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14. 前進
「セイブリアン卿」
「っ、イリス殿……っ」
真っ青な顔をして、再び大粒の涙をポロポロと流している。これから私に拒絶されると思っているのだろうか。
実際、応えられないのは事実だ。
(でも──)
「皆様のおっしゃる通り、私には夫がいます」
「やはり……っ、うぅっ、出会うのが遅かったか」
片手で顔を覆い、人目も憚らず男泣きする彼。
(というか、初対面からほぼ泣いてるんだけど……これで元は寡黙な人だったなんて想像できないわね)
それだけ彼らにとって番とは、感情が揺さぶられる存在だということなのか。
「──でも、近日中に離婚する予定なんです」
「「は?」」
リディオ殿下とエクトール様の声が重なる。
どうやら涙が止まったらしい。
「夫は今、領地の視察に行っているんですが、ただいま絶賛浮気中なんですよね。なので今、その証拠を集めている最中で、視察から帰ってきたら離婚届を突きつけてやる予定なんです」
今朝までは絶望の中にいたのに、こうして笑顔で話せる自分に驚いている。
それだけエクトール様との出会いが鮮烈だったのもあるけれど、何より一番はギフトから解放されたことだ。
もう汚いものを見なくていい。
それだけで嬉しくて涙が出そうだ。
「離婚するまでは、私は他の者たちに誤解を招くような行動は取りたくありません。私に瑕疵ができればその分だけ離婚に時間がかかります。それだけは避けたいのです。だから、私が番だというのは口外しないでいただけませんか?」
「…………私の想いは迷惑なだけか?」
「正直に言えば、困惑しています。私と貴方は数時間前にお会いしたばかりですし、私は貴方のことを何も知りません。ですが、迷惑とは思っていません。素敵な殿方に好意を向けられ、とても嬉しい限りですわ」
私の言葉に彼の頬が紅潮し、その美しい瞳が期待で煌めきだした。
「ですが先程も言ったように、私は道理に反することはできません。セイブリアン卿にはそれを理解していただきたく思います」
「——承知しました。ただ、一つだけ答えがほしい。もし離婚が成立した時には、少しでもいい。私に貴女との時間をくれないだろうか? まずは番とか関係なく、貴女のことを知りたい」
彼の願いに、私は笑顔で頷いた。
「はい。友人からでよろしければ。私にもエクトール様のことを教えてくださいませ」
「イリス殿!!」
「良かったな、エクトール。首の皮一枚繋がったじゃないか」
喜びに震える側近の背中をバシバシと叩きながら、リディオ殿下は私に感謝の言葉を述べた。
恐れ多いその言葉にこちらも礼を返し、最後は和やかに会談を終えた。
彼らを迎賓室に案内した後、私と兄様とマルシェの三人だけが残った。お茶を飲みながら一息つく。
「とりあえず、こちらの希望条件を満たした条約が結べて良かったな。イリスのおかげだよ、ありがとう」
「私はおまけ程度よ。ほとんどレイブン兄様とマルシェが話を進めていたじゃない」
「それでも、リディオ殿下がイリスの事業に興味を持ってくれたから、我が国と親交を深める決断をしてくれたんだ。イリスの功績でもあるよ。賛辞は素直に受け取りなさい」
「ふふ。ありがとう、兄様」
本当に、うまくいってよかった。
今日の経験は、きっと私の自信に繋がるだろう。
公爵家で進めている研究も、他国でも重宝されるものだとわかった。今度論文を発表するのもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、マルシェが深刻な顔をして口を開いた。
「──ねえ、イリス。一体どうする気なの? 貴女このままだと遅かれ早かれ竜王国に連れていかれるわよ?」
「ええ? まさか。今日会ったばかりよ?」
「でも獣人や竜人は、番認定すると何が何でも国へ連れ帰るらしいわよ。中には犯罪まがいの連れ去りも──」
「マルシェ、不用意な発言はやめなさい。それに彼らは他種族に理解がある方たちだ。そんなことはしないよ」
レイブン兄様が低い声でマルシェの言葉を封じた。
今のは彼らが聞いたら侮辱だと受け取られかねない発言だ。
「でも、為人もよくわからないのに、番というだけでいきなり距離を縮められても不信感しか湧かないでしょう?」
(マルシェは私を心配してくれているのね)
「魔眼で見る限り、彼らに他意はない。エクトール殿は純粋に番のイリスを好いているだけだよ。それに、イリスも結構彼が気に入ってるんじゃないか?」
「え? そうなの!?」
やはり兄様は気づいていたようだ。
「どこよ!? どこに気に入る要素があった? 確かに容姿はかなり整っている人だったけど、ひたすら泣いてただけじゃない」
「消えたの」
「何が?」
「ギフトが消えたのよ。彼と目が合った瞬間、きれいさっぱり消えたの」
私は不思議な体験を二人に話した。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
本日、Xにシグルドのイラストを載せる予定です。
時間は未定で……(汗) そしてラフになります(汗)
完結したら後書きで仕上げて載せるかも?
エクトールのイラストも今週中にはXに載せる予定です。
顔を見てやっても良い方はXのフォローをしていただけたら嬉しいです(^^)
@Hanamizuki_ate
作品のプロットや進捗状況、告知などもXでご報告させていただいてます。
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