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少しずつ近づいていく関係
5話 お兄ちゃんが欲しかった話
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「ねぇ、あのまま寝てても良かったのに、どうして出かけようってなったの?」
「大人になった男には色々と困ることもあるんだよ」
「まだ十八歳なのに大人?」
ぐぬぬぬぬぬ。と心で思いながらも、その気持ちを拳を硬くして耐えた。
「晴夏よりは大人だろ?」
「うん」
俺のことを見ず、前を向いて歩いたまま、小さく頷いて答えた。そんな、即答に驚いていると、俺はずっと密かに不安だったことを聞いてみることにした。
「なぁ・・・・・・俺って頼りになるか?」
「頼りにって?」
「こういうとき助かるとか、こういうとき助かるとかさ」
「二度同じこと言った」
「そうだっけ?」
「うん。助かるとかはまだ一緒になって数日だからよくわからないけど、一緒にいたら安心はするかな」
「安心ねぇ」
ではそう言った。けれど、本当は嬉しくてたまらなかった。まだ形になった頼られ方っていうのはないみたいだけど、安心するっていうことも、立派な”頼られる”の一つだと思った。
「それじゃダメ?」
「ダメじゃないよ。それより、一緒になってっていう表現がちょっとよくないかなぁ」
「なんで?」
「なんででも」
「わからないよ」
俺と晴夏は駅の方に向かっていた。この町には二カ所の駅があって、栄えている方に向かっている。そこから電車に乗って何処かに行ってもいいんだけど。
例えば、好いている女の子と二人で遊びに行けることになったとして、最初は良いところに、楽しいところに連れてってあげたいと思うかもしれないけど、そんなことは続けられるわけなくて、いつかキャパオーバーしてしまう。
「お腹空かない?」
「そういえば朝から何も食べてないかも」
「モーニングでも食べに行こうぜ」
「もーにんぐ? ぐっど?」
「なんだ、そんな英語もう知ってるのか」
「学校で習うよ?」
「朝飯食べに行こうぜ」
「最初からそう言ってよ」
「いやだから、そう言ってんだよな。最初から」
「ふーん、回りくどいなぁ」
「回りくどいとか言うな」
晴夏はあははと笑っている。
晴夏の後ろ姿は小学生だった、肩幅も背中の大きさも足の細さも。頭の小ささも。そんな晴夏の中身はさみしがり屋で、所々大人で、そして、時々生意気だ。
「なんかあったらなんでも言えよ」
「うん。そうする。だってね、クラスでね、お兄ちゃんがいない同盟ってのがあってね、いつもほしーねーって話してるんだよね。私まだその仲間で良いのかな?」
「なんなんだ、その同盟・・・・・・まぁいいんじゃないか?」
「キミトお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない?」
「本当の兄弟じゃないしいいんじゃない?」
「そっか、そうだよね」
俺がまだ晴夏ぐらいのときだったか、かわいい妹が欲しくなって、お年玉を全額神社のお賽銭箱に入れてお祈りしたことがあった。今思えば、そんなこと当然叶うはずがないんだけど、晴夏と一緒にいれるようになって、妹みたいなものができた。時々見せる恥ずかしがる女性みたいな面は、妹が欲しい欲とドキドキする女性の魅力みたいなものを天秤にかける。
妹は欲しいけど、彼女も欲しい。でも、小学生を彼女にするわけにはいかなくて、そもそも俺なんかが晴夏の彼氏候補に入るわけもなくて、どうしたら良いか一人で悩んでいる。
それもこれも全部、晴夏が魅力的すぎるからいけないんだ。仮に俺が晴夏の父親だったとしたら、婚約相手を連れてきたときに一筋縄では許さないだろう。
「晴夏って誕生日、夏だろ?」
「なんでわかったの?」
「だって名前に夏って入ってるし」
「あーなるほどねー。キミトお兄ちゃんのキミトってどんな漢字?」
