25年目の真実

yuzu

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夜の喪失

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 閉じられた扉の前で、蒼介は立ち尽くしていた。

 誰かが名を呼ぶような気がして振り返るが、ただ風が通り過ぎるだけだった。

 木戸の隙間から洩れる灯りが、足もとに細く伸びて、やがて闇に吸い込まれていく。
 その灯りの向こうに、千紘がまだ立っている気がした。

 けれどもう、扉は開かなかった。

 ゆっくりと背を向け、歩き出す。
 夜の街は、どこまでも冷たく澄んでいた。
 息を吐くたび、白い靄が浮かんでは消える。
 そのたびに、心の中に残る何かも、少しずつ形を失っていくようだった。

 コンビニの明かりが、道の向こうに滲んで見えた。
 吸い寄せられるように中へ入ると、眩しい光と機械音に迎えられる。
 レジカウンターの後ろ……棚のに積まれたタバコの箱が、なぜか目にとまった。

 数年前、健康診断の結果をきっかけに美奈子に諭されてやめたものだ。

 けれど、今の蒼介にはどうでもいい事だった。

「41番。」

 店員に番号を告げ、財布をポケットから出す。

 硬貨の触れ合う音が、やけに大きく響いた。

 小さな買い物袋を受け取ると、冷たい夜気がまた身体を包み込んだ。

 旅館に帰る気にはなれなかった。

 美咲の笑顔を見る勇気も無ければ、部下に気を遣われる空気に、合わせるほどの余裕もない。

 足の向くままに歩き、住宅街を抜けると、小さな児童公園にたどり着いた。

 街灯の下では、古びたブランコが風に揺れ、鎖がかすかに軋んだ音を立てていた。

 ベンチに腰を下ろし、タバコを一本取り出す。
 ライターの火をつけると、わずかな炎が指先に光を宿した。

 肺の奥まで煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。白い煙が夜空に溶け、すぐに消えた。その消えていく様はどこまでも灰色で、今の心をうつしたように感じて悲しくなる。

 電線の上で、風が細く唸る音……登り始めた朝日を迎え入れる様に鳴く野鳥。

 世界は動き続けているのに、自分だけがそこから取り残されているようだった。

 ふと、右隣に微笑む千紘の姿が浮かんだ気がして振り向けば、いるわけがないとため息をついた。

 風が通り抜け、煙草の火が小さく揺れる。
 吸い殻を足もとに落として靴の先で静かに踏み消すと、火の跡が黒く残りやがてそれも闇に溶けて見えなくなった。

 吸い殻を拾いながら思う――もう、戻れないんだ。

 声にならない言葉が、胸の奥で響いた。
 
 何もかもが遠ざかっていく……
 煙も、言葉も、温もりも、すべてが空に溶けていく。

 残ったのは、夜と、喪失の匂いだけだった。
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