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相模とまこ

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ほんの出来心だった。

誰かが言った、腕を切るよりピアスを開ける方が合理的だと。

その言葉を鵜呑みにしたわたしは、名札についた安全ピンで左耳垂を刺した。

すぐ近くから、ブツッと音がする。そして暖かい雫が指をつたっていくのが分かった。

不思議と痛みはない。高揚感だけが溢れていた。

その穴は次第にわたしの身体中を蝕んでいった。苦しみを覚えるたびに増える穴、感じる痛みに、いつしか依存的になっていた。

そんなわたしの姿を見て君は言った。


「舌ピアスが似合いそうね」


その言葉に乗せられるように、わたしはその晩舌の中心へ穴を開けた。唾液と血液が混じり合って指にドロドロと絡みつく感覚が何とも言えず心が躍る。

わたしはその穴を一週間、二週間、一ヶ月、半年と大切に育てていった。

ついにその穴は直径一センチ程の大きさになった。

わたしはその穴を鏡越しに見るたびにひどい満足感に襲われた。

他人はこの穴を異物を見るような目で見つめる。気持ち悪いと吐き捨てる人もいた。それでもわたしはこの穴が愛しくて堪らなかった。


「痛そう」


君が呟いた。


「でも可愛いでしょう」


そう笑って見せると、君は困った顔をした。


「そこまでぽっかり空いてると、可愛いかどうかも分からないわ」


言葉がわたしの心を貫いた。目には見えない部位にまたひとつ穴が増える。

この穴は今まで開けたどの穴よりも、広く、深く、とても痛かった。

君が去ったあと、わたしはもう一度鏡越しに舌の穴を見た。

それは、あの時の高揚感も満足感も夢も想いも感じられない、ただの穴だった。





【空白:ぽっかりと空いている部分のこと、何も存在しないこと】
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