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かむくらの屯所
壱
しおりを挟む耳にかけていた髪が頬に落ち、問題を解いていた手を止めた。集中力が途切れてしまったのか思い出したように身体のあちこちがきしみ始め、ペンを置いてひとつ大きく伸びをする。
ちらりと周りに視線を向けると、程よく暖房の効いたファストフード店の二階席はいつの間にか制服姿の学生達で溢れていた。皆楽しげに友人たちと語らいながらハンバーガーに齧り付いている。
スマホの画面を叩くと時刻は17時を示す。少し前に学校が終わって、「帰りにポテト食べない?」と話題が出る頃合だ。
すっかり冷えきったキャラメルラテを口につけ、メッセージアプリを立ち上げる。
いつもと変わらないメンバーからのメッセージが届いていて、一人ずつ返事を返していく。下までたどり着いた後、お気に入り登録しているグループトークの画面を開いた。
一番最後にそこで交わした会話は二学期の修了祭のあと、帰りの車の時間がばらばらでちゃんと挨拶ができなかった私たちは「また三学期に」というやりとりをグループトークで送りあった。
少し前までは話題が尽きることのなかったグループトークが今ではしんと静まり返っていて胸の辺りがきゅっと痛む。これまでは何とも思っていなかった日常が、私にとっては大切な時間だったことを今になって実感する。
ため息をついて視線を窓ガラスの外に向ける。楽しげに語らいながら帰路に着く人達を見下ろして、何とも言えない閉塞感に襲われる。
眉根を寄せて俯きかけたその時、ブブッとスマホが震えてメッセージを受信したことを知らせる。画面を立ち上げると送り主は親友だった。
【巫寿下見て! しーたー!】
不思議なメッセージに首を傾げながらガラスに顔を寄せる。
満面の笑みで下からこちらを見上げてブンブンと手を振る人物にプッと吹き出し、私も小さく振り返した。
二階席へ上がってくる前に買ってきたらしいホットココアを一口煽って「あったまる~」とこぼした親友に肩を竦めた。
数ヶ月は会っていないはずなのだけれど、そんな時間さえ感じさせないようないつも通りのやり取りが少し嬉しい。
「久しぶり、恵理ちゃん」
「久しぶり! 定期テストさえ被ってなければすぐに会えたのに~。ていうか話には聞いてたけど、神修って本当に冬休みが長いんだね? いいなぁ」
一週間ほど前に冬休みに入った私とは違って、あと数日登校が残っている恵理ちゃんは羨ましそうに唇を尖らせた。
「その代わり授業が大変だよ」
「全然いいよ、休み長い方が嬉しいもん! あ、これ冬休みの宿題?」
どれどれ、と私のノートを覗き込んだ恵理ちゃんは「これ高三の単元じゃん!」と声を上げて顔をしかめる。
私たちの高校は授業の半分が特別科目や実習に当てられているので、授業の進行スピードが一般の高校に比べてかなり速いらしい。
やっぱ今のままでいいわ、と肩を竦めた恵理ちゃんにくふふと笑った。
それからは近況報告に花を咲かせる。夏の大会で先輩が引退した恵理ちゃんは部活動で次の部長に任命されたらしい。今年の文化祭の実行委員も務めたらしく忙しいながらも非常に充実した毎日を送っているようだ。
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