言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

文字の大きさ
386 / 402
白虎


思い返せば、何度か寝泊まりしたことはあっても、社や社務所の中をよく見て回ることはなかった。一度目は何がやんやらという状況だったし、二度目は別の急を要する用事があったので、部屋を探検する余裕なんてなかった。

荷物を置いた私たちは直ぐに手分けして敷地内を調べることになった。

私は一度白虎を見かけた鎮守の森の調査を任されたので、梅の花が咲き乱れる森の中を彷徨う。むせ返るような濃厚な梅の花の香りが懐かしい。

初めてここへ来た日も、こんな風に梅の花が咲き乱れていた。木の幹をそっと撫でながら少しづつ奥へ進む。


本当にうっすらと、その景色を覚えている気がした。幼い頃に見た景色だ。

目が覚めるような鮮やかな梅重うめかさね色の絨毯の上を駆け回り、大きな木に登って遊んだ記憶。

そう、いつも木に登っていたら「御神木で遊ぶんじゃない!」と誰かに叱られていた気がする。あれは、絹糸のように艶やかな白髪、蜂蜜を掬いとったような琥珀色の瞳を持ったお兄さんだ。


────恣冀しき


時期的には間違いない。

志ようさんが最後に十二神使を顕現したのは空亡戦の終盤、私がかむくらの社へよく遊びに行っていたのもその頃だと母のスケジュール帳には書いてあった。

私は幼い頃、白虎にも会ったことがある。


そして最後まで行動を共にしていた白虎が、志ようさんから何も聞かされていないはずがない。おそらく白虎は、先見の明で見た未来で私や志ようさん自身がどうなるのかを聞いている。

聞いた上で最後まで行動を共にして、その後姿を隠した。


白虎は何をどこまで知っていて、今どこで何をしているんだろう。



12時を少し過ぎた頃に恵衣くんからグループトークに「一旦集合」というメッセージが入り社務所に戻ってきた。

先に戻って来ていた皆は、来る途中で買ったおにぎりを食べてお昼休憩を取っていた。


「おかえり巫寿ちゃん。そっちどうだった?」


私が選んだおかかおにぎりを袋から投げてよこした来光くん。お礼を言いながらキャッチして首を振る。


「まあそう都合よく現れるワケないよね。こっちも全然手がかりなしだよ」


どこかから持ち出したのであろう巻物を読みながら梅干しおにぎりを齧る嘉正くんが溜息を吐く。

その時、席を外していた恵衣くんがお盆に急須と湯のみをのせて現れた。


「おい、机拭いたのか。よくそんな汚い机で飯が食えるな」

「神聖な場所だから汚くないでーす」


来光くんの軽口に頬をひきつらせる。黙々と机の荷物をどかしてテーブルを拭く。手伝うよ、とお盆を代わりに持った。


「茶葉は使えるやつなんだよな」

「あ、うん。前に来た時に、禄輪さんが持ってきたやつだから」

「ならいい」


湯呑みを並べて手際よくお茶を注ぐ恵衣くん。空いてるスペースにお皿を並べて、みんなが直置きしているおにぎりを皿の上に載せ直した。

寮生活の時から薄々気付いてはいたけれど、恵衣くんって本当に綺麗好きだよね。

巻物から顔を上げた嘉正くんがくすりと小さく笑う。


「ありがとう恵衣母さん」

「こんな衛生観念のない息子を産んだ覚えはない」

「母さんは否定しないんだ」

「バカなのかお前」


恵衣くんの「バカなのかお前」を久しぶりに聞いた気がしてなんだかおかしい。それにしても、随分気軽に軽口を叩くようになったものだ。

やっと納得する程度片付いたのか、恵衣くんが机の前に腰をおろしおにぎりの包装に手を伸ばした。


「で、白虎が出てきそうな気配はあるのか」


ちらりと視線を向けられて、力なく首を振る。


「正直言うと、全くない」


かむくらの社へ行けばなにか分かるかもしれない、みんなどこかそう期待していたので申し訳なさに縮こまる。


「そう簡単に上手くいくとは思っていないから安心しろ。これがダメなら別の方法を考えればいい」


励ましなのか、それとも最初から本当に期待していなかったのか微妙な言葉を頂戴しなんとも言えない顔でおにぎりにかぶりついた。


「スマホの予想では今日の日の入りは18時前だ。念の為一時間前にここを出るとしても、あと5時間はある。焦るなよ」

「だね。白虎が現れなかったとしても、貴重な書物は沢山あるからいくつか拝借していこう。審神者の最後の祝詞の、手がかりになるかも」


来光くんの「拝借」という言葉に頬をひきつらせた恵衣くん。葛藤の末聞かなかったことにしたようで、無言で湯呑みを啜った。

その時、嘉正くんが「あ」と顔を上げる。


「そういえば、帆負命ほおいのみことの家で恵衣が"ある人に頼んだ"って言ってた件、あれなんだったの?」


恵衣くんが「ああ」とひとつ頷く。


「泰紀だ。あいつに本庁に忍び込んで、資料室に厳重保管されている空亡戦に関する資料を見てくるよう頼んだ」


しれっと答えた恵衣くんに、男子二人は絶句する。

その気持ち分かるよ、わかる。


「お前、本当にチーム罰則ぼくらに感化されちゃったね……」

「本当にな」

「自覚あるんだ」


いつかのやり取りと全く同じで小さく吹き出した。


「専科の卒業式の日は本庁が手薄になると伝えておいたから、もう潜入は済んでいるはずなんだが連絡がない。おそらく失敗したんだろうな」

「本庁に潜入なんて、成功する方が奇跡だろ」


嘉正くんの言う通りだ。

本庁の庁舎内は至る所に御札が貼ってあって、通行許可札を持っていなければ即刻通報されるシステムだったはずだ。


「まぁでも、アイツなら上手くやるだろ」


ずずっとまた湯呑みを啜った恵衣くんに、今度は私も含めた全員がポカンと口を開けて言葉を失った。

規律が絶対でいかなる時も自分を貫くあの恵衣くんが、結果を他人に委ね、それを信じて待っていることが何よりも衝撃的だった。


「だから、審神者の最後の祝詞に関してはあまり考えなくていい。俺たちはまずは三種の神器を確保し、安全な場所に移すことを考えるぞ」


私たちはお互いに顔を見合せた。やれやれと少し呆れた顔をして笑うと、「了解」と声を揃えて応えた。


感想 3

あなたにおすすめの小説

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

最強お嬢様は手がつけられない——けど幼なじみだけは例外です

由香
キャラ文芸
名門家に生まれた令嬢・白鷺院凛華は、才色兼備にして冷酷無比、“氷の女王”と恐れられていた。 ——ただ一人を除いて。 幼なじみの黒瀬悠真だけは、彼女に平然と口答えし、距離も近い。 それどころか凛華は、彼の前ではなぜか機嫌が崩れる。 「……あんた、なんでそんな顔してんのよ」 それは誰にも見せない、寂しさの色。 彼女を狙う陰謀、家同士の思惑、婚約問題。 完璧なお嬢様が唯一頼るのは——ずっと隣にいた幼なじみだった。 これは、最強すぎるお嬢様と、彼女の弱さを知る唯一の少年の、距離バグな主従ラブ。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。