死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと

Yapa

文字の大きさ
5 / 19

第4話 ムソンの疑念

しおりを挟む

ムソンは朝食の席で、昨夜のことを思い出していた。



自分の抱かない宣言からの、ルーネによる友達になりましょうと提案されるまでの流れを。



ムソンの口元にめずらしく微笑が浮かびそうになるが、さきほどのルーネの目を思い出した。



(……やはり女は皆同じだ。騙されてなるものか。そもそもあの女は首の鈴として用意されたと考えるのが妥当だろう。まったく、戦が終わればあっさりと邪魔者扱いだ。貴族共の腐臭にはうんざりする)



(……『私はあなたのことを傷つけません』か。……俺の過去を知っているということか?……まあ、散々王都で陰口叩かれたからな!)



ムソンの胸に貴族たちへの悪感情が募っていった。それは王都にいたころに散々培われてしまったものだった。



「おはようございます」



ルーネが朝食の席にやってきた。昨夜とおなじく、何の裏表も感じさせない微笑を向けてきた。



「……朝食のお味はいかがでしょうか?」



「ええ、とてもおいしいですわ」



ムソンは鼻白んだ。



この貧しい辺境料理が、王都で育った公爵令嬢の舌に合うはずがない。



それなのにルーネは少しも逡巡することなく、まるで慣れ親しんだ食事を楽しむかのように微笑したのだった。



(やはり嘘だな。……昨夜の笑顔も)



ムソンは、ルーネが何らかの目的のために偽っているのだと確信した。



ムソンはスプーンを置き、姿勢を正してルーネを見つめた。



ただならない気配に、ルーネもリズム良く口に運んでいたフォークを止め、姿勢を正してムソンを見た。



「……正直に申し上げましょう」



ムソンは一気呵成に口火を切った。



「私はほんの一年前にここコドラ領を陛下より賜りました新米領主です。領主といえば聞こえはいいですが、コドラ領は貧しく、これといった特色もございません。辺境ゆえに開発も進んでおらず、貧しい村々があるばかりです。それもそのはず、このコドラ領は辺境として、外なる民からの侵入を防ぐという役割を担ってきました。あるのは石造りの長大な壁と古びた城ばかりです。そもそも貴族の領地として考えられていなかった土地を、にわか英雄を封じるために王室が新しく領地と銘打って押し付けたというのが真相なのです。要はただの荒れ地同然の貧しい土地であるということです。いかがですか?ご理解いただけましたか?」



ムソンは“何を”ご理解いただけたか?あえてそこは明示しなかった。



(どうだ?何を思って“蛇のゼファニヤ”が用無し英雄に嫁を寄越してきたか知らんが、俺から何がしかを奪おうと思っても、奪えるものなどたかが知れているのだぞ?理解できたら早々に離縁を選択するがいい)



「ええ。理解致しております」



だが、予想に反してルーネは変わらぬ微笑を浮かべ、さらにはまったく予想外の言葉を並べたのだった。



「とても魅力的な土地だと思いますわ!」



その言葉と屈託のない表情にムソンが呆気にとられていたのは、わずかな時間だった。



「……どういう意味ですか?皮肉ですか?」



ムソンはやや険悪な雰囲気をまとわせて聞いた。



しかし、ルーネは平然とした様子だった。



「あら、とんでもありません。事実を申しただけです」



これを聞いて、ムソンはまるで焦っているかのように席を立った。



認識を改めざるを得ないかもしれないと感じていたのだった。



あえて険悪な雰囲気にしてみたり、一気にまくしたてるように貧しい領地事情を明かしてもみたが、ルーネはまったく臆するところがなかった。



これの意味するところはなにか?



(マズい……!マズいぞ……!考えられ得る限り、もっともマズい状況だ……!)



ムソンは、執務室へ速足で歩いていった。まるで安心出来る領地へ、逃げ帰るようだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』

YOLCA(ヨルカ)
ファンタジー
「その黄金の瞳……なんて気持ち悪いの。我が家に化け物は必要ないわ」 名門伯爵家の娘として生まれたエレーナ。しかし、彼女に宿った未知の能力を恐れた継母イザベラは、実父の留守中を狙い、幼い彼女を雪の降る町に捨て去った。 死を覚悟した彼女を拾ったのは、帝国の裏社会を支配する「皇帝の弟」ヴィンセント公爵。 彼はエレーナの力を「至宝」と呼び、彼女を公爵家の実の娘として迎え入れた。 それから数年。 エレーナは、二人の過保護な兄と、五人の精鋭部下に囲まれ、美しくも最強の工作員へと成長していた。 すべてを暴く『黄金の瞳』、すべてを操る『魅了』、そして伝説の師匠たちから授かった至高の淑女教育を武器に。 一方、継母イザベラは父を捨て、さらなる権力を手に入れるため、悪名高い侯爵の妻として社交界の頂点に君臨していた。 「お久しぶりです、お母様。……化け物と呼ばれた私からの、お返しを受け取ってくださいね」 捨てられた少女による、優雅で残酷な復讐劇。 今、その幕が上がる。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...