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05:要塞侵入

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◆改造
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 そして、お待ちかね。いよいよマユの改造の番だ。
 俺と目が合うと、マユは何かを察して逃げ出した。

「いや、俺も決して趣味で美少女女子中学生を改造しようというのではなく、戦力の増強のため仕方なく……」

 俺の話は聞いてくれなかったので、ペチカを派遣した。エスニャを助けたいペチカの必死の説得に、マユがほだされて戻ってきた。

 俺達は地下防空壕の片隅にある、人のいない小さな部屋に移動した。古い発電機や空調システムがある部屋だ。鍵をかけ、魔法で明かりを灯す。手術用の道具は駅ビルで調達したものだ。
 もちろん、この事は自衛官や他の人たちには秘密だ。

「……改造って何をするんですか?」
「マナバッテリーを搭載して魔法を使えるようにする」
「まほう?」
「とは言っても、スキルと言ったほうが近いかな。身体強化のパッシブスキルや攻撃のアクティブスキルだ」
「…………?」

 マユには馴染みのない単語らしい。訝しげに俺を見た。

「要するにパワーアップだよ。それと、一緒に内蔵武器なんかどうかな? 俺だったら右手にドリルが欲しいところだが」
「ドリル?」
「ドリルは男のロマンだぞ!?」
「私女ですけど。……どうせなら、武器がいいです。敵を叩き潰せるような」

 マユが楽しそうな笑みを浮かべた。

「俺としては、飛行ファイター形態に変形してもいいと思うんだけど」
「は? 何言ってるんですか!? 意味がわかりません」

 交渉の結果、マナバッテリーの搭載と強化呪文のインストール、内蔵式のドリルを装備することになった。

「まあ、今回はこれでいくか。じゃあ、服を脱いで」

 マユの視線が槍となって俺に突き刺さった。

 手術をするには服を脱いでもらわなければならない。

「いやこれは、決して邪な考えで言ってるんじゃないんだ。うろ覚えだけど、実際の手術でも手術着(?)の下は全裸で、施術中はそれも脱がされるはずだ。ただ、全身にドレープとか覆布オイフとかいうシートをかけて、患部?の場所だけシートに穴を開けて……」
「やっぱりやめます!」
「いいじゃん別に。一度見られてるんだし」

 裸族なペチカが気楽に言った。

「それに、マユ。最近体調が良くないんじゃないか? 詳しく調べる必要があるんだ。それに、服が汚れたら嫌だろ?」

 ゴーレムは術者に隷属する。いざとなったら命令もできるが、それだけはしたくなかった。

 マユはしばらく俺を睨みつけていたが、やがてプイと後ろを向いた。

「シートを下さい。それと、いいって言うまであっち向いててください」
「あ、ああ。わわかった」

 俺は理性を総動員して壁の方を向き、目を固く閉じて耐えた。何か不思議な、超自然の力が働いて俺を振り向かせようとしたが、鉄の意志でそれに逆らった。
 しばらく聞こえていた衣擦れの音がやみ、ベッドが軋んだ後、静かになった。

「……もういいですよ」
「あ、うん」

 振り向くと、ベッドの上にシートをかけたマユが横たわっていた。部屋の隅には脱いだ服がたたんであった。下着は見えないように隠してある。

「(この薄いシートの下には、一糸まとわぬマユの姿が……)」

 前回の記憶と想像力が必要以上に働いて、俺に幻を見せる。思わず生唾を飲み込んでしまった。まずい。マユに聞かれただろうか。

「何してるんですか。早くして下さい」

 ゴーレムであるマユは痛みを感じない。なので本来麻酔は必要ない。

「けど、自分の体を切り刻まれるのを見るのは精神衛生上良くないから、スリープの呪文をかけておこうか?」
「私を眠らせてどうするつもりですか?」

 麻酔は不要となった。
 今回の改造では心臓のあたりと腹部を中心にいじるので、対応するシートの部分をはさみで切り取る。マユの白い腹部があらわになった。きめ細やかでなめらかな肌が眩しい。シートの隙間から、胸の半球の一部がのぞいていた。

