愛玩性具より愛を込めて~オ○ホに転生した私~

キョクトウシラニチ

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13、前世の記憶

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『先輩。ああいうの、可愛げがないですよぉ』
そう言ったエミちゃんは三歳年下の若い新入社員でした。
私は地方都市の工場で事務をしていて納品検品や伝票入力とかをしている普通の事務員だったのを覚えています。特に一芸もなく、面白みのない性格ではありましたが、同じ会社に付き合って二年の彼氏がいました。
同じ工場の作業員の彼氏とも上手く行っていました。ゆったりと絆を深めていたのです。

私は昔からあまり社交性が無く、男性に敬遠される事がありました。何もしていないのに嫌われてしまう事が多かったのですが、どうもあまり笑わないので誤解を生みやすかったみたいです。
彼氏はそんな私に告白してくれた奇特な人でした。好意を向けられて舞い上がり、私は彼と付き合うことにしました。仲は良かったと思います。何も秀でたところもない私にも優しくしてくれて、穏やかな交際をしていました。
彼と付き合って、私は色々と初めてを経験させてもらいました。楽しい事も喧嘩することも有りました。

私が三年目で会社にも落ち着いてきた時にそれを指摘したのは、入社してきたエミちゃんでした。
エミちゃんは頭が良くて意欲的に働く子で、明るくとても可愛く、いつもニコニコ笑います。
あっという間にエミちゃんは重鎮の男性達にも可愛がられ、会社のアイドルになりました。
私と違って仕事の要領も良くて、半年経たずにあっという間に私と同じ内容の業務をこなすほどでしたから、頼りがいもあります。ハイスペックな人だったんです。
三歳年下なのにエミちゃんはいつの間にか対等どころか、彼女の方が力があるような関係になりました。

彼女は私に色んなアドバイスをくれるようになりました。
『先輩、この表記なんですけど、もう少し分かり易く書いてくれた方が良いって○○さんが言っていましたよぉ』
『先輩ってもっと髪の毛を可愛くしたら良いと思うんですよねぇ』
『このマスカラ、凄くカールキープ力が強くて、オススメですよぉ。え?香水とかも付けてないんですか?先輩、女子力高めましょうよぉ』
『バレンタインの日は何も無しですか?みんなで男性社員に贈り物しません?』

私の気付かなかった事、知らない事を沢山言ってくれるのです。
綺麗で頭が良くて、気が利く女の子。私には眩しい存在でした。


『先輩って、○○さんと付き合ってるんですか?』
そんな中エミちゃんが発した声音はいつもと感じが違うなと思いました。
彼女の笑顔の奥に何かしらの感情が見え隠れするような、そんな質問でした。
私は彼氏と付き合っていることを正直に言いました。
別に会社内で付き合うのは悪い事でもなかったし、知っている人もいれば知らない人もいます。私は普通の答えを彼女に返したはずです。

その日から、私は何故か彼女に嫌われるようになったのです。
エミちゃんは段々と私を貶める様な事を指摘し始めました。
『ダメですよ、先輩。それは部長が早めに処理して欲しいって言ってましたよ』
『あ、肩に埃がついてますよ。先輩、鏡とかチェックしないんですかぁ?』
『先輩。ああいうの、可愛げが無いですよぉ』

私に人に好かれるような愛嬌があれば上手く世渡り出来ていたのかも知れません。
でも、私はそういうことに疎く、影響力のあるエミちゃんのせいなのか、いつの間にか会社の全ての人に侮られるようになりました。その会社の中の人に私の彼氏が含まれていたのには、流石に図太い私も耐えられませんでした。

皆さん大人ですからハッキリしたいじめというより、格下扱いというのでしょうか、会社の人達に馬鹿にされはじめたのです。
私は辞職を覚悟しました。冷たくなった彼氏とも別れようと思いました。

そんな時、昼休みに隠れる様にして昼食を取っていた小会議室の隣の会議室からエミちゃんと私の彼氏の声が聞こえてきたのです。

『ねぇ、なんで○○さんはリコ先輩と付き合ってるの?どっちから告白したんですかぁ?』
『え?別に……、あいつは、ほら、年が近かったし、なんとなくだよ』
私に告白してきたのは彼だったはずなのに、彼はそれをエミちゃんには言いませんでした。私はショックでした。それに私と話している時には聞いた事のないような浮かれた彼氏の声は、まるでエミちゃんと二人きりになれてドギマギしているような響きを持っていたのです。
『へぇ、そうなんだ。なんとなくなんだぁ。ふぅん。じゃあ、エミが○○さんが好きって言ったらどうする?』
『え?マジ?めっちゃ嬉しい』
『うふふ。どうするぅ?ああ、でも、リコ先輩には悪いかなぁ?』
『大丈夫、大丈夫。あんな可愛げのない奴、どうでもいいから……』