「男の子のこと、なんとかくんって言うだろ? その”君”に・・・・・・”人”って書いて君人」「それで君人くんなんだね。学校にはいないかも」
「そうだね。俺も同じ名前の人と出会ったことはないよ」
「いいなー。自分だけっていうのが魅力的だよ」
「晴夏だって珍しいよ。晴夏って聞いたらさ、春っていうイメージがあるけど、漢字見てみたら夏って入ってるんだよ? 春か夏かはっきりしろって思う」
「それはママに聞いて?」
「うん。そうするよ」
俺も自分の名前の意味をはっきり知らない。小学生の頃の宿題に、名前の由来みたいな宿題があった気がするけど、そのときに書いたことなんて、もう覚えていない。
「お兄ちゃんはさ・・・・・・」
「なに?」
なかなか口を開かない晴夏。
「一人暮らし怖くなかった?」
見上げてくる晴夏。ちょうど横断歩道で赤信号だった。
「怖くなかったか・・・・・・うん。別に大丈夫だったかな。だってもう十八だし、いつまでも子供じゃいられないしね」
「そうなんだ・・・・・・」
晴夏は不安そうな顔を少しずつ微笑むぐらいの笑顔に変えていった。
「じゃぁ・・・・・・えっと・・・・・・お兄ちゃんは、キミトお兄ちゃんと、ただのおにいちゃんとどっちが呼ばれたい?」
それどっちも同じじゃん。と俺は頭を抱えた。
「それ、どっちもお兄ちゃんだよね? キミトくんとかキミトとか、そういう選択肢はないの?」
「ないよ。だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん。それとも、兄ちゃんとか、兄さんとか、おにぃとかにする?」
「それも全部お兄ちゃんって意味だよね?」
「そうだけど・・・・・・だめ?」
「だめじゃないけど」
「それじゃぁこれからもお兄ちゃんで! 私ずっとお兄ちゃんが欲しかったんだよね」
「いらなかったら、あんな同盟に入らないよね」
「うん! 今度、お友達連れてきても良いかな?」
「お、おう、そんなに大勢じゃなければ・・・・・・部屋狭いし」
「ありがとう!」
信号は青に変わった。
「というか自分の家に招いたら良いんじゃない? 俺関係なよね?」
ん? と晴夏は首をかしげた。
俺と晴夏は駅に向かって歩き出す。
「大人になった男には色々と困ることもあるんだよ」
「まだ十八歳なのに大人?」
ぐぬぬぬぬぬ。と心で思いながらも、その気持ちを拳を硬くして耐えた。
「晴夏よりは大人だろ?」
「うん」
俺のことを見ず、前を向いて歩いたまま、小さく頷いて答えた。そんな、即答に驚いていると、俺はずっと密かに不安だったことを聞いてみることにした。
「なぁ・・・・・・俺って頼りになるか?」
「頼りにって?」
「こういうとき助かるとか、こういうとき助かるとかさ」
「二度同じこと言った」
「そうだっけ?」
「うん。助かるとかはまだ一緒になって数日だからよくわからないけど、一緒にいたら安心はするかな」
「安心ねぇ」
ではそう言った。けれど、本当は嬉しくてたまらなかった。まだ形になった頼られ方っていうのはないみたいだけど、安心するっていうことも、立派な”頼られる”の一つだと思った。
「それじゃダメ?」
「ダメじゃないよ。それより、一緒になってっていう表現がちょっとよくないかなぁ」
「なんで?」
「なんででも」
「わからないよ」
俺と晴夏は駅の方に向かっていた。この町には二カ所の駅があって、栄えている方に向かっている。そこから電車に乗って何処かに行ってもいいんだけど。
例えば、好いている女の子と二人で遊びに行けることになったとして、最初は良いところに、楽しいところに連れてってあげたいと思うかもしれないけど、そんなことは続けられるわけなくて、いつかキャパオーバーしてしまう。
「お腹空かない?」
「そういえば朝から何も食べてないかも」
「モーニングでも食べに行こうぜ」
「もーにんぐ? ぐっど?」
「なんだ、そんな英語もう知ってるのか」
「学校で習うよ?」
「朝飯食べに行こうぜ」
「最初からそう言ってよ」
「いやだから、そう言ってんだよな。最初から」
「ふーん、回りくどいなぁ」