 ゴーレム制御魔法を唱えて、メンテナンスモードに切り替える。

「それじゃ、はじめるぞ」
「……どうぞ」

 ペチカがまた、俺の背中に隠れた。
 ドラッグストアで手に入れた消毒液で一応殺菌する。意識を集中させて、メス代わりのナイフを軽くマユの腹部に突き立てた。血は出ない。

「……痛いか?」
「平気です」

 胸部から腹部にかけてまっすぐナイフを滑らせる。この間と同じ手順で、皮膚をめくり、胸骨を取り除く。

「(俺には、人を切り刻んで喜ぶ趣味はない。そんな趣味はない)」

 冷や汗。動悸。前回に比べれば、それほど気分は悪くならなかった。慣れたのもあるだろうが、今回のマユは人の形をしている。

「ペチカ、汗を」
「う、うん」

 腹部はほとんどがゴーレム用の粘土だったはずだが、中身はかなり変化していた。移植した魔法装置も臓器っぽく(人のものとは違うが)変貌しており、骨格部品フレームも人の骨の形になっている。
 配線を切らないように慎重に作業する。仮に傷つけたとしても、回復呪文で修復は可能だ。

「ん……」

 痛くないとは言うが、感触はあるらしい。時折マユがうめき声をもらした。本人は顔を真っ赤にして、目を逸らしている。
 ナイフを動かすたびに、シートの下でマユの小さな胸がプリンみたいに軽く揺れた。

 再びマユの心臓が俺の目の前に現れた。前回とは違い、元気に脈打っている。心臓は、完全にコアユニットと同化していた。

 予めクラフト台で再構成したマナバッテリーを心臓の左右に配置する。敵のアイテムを使うのはちょっと抵抗があったが、クラフト台で再構成してあるので問題ないとの事だった。

 体調不良の原因を調べる。とはいえ、俺の知識ではさっぱりだ。嫌がるペチカを背中から引っ張りだして無理に見てもらう。

「……うーん。部品や体には異常はないみたいだよ」
「ホントか? ……なら、問題はソフトのほうか」

 やはり、人間をゴーレム化したことによる弊害か。もう一度呪文ソースを徹底的にチェックする必要がありそうだ。当面は回復魔法による対処療法しかない。

 胸部の改造はこれで終わりだ。胸の開口部を元通り閉じる。
 次いで、同様の手順で、右手と左足にも新しい魔法装置をセットする。それが終わったら、全体に回復魔法をかけて傷を塞ぐ。
 最後に、ゴーレム制御魔法を唱え、再起動して終了だ。

 約2時間に及ぶ大手術は見事に成功した。
 マユは起き上がって手早く服を着た。もちろんその間、俺は後ろを向いていた。

「……あまり変わってないみたいです」

 体をいろいろと動かしてみながら、マユが言った。
 神経を使いすぎて、俺はクタクタだった。壁に持たれ座り込む。

「……これで準備は整った。今日はゆっくり休んで、明日、出発しよう」
「待っててね、エスニャさま!!」

 ペチカが元気よく飛び回った。
 小部屋を出ると、地下防空壕の少し湿った空気が心地よかった。


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◆要塞侵入
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 翌朝早く、灰村達にあいさつして俺達2人と1匹は出発した。
 再度灰村に考えなおすよう言われたが、決意は変わらなかった。

 拾って整備したスクーターに二人乗りして、移動する。マユは後ろに女の子っぽく座っていたが、俺にしがみついてはくれなかった。

 倒れたビルや瓦礫、放置された車の間をすり抜けて移動すること約2時間半。ついに俺達は女神要塞の真下に到着した。

「……でかい」

 改めて見ると、その大きさに圧倒される。全体で3000mはくだらない、銀白色の巨大な構造体。一体どうやってこんな物を作ったのか。

「まだ気づかれてはいないみたいです」

 地下防空壕からそれほど離れてなくて助かった。この辺りにとどまる、何か目的でも有るのだろうか。俺達には分からない。

「それで、どうやってあそこまで行くんですか?」
「このまま行くんだよ」

 この数日、この時のためにあらゆる準備をしてきた。魔法の箒もすでに完成している。

「フフフ。見よ!! 我が光の翼、ペガサス1号!!!!」

 スクーターのキーを「飛行モード」に切り替える。座席下にあるヘルメットをしまう空間には魔法装置がぎっしり詰まっていた。クリスタルが輝き始め装置内部の複合魔法陣にマナが行き渡る。

