恋が温まるまで

yuzu

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#15 ホテルで田上さんと……

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「……聞きたくありません」

 田上さんの真剣な瞳を、これ以上受け止めきれず、私は視線を逸らした。

「どうして? 俺は美亜に……聞いてほしい。聞いたうえで、考えてほしい。」
「考えるって……何をですか」
「俺たち二人の、未来」

 その言葉が胸に突き刺さり、堪えていたものが決壊した。
一筋の涙が頬を伝い、鼻先を越えて、白い羽毛布団に静かに染みを作る。

「……過去にも、未来を誓い合った人がいました」

 声が掠れた。

「結婚するものだと、信じていました。ずっと一緒に生きていくんだって、疑いもしなかった。でも……そうじゃなかった」
「彼には、別のパートナーがいました。子どもができたから、別れてほしいって……」

言葉を吐き出すたび、胸の奥が削られていく。
静まり返った室内に、私の嗚咽だけが落ちた。

「たくさん……たくさん泣きました。辛くて、悲しくて、悔しくて……何も考えられなくなるほど。枯れるまで、泣いた」

 涙で滲む視界の向こうで、田上さんが何も言えずに立ち尽くしているのがわかった。

「彼を許せませんでした。……でも、それ以上に、許せない自分が嫌いになりました」

 田上さんが、小さく息を呑む音がした。

「だから、あの時決めたんです。もう、恋なんてしないって」

 沈黙が落ちる。
 田上さんは何か言いかけて、でも、言葉も無く口を閉じた。

 拳が、シーツの上でわずかに震えている。

「……もしかして、そのパートナーって」

 田上さんは確信を恐れるように、ポツリと呟いた。

 狭まった喉に、無理やり送り込むように息を飲んで、逃げ場のない答えを口にする。

「……磯崎美優。」

 その名前を告げた瞬間、田上さんの表情に影が落ちた。
 言葉を失い、視線が揺れ、時間を置いてから、ゆっくりと私の肩から手を離した。

喉が鳴る音が、やけに大きく響いた。

「……そっか」

 それだけだった。
 それ以上の言葉は、出てこなかった。

 田上さんは天井を見つめ、片手で額を覆う。

 動揺を隠そうとしているみたいに、深く息を吸い、短く吐く。

 その沈黙が、私の胸をさらに締めつけた。

世界が、音を失ったまま、止まっていた。
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