「回りくどいとか言うな」
晴夏はあははと笑っている。
晴夏の後ろ姿は小学生だった、肩幅も背中の大きさも足の細さも。頭の小ささも。そんな晴夏の中身はさみしがり屋で、所々大人で、そして、時々生意気だ。
「なんかあったらなんでも言えよ」
「うん。そうする。だってね、クラスでね、お兄ちゃんがいない同盟ってのがあってね、いつもほしーねーって話してるんだよね。私まだその仲間で良いのかな?」
「なんなんだ、その同盟・・・・・・まぁいいんじゃないか?」
「キミトお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない?」
「本当の兄弟じゃないしいいんじゃない?」
「そっか、そうだよね」
俺がまだ晴夏ぐらいのときだったか、かわいい妹が欲しくなって、お年玉を全額神社のお賽銭箱に入れてお祈りしたことがあった。今思えば、そんなこと当然叶うはずがないんだけど、晴夏と一緒にいれるようになって、妹みたいなものができた。時々見せる恥ずかしがる女性みたいな面は、妹が欲しい欲とドキドキする女性の魅力みたいなものを天秤にかける。
妹は欲しいけど、彼女も欲しい。でも、小学生を彼女にするわけにはいかなくて、そもそも俺なんかが晴夏の彼氏候補に入るわけもなくて、どうしたら良いか一人で悩んでいる。
それもこれも全部、晴夏が魅力的すぎるからいけないんだ。仮に俺が晴夏の父親だったとしたら、婚約相手を連れてきたときに一筋縄では許さないだろう。
「晴夏って誕生日、夏だろ?」
「なんでわかったの?」
「だって名前に夏って入ってるし」
「あーなるほどねー。キミトお兄ちゃんのキミトってどんな漢字?」
「男の子のこと、なんとかくんって言うだろ? その”君”に・・・・・・”人”って書いて君人」「それで君人くんなんだね。学校にはいないかも」
「そうだね。俺も同じ名前の人と出会ったことはないよ」
「いいなー。自分だけっていうのが魅力的だよ」
「晴夏だって珍しいよ。晴夏って聞いたらさ、春っていうイメージがあるけど、漢字見てみたら夏って入ってるんだよ? 春か夏かはっきりしろって思う」
「それはママに聞いて?」
「うん。そうするよ」
俺も自分の名前の意味をはっきり知らない。小学生の頃の宿題に、名前の由来みたいな宿題があった気がするけど、そのときに書いたことなんて、もう覚えていない。
「お兄ちゃんはさ・・・・・・」
「なに?」
なかなか口を開かない晴夏。
「一人暮らし怖くなかった?」
見上げてくる晴夏。ちょうど横断歩道で赤信号だった。
「怖くなかったか・・・・・・うん。別に大丈夫だったかな。だってもう十八だし、いつまでも子供じゃいられないしね」
「そうなんだ・・・・・・」
晴夏は不安そうな顔を少しずつ微笑むぐらいの笑顔に変えていった。
「じゃぁ・・・・・・えっと・・・・・・お兄ちゃんは、キミトお兄ちゃんと、ただのおにいちゃんとどっちが呼ばれたい?」
それどっちも同じじゃん。と俺は頭を抱えた。
「それ、どっちもお兄ちゃんだよね? キミトくんとかキミトとか、そういう選択肢はないの?」
「ないよ。だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん。それとも、兄ちゃんとか、兄さんとか、おにぃとかにする?」
「それも全部お兄ちゃんって意味だよね?」
「そうだけど・・・・・・だめ?」
「だめじゃないけど」
「それじゃぁこれからもお兄ちゃんで! 私ずっとお兄ちゃんが欲しかったんだよね」
「いらなかったら、あんな同盟に入らないよね」
「うん! 今度、お友達連れてきても良いかな?」
「お、おう、そんなに大勢じゃなければ・・・・・・部屋狭いし」
「ありがとう!」
信号は青に変わった。
「というか自分の家に招いたら良いんじゃない? 俺関係なよね?」
ん? と晴夏は首をかしげた。
俺と晴夏は駅に向かって歩き出す。
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