悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません

ちとせ

文字の大きさ
12 / 18

11.孤児院

しおりを挟む


孤児院に到着したカイを出迎えたのは、明るく元気な子供たちだった。

「おにーさん、きれーい!」
「お姫さまみたい……!」

(ええ……姫って言われたの初めてなんだけど!?)

きらきらと目を輝かせて駆け寄ってくる子供たちに、カイは思わず苦笑する。中でも一際小さな女の子が、じーっとカイを見つめながら、両手でほっぺをぎゅっと押さえた。

「ねえ、わたし、大きくなったらおにーさんのおよめさんになる!」

「ふえっ!?」

あまりに突然のプロポーズ(?)に、カイは盛大に咳き込んだ。

「……コホン。う、嬉しいけど、それはまた大きくなってから考えようね?」

そう言って頭をなでると、女の子は恥ずかしそうに笑って、くるりと踊るようにその場を去っていった。

そんな微笑ましい雰囲気の中、孤児院の奥から、やんちゃそうな男の子が顔を出した。だが、何かを企んでいるように口元をぴくりとさせ——

「おにーさん、これあげるー!」

そう言って手渡してきたのは、なぜか生ぬるく、やけにリアルなカエルの人形。

(……これは、試されてる!?)

まっすぐに向けられた視線には「お前、これで動揺するだろ?」という確信が滲んでいる。

だがカイは微笑んだまま受け取ると、ぎゅっと抱きしめてみせた。

「ありがとう。とってもユニークだね。名前、つけてあげようかな」

「……えっ」

少年は目を丸くした。

「うちの使用人にも、動物のぬいぐるみに名前つけてる子がいるんだよ。これは……“フロッグ卿”って感じかな。貴族っぽくていいでしょ?」

「フ、フロッグきょう……っ、ぶはっ!」

堪えきれず吹き出した少年の顔が、赤く染まる。

「へ、変な人ー!」

そう言いながらも、彼は満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。近くにいた他の子供たちも「フロッグ卿!」と真似をし始め、わいわいとカイの周囲に集まってくる。

「……不思議ですね」

少し離れたところからその様子を見守っていたゼクスが、小さく呟いた。

「え?」

「子供たちは、警戒心のない者ほど懐きやすいと聞きます。けれど……あなたは貴族だ。それなのに、どうしてこうも自然に、周りの心をつかんでしまうのか……」

「そ、それ褒めてるの?」

ゼクスは珍しく少しだけ笑った。

「もちろん、褒めてます。……あなたには、人の心を溶かす力がある」

その言葉に、カイは思わず目をそらす。

(……なんでだろ。ゼクスにそう言われると、なんか、恥ずかしい)

小さな手がカイのコートの裾を引っ張る。

「おにーさん、また来てくれる?」

「うん、また来るよ」

心からの笑顔でそう約束すると、子供たちの歓声が上がった。

こうして、カイの小さな善行は、また一つ積み上がったのだった。


***


孤児院での寄付活動を終え、帰り道。

屋敷に戻る途中、カイが馬車に乗る際にゼクスはそっとカイの手と腰に手を添えた。

「カイ様、足元がお疲れのようでしたので」

「え、あ、そうか……ありがとう」

そんな些細な仕草にも、なぜか胸がぽかぽかと温かくなる。

(……やばい、なんかゼクスに頼るのが、だんだん当たり前になってきてる)

けれど、同時に。
ふとした瞬間にゼクスが見せる、他人を寄せつけない鋭い視線にも、微かに気づきはじめていた。

(……ま、まさか、気のせいだよな)

カイは自分にそう言い聞かせ、胸のざわつきを誤魔化す。

だが。

ゼクスは、騎士の仮面の下で、すでに確信していた。

——私には、カイ様がすべてだ。
——カイ様がもっと私を頼り、私なしではいられなくなれば良いのに…

ゼクスの中の独占欲は、さらに静かに膨れ上がっていく。

(……もう誰にも触れさせない。カイ様は、私だけのものだ)

だがその狂気は、まだ表には出さない。
周囲は薄々気づき始めているが、カイだけはまだ——。

主従の距離は、今日もまた、少しだけ縮まった。

カイがその根底にあるものに気づくのは、もう少し先のことだった。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...