 俺たちを乗せたまま、ペガサスはふわりと浮き上がった。同時にタイヤが横に90度倒れ地面と水平になる。ボディの横から鋼の翼が生え、空気をつかむ。

「な、なんですかこれ!?」
「これが、俺の『空飛ぶ魔法の箒』だ! エネルギー変換魔法を使って、俺のマナを使わなくても飛べるようになっている」
「ふ、ふん。レベル2にしては、まあまあかな」

 半分ほっぺたをふくらませて、ペチカが言った。

 ペガサスには、ガソリンエンジンの熱エネルギーを高効率で反重力エネルギーに変換出来る装置を積んである。エネルギー変換魔法を使って俺が設計したものだ。

 言葉で言えば簡単そうに聞こえるが、実は、考え方もそう難しくはない。まず、普通の魔法とは逆に、エンジンの熱エネルギーをマナに還元する。次いで、そのマナを使って反重力エネルギーを発生させるのだ。

 反重力エネルギーの存在自体がすでに反則とはいえ、エネルギー保存則から考えれば一応、理にかなっている。だが、この技術のポイントはそこではない。ここで注目すべきは、「マナ」の、呆れるほどの利便性の良さだ。「ただの熱」から「反重力エネルギー」などという得体のしれない力を生み出すとは。現代科学の常識をいろいろと超えている。俺の頭ではもはや意味がわからない。

 そもそも、マナとは全ての魔法の源となる力の事だと、ペチカは言っていた。しかし、この装置の働きを見るに、どうやらそれだけではなさそうだ。もっと根源的な、この宇宙の根幹をなす「何か」と、マナは密接に関わっているに違いない。

 異端アエレジスの杖を取り出す。

「【透明絶気ヴェールト・オフ】!!」

 マナの秘密はともかく、俺は魔法で姿と気配を消して、ペガサスを一気に上昇させた。

「すげー!! ほんとに飛んでる!!!!」

 咄嗟にマユがしがみついてきた。俺の腹に手を回し背中に密着している。ぬくもりが伝わってくる。天国とは、ここにあったのか。

「だ、大丈夫なの!?」
「まかせろ!! 免許はちゃんと持ってる!!」

 車の免許を見せてやった。

 下を見ると最初は少し怖かったが、すぐに慣れた。操作もそれほど難しくないし、スピードもあまり出ない。反重力というものは、すごく安定していて安心感があった。

 雲を突き抜け、ペガサスはぐんぐんと上昇していった。要塞は高度4000m辺りを飛んでいる。空気が薄いので全員に【呼吸補助エール・アウクシリアリ】をかける。これは、もともとは水中で呼吸するための魔法だ。

 要塞前面にハリツケにされている巨大な女神、エスニャの目の前に飛んで行く。顔だけで200m近くある。
 耳の方に近寄って、ペチカが必死で呼びかけたが反応は無い。よく見ると、首筋や背中にかけていろいろなパイプや装置がつながっていた。眠らされているのだろう。
 ペチカの言う通り、やはりエスニャは無理やり従わされているのだ。

