ホラー短編集

奏琉

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招かざる人

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これは私が中学校2年生の時の話です。
今でもあれは実際にあったことなのか、それとも夏の暑さがみせた幻覚なのかは分かりません。それほどまでに私が体験したあの経験はどこか現実離れしていたのです。

それは8月も終わりに近づいたのある日のことです。夏休みを満喫し、全くと言っていいほど宿題に手をつけていなかった私は、泣く泣く家族との遠出を諦めて家で一人寂しく勉強にいそしんでいました。とは言え、夏休みに入ってからほぼ1ヶ月遊んですごした頭は1時間と経たずに集中力を切らしてしまいます。
「ちょっとだけなら遊んだっていいよね。家族は遊びに行ってるんだし、、、」
そんな自分の甘えに負け、私は夏休みのほとんどを一緒に過ごした友人に電話をかけました。
「Mさ、今日って暇?」
「今、出先なんだよね。あと30分位で家に着くからそれからで良ければ大丈夫だよ!」
現在の時刻は11時40分。
もう少しで昼食の時間帯だったこともあり、友人とは午後1時に私の自宅前で待ち合わせをすることになりました。
待ち合わせの時間まではせめて宿題を少しでも進めておこう。そんなつもりで再び机に向かい始めてから約5分。

ピンポーン

チャイムの音が聞こえました。友人が来たにしてはまだあまりにも早すぎるので、新聞の集金か何かだと思いインターフォンの画面を覗くとそこにはなんと友人の姿が映っているのです。友人は私の家から近いところに住んでいるので、5分足らずでここに来ることは不可能ではありません。ですがそれは友人が家にいた時の場合。電話先で友人は「今は出先だ」と言っていたはずですから今ここにいることは明らかにおかしい。それに友人はいつもチャイムを鳴らす前に私にメールをしてくれるのですが、それもありません。でもまぁ、もしかしたら用事が早く済んで驚かせるためにメールをせずにチャイムを鳴らしたのかもしれない。なんとも言えない不信感は拭いきれませんでしたが、そう思い込んでインターフォンの通話ボタンを押しました。
「はい」
「S、来たよ。早く開けて」
「え?M、こんな早くどうしたの?」
「何言ってんの、いつもこの位で着くじゃない」
「いやでも待ち合わせは1時だし、出先で帰ってくるまで30分かかるとか言ってたけどまだ10分も経ってないよ!?」
私と友人との会話に行き違いを感じながらそう告げると友人の様子が変わりました。
「早く開けてよ」そんなような言葉を言われたんだと思います。
何かがおかしい。映っているのは友人ではない。確証はありませんがほぼ確信していました。どうしよう、どうすればいい。普段であれば30秒で自動的に切れるはずのインターフォンは数分経っても切れません。友人の姿をした誰かは未だ真っ直ぐにこちらを見て開けてくれと言い募ってきています。私は動揺して動けませんでした。
それから何時間が経ったようにも、数分しか経ってないようにも思えた時です。

~♪

私が友人の電話番号の着信に設定した音楽が流れ始めました。金縛りが解けたように携帯電話を手に取ると、やはり友人からの着信でした。ですが、インターフォンに映っている友人は携帯はおろか何も手に持っていません。私は恐る恐る電話に出ました。
「、、、もしもし?」
「あっ、S?予定より早いんだけど、あと少しで着くから!」
それから少し言葉を交わし、電話を切りました。無意識のうちに視線を外していたインターフォンを見ると、画面は真っ暗になっています。怖い、だけど確認しないとこのあともずっと怖い思いをする。なけなしの勇気を振り絞ってインターフォンの電源を入れました。そこには何も映っていません。やっと詰めていた息を吐いて一安心。
その日は友人と会いはしたもののなんとも言えない怖さが残り1時間ほどで解散することになりました。私はそれからしばらくの間、インターフォンが鳴らされる度に怯える日々を送りました。

それから2年が経ち、友人と私は別々の高校に進学しました。会うことは少なくなってしまったけれど、お互いに平穏で充実した学校生活を送れています。

これはあとから知った事なのですが、幽霊などの人ならざるものは招かれないと家の中に入ってこれないのだそうです。幽霊は壁をすり抜けるイメージがあったので意外でしたが確かにあの時の友人の姿をした誰かも「開けてくれ」とは言ってきたものの、中に入ってくることはしてきませんでした。人間の、意味を持った言葉。所謂言の葉というものは案外強い力を持つのです。
今も私はこうして何事もなく毎日を過ごしていますが、もしあの時友人だとなんの疑いも無く玄関の扉を開けていたら、、、私は一体どうなっていたんでしょうね。
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