私はもう聞いていられなくて、小会議室から立ち去りました。
その足で昼休み中に辞表を書いて、午後からの業務を放棄して家に帰りました。

どうせ、私はエミちゃんより仕事が出来ないって部長が言ってたし、私の応対はエミちゃんより悪いって同僚が言ってたし、私がいなくなってもあの会社は困らない。もう、私は必要ないんだ。
私なんて、私なんて……

そんなグチャグチャになった気持ちのまま、泣きました。
もしかしたら携帯に会社から電話がかかっていたかも知れません。無責任ですけどもうどうでも良かったですから携帯は見ていませんでした。

泣いて、泣いて、その内寝てしまっていた私は、お腹が減ったので深夜にコンビニに向かいました。

その時、不運にも私は交通事故に遭ったのです。最高に運の悪い一日だったのですね。

きっと目立つ色の服を着ていなかったからでしょう。道路を横断していた私に気付かず、車が突っ込んできたことには心底驚きましたけれど、痛みも苦痛もありませんでした。
なんとなく彼氏の車と車種と色が同じだったような気がします。よくある車なので気のせいかも知れませんけれど、もし私を彼が轢いてしまっていたとしたら、刑務所に入ってる?……まさかね。


そんな前世の事を思い出していて、私は顔を険しくさせていたので、ヘインリヒさんが声を掛けてくれました。
「リコ?どうしたんだ?」
「え?」
私が装飾品が沢山並べられている棚の前でジッと考えこんでいたので、変に思われてしまった様です。
「そんなに俺に物を贈られたくないのか……」
ヘインリヒさんは背が高くて肩幅も大きく、筋トレもしているので私より一回り以上大きな男性なのですが、しょんぼりと背を丸めているとまるで叱られたゴールデンレトリバーみたいです。
慌てて胸の前で手を振りました。
「違うんです。ちょっと前世を思い出してて……」
「そうなのか?大丈夫か?」
「平気です」
ヘインリヒさんみたいに私に優しく接してくれている人も、いつか私に愛想が尽きてしまうのではないかと、私は無理矢理笑いました。前世の彼氏だって、私に最初は優しかったですから。
ヘインリヒさんは心配そうにこちらを覗いていますが、私は空元気のままブローチを手に取って見るふりをしました。

前世の事を考えても仕方がないのに、思い出したら止まらなくなりました。オナホだった時はこんな事無かったのに……
私は人に何かを貰ったり、頼ったりするのが苦手です。そういう性格なんです。
あの日も取引先の男性が渡してきたお土産に対して遠慮をしたら、後からエミちゃんに『可愛げがない』と言われたんですよね。

「リコ?そのブローチが気に入ったのなら、買おうか?」
ヘインリヒさんはニコニコと手を差し出してきました。
「は……はい」
可愛げ……愛嬌……。
そうです。ヘインリヒさんは私に物を贈りたいと思っているのだから、遠慮しない。
「ご主人様、ありがとうございます」
私は笑えたでしょうか?感じ良くできたでしょうか?

ヘインリヒさんは気を良くした顔で会計へと歩いて行きました。


店を出てから私たちは国立図書館と大市場を巡りました。
国立図書館ではヘインリヒさんが何冊か本を借りてくれました。この国の建国歴史書とか、魔法入門とか雑誌とかです。家に帰ったらゆっくり目を通してみます。
市場は活気に溢れていて、テントが沢山張られ、食料や衣類、異国の商品も並んでいました。ヘインリヒさんはこの国の作物や衣類の説明をしてくれました。やはり近世ヨーロッパ風ですけれど、どこか和風な商品も混ざっています。
「リコ、前の世界と同じような食べ物はあるかな?」
「あります。あれです。ご主人様、これ、日本のしらす干しと同じです!わぁ……チリモンも入ってる」
海産物は他の国から入って来るのか、塩干類しかありませんが、とても懐かしいです。
「よし、買おう」
「え?」
「ほら、他には?ないか?」
ヘインリヒさんは急がす様に目配せしてきます。忙しなく目を動かして金色の長い睫毛が揺れていました。
「え……あ、お米もある」
「ライスだな。よし、それも買おう」
ヘインリヒさんはサクサクと食品を買い求めるために手に取り始めました。私はそれを驚いて見ていました。
「でも、食べ慣れないんじゃ?それにこんな一杯……美味しくないかも知れないのに」
「一緒に食べよう、リコ。リコの世界と同じなら良いな」
私の戸惑いを一蹴するみたいにヘインリヒさんがカラリと言いました。

「教えてくれ、リコ。君の世界の事を知りたいんだ」
彼は棒鱈を握ったまま私に笑いかけます。さっきの嫌な気分がパッと消えて、今はワクワクした気分になっていました。なんでか、そう言って貰ったのがとても嬉しくなったのです。

「はいっ」
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