「で、具体的にどうすれば助けられるんだ?」
「そんなに難しくないよ。エスニャさまが目覚めればOKなんだけど……」

 マユに視線を送る。

「そうですね。正面から要塞内部に突っ込むべきかと」
「いやいやいや」

 本気とも冗談とも分からない口調でマユが言った。俺があまり乗り気ではないのを見て、彼女は言葉を続けた。

「ですが、そのほうがマホウショウジョをたくさん殺せます」

 春の木漏れ日のような穏やかな笑みが眩しかった。

「なにか恨みでも?」
「そういうわけではないですが」

 俺は出会う前の彼女をよく知らない。もともとこういう性格だったのか、それともゴーレム化の影響なのか。いずれにせよ、ここは年長者として俺がしっかりせねばなるまい。

「俺としては、戦いはなるべく避けてこっそり侵入すべきだと思う」
「いかにも凡庸な作戦ですね」

 つまらなそうにマユが言う。

「ですがまあ、いいでしょう」
「……ペチカもそれでいいか?」
「うん、いいよー!!」
「入れる場所を探そう」

 要塞の表面にそってペガサスを旋回させ、入り口を探す。だが、そう簡単にはいかなかった。

「待って、敵です!!」

 マユが叫んだ。同時に前後左右から敵マホウショウジョの呪文攻撃が殺到する。機体をスライドさせ、どうにか回避することが出来た。

「気配消してるのになんでバレた!!?」
「ひょっとして、エンジン音じゃないですか?」
「…………!!!!」

 千慮の一失とはこの事だ。完璧だったはずの俺の計画の、思いがけない盲点だった。

 5、6体のマホウショウジョがホウキに乗って、俺達の後を追跡していた。それにしては、その攻撃は、狙いがあまり正確ではなかった。音は聞かれていても、敵には俺達が見えていないのだ。透明化自体はうまくいっており、完全に見つかったわけではなさそうだ。

「【ペコラ・パコラ・ポコラ】」

 敵の攻撃はなおも続いた。半ば当てずっぽうだとは思うが、狙いが不正確な分は手数でカバーしようとしている。数十本の光の矢を放つ広範囲攻撃魔法を全員が一度に放った。

「冗談!!」

 避けようがなかった。一本一本の攻撃力はそれほどでもなかったので大したダメージはなかったが、ペガサスの左の翼が弾け飛んだ。
 ペチカの悲鳴が上がる。制御を失い、ペガサスはキリモミ状態で要塞に突っ込んでいった。爆音とともに、俺の愛機は砕け散った。
 その直前、俺を抱えたマユが跳躍し、要塞の突起部分に着地していた。ペチカは自力で飛んでくる。

 何とかパラシュートなしのスカイダイビングをすることは避けられた。こんな時でさえ、マユは落ち着いている。

「ああ……俺のペガサス1号が……」

 不幸中の幸いと言うべきか、エンジン音がなくなったことで敵は俺たちを完全に見失った。【透明絶気ヴェールト・オフ】の効果はまだ続いている。

 眼下には真っ白い雲と、その下に航空写真で見たような地表が広がっていた。この高さだと、あまり恐怖は感じなかった。

 要塞の上部にはところどころ甲板に似た場所があり、マホウショウジョ達が頻繁に出入りしていた。その内のひとつから、中に潜入する。

 要塞の内部は、中世ヨーロッパ風のゴシック様式になっていた。敵の要塞でなければ、じっくり観光してみたいほどだ。それにしても、空を飛ぶ施設の素材としてこんな大量の石を使うとは、重くないのだろうか。

「【周辺探知デプレヘンシオ】」

 敵のいない場所まで移動して、探知魔法を唱える。専用スクロールを元に作った「魔法の地図」に周囲の地形が浮かび上がった。要塞全体を輪切りにスキャンしたような画像で、それほど精度は高くないが、通路と部屋の区別ぐらいはつく。

「この構造だと、多分ここが制御中枢だよ。ここを壊せば……」
「よし、急ごう」

 俺達が少し広い部屋に差し掛かった時、大気を軋ませる圧迫感が、周辺の空気を一瞬押しつぶした。俺たちを覆っていた光を遮る透明な膜がちりちりと剥がれ落ちる。

「な!!?」
「今のは、デスペルの魔法だよ。魔法効果を解除されたんだ! 気を付けて、何か来るよ!!」


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◆原初の七体
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「なにかって、なにかな?」

 俺達の後ろから、首筋を鳥の羽でくすぐられるような可憐な声が聞こえた。

 振り返って見ると、部屋の入口に1人の少女が立っていた。白い肌。ショートカットにしたシェル・ピンクの髪。装飾過剰のヒラヒラした赤い服。10才ぐらいの少女に見える。一番最初に見たマホウショウジョと同じ顔だ。

 彼女が手を振ると、俺達を追って現れた他のマホウショウジョや魔獣が大人しく引き下がった。
 少女は人懐っこい笑顔を浮かべ、親しげに話しかけてきた。

「こんにちは。お兄ちゃんたち」
「しゃべった!?」

 今まで戦ったマホウショウジョは、呪文以外の言葉を口にしなかった。だが、目の前にいるこいつは他のものとは様子が違う。他のマホウショウジョ達が人形的なのに対して、彼女は独立した人格を持ち、自らの意志で行動しているようだった。
 そしてなによりも彼女には瞳があり、より一層、幻想的で美しかった。

