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episode1
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「……まさしく、あの日お生まれになった姫君にございます。リュシエル=グランフォール様に相違ございません」
女官長の言葉が、謁見の間に静かに落ちた。
皇帝陛下は一瞬、時が止まったかのように身じろぎもせず――次の瞬間、玉座から立ち上がり、威厳も体裁もかなぐり捨てるように私へ歩み寄った。滝のように涙を流しながら、強く、強く抱き締めてくる。
「……会いたかった。会いたかったぞ、リュシエル……我が娘よ……!」
戦場で幾度も血を見てきたであろう腕が、震えていた。胸元に押しつけられた顔から、嗚咽が漏れる。
「え……? あの……私が、本当に……?」
自分の名前を、こんなふうに呼ばれた記憶がない。
と、いうよりも。家族から虐げられ、”お前”としか呼ばれたことがなかった。
初めて呼ばれる自分の本当の名に、暖かい感情がふつふつと沸いた。
――グランフォール王国。
世界最強の軍事国家。
力で恐れられ、同時に民に深く愛される国。
その王家の血が、自分の中に流れているなど、現実感がなかった。
「長い間、寂しい思いをさせて……すまなかった」
皇帝陛下はそう呟き、私の額に口づける。
その眼差しには、深い後悔と、執着にも似た情が宿っていた。
――この人は、国を背負う王であり、同時に、娘を失った父なのだ。
やがて陛下は一歩下がり、涙を拭うと、王としての顔を取り戻した。
「……ところで、リュシエル」
名を呼ばれ、背筋が伸びる。
「聞けば、結婚の儀を行ったそうだな。夫はどこの人間だ。この国に迎え入れよ」
その言葉に、胸の奥がひやりと冷えた。
脳裏に浮かぶのは、あの男――
ケルン=ルードリア。穏やかな仮面の裏で、私を見下していた視線。
「どうした。顔色が冴えぬな」
皇帝陛下の声が低くなる。
「姫の夫であれば、身分など問わぬ。たとえ奴隷であろうと、王国が責任をもって遇する」
その無条件の庇護が、かえって胸を締め付けた。
私は、ゆっくりと首を振る。
「……《元》夫、ケルン=ルードリアは……」
「……《元》、だと?」
謁見の間の空気が、一気に張り詰める。
これまでの経緯、子爵家との婚姻。表向きは誠実だった夫。露わになった不貞の事実。何の躊躇もなく私を切り捨てたこと。
「……捨てても構わない存在だと思っていたのでしょう」
皇帝の血を引くとも知らず。
語り終えた瞬間、皇帝陛下の瞳が、獣のように細められた。
「子爵風情が……我が娘、リュシエルに不貞を働いたか」
肘掛けに置かれた手に、鈍い音が走る。
「大罪に値する」
怒りは静かだった。
「どうする、リュシエル。そなたの一言で、その男を捕らえることもできる。親族も、領地も、歴史ごと消すことも可能だ」
私は唇を噛みしめ、顔を上げた。
――弱く、捨てられた女のままで終わるのか。
――それとも、選ぶ者として生きるのか。
「……少し、考える時間をください」
皇帝陛下は驚いたように目を見開き、やがて静かに頷いた。
「よい。答えが出るまで、誰にも手は出させぬ」
それは猶予であり、宣告でもあった。
女官長の言葉が、謁見の間に静かに落ちた。
皇帝陛下は一瞬、時が止まったかのように身じろぎもせず――次の瞬間、玉座から立ち上がり、威厳も体裁もかなぐり捨てるように私へ歩み寄った。滝のように涙を流しながら、強く、強く抱き締めてくる。
「……会いたかった。会いたかったぞ、リュシエル……我が娘よ……!」
戦場で幾度も血を見てきたであろう腕が、震えていた。胸元に押しつけられた顔から、嗚咽が漏れる。
「え……? あの……私が、本当に……?」
自分の名前を、こんなふうに呼ばれた記憶がない。
と、いうよりも。家族から虐げられ、”お前”としか呼ばれたことがなかった。
初めて呼ばれる自分の本当の名に、暖かい感情がふつふつと沸いた。
――グランフォール王国。
世界最強の軍事国家。
力で恐れられ、同時に民に深く愛される国。
その王家の血が、自分の中に流れているなど、現実感がなかった。
「長い間、寂しい思いをさせて……すまなかった」
皇帝陛下はそう呟き、私の額に口づける。
その眼差しには、深い後悔と、執着にも似た情が宿っていた。
――この人は、国を背負う王であり、同時に、娘を失った父なのだ。
やがて陛下は一歩下がり、涙を拭うと、王としての顔を取り戻した。
「……ところで、リュシエル」
名を呼ばれ、背筋が伸びる。
「聞けば、結婚の儀を行ったそうだな。夫はどこの人間だ。この国に迎え入れよ」
その言葉に、胸の奥がひやりと冷えた。
脳裏に浮かぶのは、あの男――
ケルン=ルードリア。穏やかな仮面の裏で、私を見下していた視線。
「どうした。顔色が冴えぬな」
皇帝陛下の声が低くなる。
「姫の夫であれば、身分など問わぬ。たとえ奴隷であろうと、王国が責任をもって遇する」
その無条件の庇護が、かえって胸を締め付けた。
私は、ゆっくりと首を振る。
「……《元》夫、ケルン=ルードリアは……」
「……《元》、だと?」
謁見の間の空気が、一気に張り詰める。
これまでの経緯、子爵家との婚姻。表向きは誠実だった夫。露わになった不貞の事実。何の躊躇もなく私を切り捨てたこと。
「……捨てても構わない存在だと思っていたのでしょう」
皇帝の血を引くとも知らず。
語り終えた瞬間、皇帝陛下の瞳が、獣のように細められた。
「子爵風情が……我が娘、リュシエルに不貞を働いたか」
肘掛けに置かれた手に、鈍い音が走る。
「大罪に値する」
怒りは静かだった。
「どうする、リュシエル。そなたの一言で、その男を捕らえることもできる。親族も、領地も、歴史ごと消すことも可能だ」
私は唇を噛みしめ、顔を上げた。
――弱く、捨てられた女のままで終わるのか。
――それとも、選ぶ者として生きるのか。
「……少し、考える時間をください」
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