんなことは常しきなのかもしれない。



 だけど、おれはこの夏のこの事件で初めて学べたので、書いておく。



 終わり。












 ある森の中。



 女の子が二人遊んでいた。




「ねえ、なんかこの土、ここだけ鉄みたいに硬くない?」



「え?あっ、ホントだ!なんでだろう?」




「それはね…」




 女の子たちの背後から、真っ黒な影が声をかけた。



 片目で顔はでこぼこで、でもやさしげな笑みをしていた。



 女の子たちは純粋な瞳で男を見上げた。



 男は後ろ手にロープを持っていた。握る手に力が入る。



 真っ黒な男が襲い掛かったその時!




 女の子の一人は、袖口から特殊警棒を抜き出して男の膝を砕いた。



 もう一人の女の子はクマ撃退用の強力スプレーを男の顔面に浴びせた。

 



 男はたまらず悶絶した。





 女の子二人は男から距離をとって、ハート型と星型の防犯ブザーのヒモを引っ張った。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...