「そりゃしゃべるよ。コピーなんかと一緒にしないでほしいな」
「コピー!?」
「……ま、まさか……」

 ペチカが何かに気付いて震え始める。

「そう。わたしは『マホウショウジョ』の元になった原初の七体セプティム・オリジナルの1人、リッカ。はじめまして、だね」

 スカートをなびかせてくるりと一回転し、芝居がかった様子で少女は挨拶をした。カーテシーと呼ばれる古めかしいやり方だ。

 全体的に見て、彼女はただの幼い少女に見える。見えるのだが、それだけではない。彼女と向き合っていると、何故か冷や汗が止まらなかった。この場から逃げ出したくてたまらなかった。

 定位置となりつつある、俺の背中にペチカが潜り込んだ。

「リッカ……!? そんなばかな……」
「知ってるのか?」
「せ、千年前に魔女狩りで殺されたはずの、伝説上のマホウショウジョだよ」
「…………!!」

 つまり、こいつが他の雑魚マホウショウジョ達を作り出し、こっちの世界に攻めこんできた敵のボス、その内の1人という事か。
 しかも、他のマホウショウジョとは違う本物の魔女。
 なぜそんな奴がここにいるのか。生き返ったとでもいうのか。それとも、いわゆる霊となって戻ってきたのか。

 全身が警告を発する。この少女は普通ではない。俺達の知る常識の範疇外にいる、人ならざるバケモノだ。

「ふーん。まだこの世界にも魔法使いがいたんだ。そっちのおねえちゃんはゴーレムだね」

 ひと目で俺達の能力を見ぬかれた。マユは、警戒しているのか黙ったままだ。
 少女は面白そうに、俺の顔を覗きこむ。

「なんの用? 魔法使いなら、お兄ちゃんも私達の仲間だよ?」
「ふざけんな!! 俺達の街を破壊しておいて、よくも!!」
「逆らう気? お兄ちゃん、レベルいくつ? ……って、レベル2!? たった!!?」

 鈴を鳴らすような声で、少女は笑い転げた。そこだけ見れば無垢な少女が戯れているようにしか思えない。
 大きく息をついた後、無邪気な笑顔で少女は口を開いた。

「いいこと教えてあげるよ。私のレベルは1204だよ!!」
「は!!?」

 面食らって、変な声がでてしまった。冗談を言っているのか?

「1200!? 信じらんない……。人間でも60いけばいいほうで、100を超えた人は伝説になるぐらいなのに……」

 ペチカが解説してくれた。人の寿命ではそれが精一杯ということか。

「だって、私が死んでからもう1000年ぐらいたってるもん。その間ずっとあっちで修行してたんだから」

 笑ってしまうほどの差だ。桁が違いすぎる。

 それでも、俺は引き下がるわけにはいかなかった。エスニャを助けるために。そして、マユを人間に戻してもらうために。

「……おまえら、なんでこんなことをする!? やっぱり復讐か!?」

 まともに戦って勝てるはずもない。なんとか時間を稼いで攻略方法を考えねば。

「復讐? なんで?」

 小首をかしげて、リッカが聞き返す。

「なんでってそりゃ、魔女狩りの時、無実の罪で殺されたんだろ?」
「ああ、そういうことか。まあ確かにそれも無くはないけど。理由なんていいじゃない。そんなことよりお兄ちゃん、遊ぼ?」

 少女は可愛く微笑んで、カードを取り出した。トランプでもやろう、というような口調で言ったのだが、もちろんそれは言葉通りの意味ではなく、死の遊戯への誘いだった。

「【ペコラ・パコラ・ポコラ、レリアーゼ】!」

 リッカが呪文を唱えてカードを数枚投げる。俺たちを半包囲する形で床に落ちたカードは、くぐもった音と共に煙を巻き上げ、3mはあろうかという大型の魔獣が4体出現した。

 どの個体も筋肉の鎧に身を固め、鋼鉄を思わせる牙と爪を持っている。その無機物めいた瞳は、獲物を値踏みするように、じっと俺たちを見据えていた。


 【続く】

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