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クローゼットの問題。
しおりを挟むいつしか少女漫画で
『女の子の汗の匂いはいちごミルク』
と、読んだ気がする。
端的に申し上げて……
「は?」
である。
もしそれが本物であるのならば、今、私たちのクラス、3年鳥組のクローゼットはこんな匂いになってないだろう。
「ねぇ、藍良、最後に体操着持って帰ったのいつ?」
「…………3ヶ月前。ウケる。アハハハハハハハハハ。」
「いやウケねえよ。ふざけんなよ。」
「めんどくさい。アハハハハハハハハハ。」
「持って帰って洗えよ!お前みたいなのがいるからクローゼットがくっっっせぇんだよ!!」
「それな。アハハハハハハハハハ。」
この3ヶ月体操着を持って帰っていないという衝撃の事実をカミングアウトしてくれたのが、戸部 藍良。中学2年生と高校1年生の時以外同じクラスだった彼女。とても気の知れている仲であり、悪友でもあった。
だがしかしこれは悪友にも程がある。
というか私は週一回で体操着を持って帰る派なので『友』ですらない。
「いやまってよ、立花。」
と、彼女は不服そうな顔で私に異議を申し立ててきたのだった。
「なによ……」
私は自分の体操着に染み付いてしまったみんなの汗の匂いを嗅ぎつつ聞き返した。
「うちらのクローゼットはまだマシな方だって。」
「え……これよりも事故物件あんの……?」
私がそう聞き返すと、藍良は眩しいくらいの笑顔で一番手前のクローゼットを指さし、『嗅いでこい』とジェスチャーをしたのだった。
私は引き攣った笑顔で返しつつ、出席番号一番から十番までが使っている一番手前のクローゼットの取手に手をかけた。
ツルツルと滑らかに開く引き戸を開けたその先は……
地獄だった。
「っっっっっっっくっっっっっっっっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!」
「アヒャひャひャひャひャひャひャひャwwwwwwwwwwwwwwww」
藍良は絶叫した私を見ながらいつも通り特徴的な笑い声で笑った。
臭すぎ……る。
なんだこれは……兵器か……。
兵器なのか……。
考えてみれば当然のような結果だった。
うちのクラスの出席番号一番から十番までには体育会系の部活に所属している人が多い。そして特にその辺の人達はクローゼットに何でもかんでも仕舞ってしまえばいいと思っている節があるようで、部活で使ったウェア、部活で使ったバッシュ、部活で使った靴下などなど……まあ上げたらキリがないぐらいのものを詰め込んでいるようだった。
地獄すぎる……。
これが匂いを発している張本人ならまあ気にしないというかまあ当然だろうな程度にしか考えて居ないのだろうが、これが全く関係の無い文化系の部活、または、帰宅部に所属している子はどう思っているんだろう。
と私は不意に思い、出席番号3番兎田 由紀子に聞いてみることにした。
「あぁ、ゆきにはクローゼット無いよ。」
彼女は満面の笑みでそう言った。
「え?ゆっきーって一番手前のクローゼットだよね?」
「あぁ、まぁ、番号的にはそうだけど。使ってないかな。」
「え、じゃあ体育着とかどうしてるの?」
「自分のロッカーに仕舞ってるよ。」
「え、使ってないの?!」
すると彼女はさっきとは打って変わって、微妙なほほ笑みを私に向けてこう言った。
「あそこは動物園だから、人間が使うところじゃないよ。」
「(訳:臭すぎて使えねぇよ。ワキガ滅べ。)」
そして翌週、クローゼットの隅に、置き型ファブリ〇ズが突如出現し、生徒はますます体操着を持ち帰らなくなったのだった。
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