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6.変化
しおりを挟む時は少し遡り……
カイが屋敷のみんなにプレゼントを渡して回ってる頃。
春の日差しが柔らかく差し込む中、カイは使用人たち一人ひとりに感謝を述べて、贈り物を渡していた。
「いつもありがとう。君のおかげで屋敷が綺麗に保たれてる」
「こちらこそ、坊ちゃまのお言葉が一番の励みでございます」
言葉を交わすたび、侍女たちは嬉しそうに顔を綻ばせた。
侍従たちは少し気恥ずかしそうにしながらも、受け取ったプレゼントを大事そうに手にする。
ゼクスには断られてしまったことをまだ引きずってはいるが——それでも今は、少しでも人との繋がりを大事にしておきたかった。
使用人たちの中には、カイが転生前の悪役ムーブをしていた頃の印象をまだ拭いきれない者もいるかもしれない。
だからこそ、彼はこの日を機に、ほんの少しでも信頼の欠片を得られたらと願っていた。
そして、ひときわ年嵩の執事にも贈り物を手渡す。
「あなたには特に、お世話になってばかりで……」
「いえ、坊ちゃまのお成長を日々感じられるのが、私どもの何よりの喜びでございます」
あたたかな言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
自分がこの世界で何かを築き始めている実感があった。
そんな様子を、ゼクスは少し離れた廊下の陰から見ていた。
(あの顔……本当に、変わったな)
侍従に微笑みかけるカイの横顔は、何かを偽るような気配もなく、ただ純粋に人を大事にしようとするそれだった。
かつてゼクスが警戒していた、権力で人をねじ伏せようとするような“嫌な貴族”の面影はもうどこにもない。
それどころか、使用人たちに心から感謝を伝え、丁寧に頭を下げるその姿に、ゼクスは妙な胸のざわつきを覚えた。
(どういうことだ……わたしは、ただ任務で護衛しているだけのはずなのに)
誰かと笑い合うカイを見るたび、目が離せなくなる。
そのくせ目が合うと、その整った顔に毎回ドキリとさせられてすぐに逸らしてしまうのだ。
改めて中庭にいる彼を見る。
誰かに褒められて、嬉しそうに頬を緩めるその表情が無性に胸をざわめかせる。
(わたしの前では引き攣った表情ばかりなのに…)
先程わたしにも贈り物を渡そうとしていたカイ。
深く関わるのは避けるべきという警戒心と、騎士として「自分がもらう側に立ってはいけないのではないか」という責任感からもらうことを断ったが──
その時の、一瞬見せた傷ついたような表情が頭から離れない。
護衛という立場上当然のことをしたと思っていたが、他の者たちがすんなりともらって喜んでいる姿を見ると受け取っておけば良かったかという気持ちも芽生えてくる。
ゼクスの視線は、他の者と話すカイに自然と釘付けになっていた。
そして次の瞬間。
「カイさま、お荷物をお持ちしますよ」
執事との話を終えて歩き始めたカイに寄り添い、話しかける若い侍従。
その侍従に女神のような微笑みを見せるカイ。
ゼクスは一瞬にして面白くない感情になるが、カイがやんわりと断っているのを見てホッとした。
その理由を、彼はまだ言葉にできずにいた。
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