魔王を倒して封印された戦士、100年後に復活してアイドルにはまる。

犬猫パンダマン

文字の大きさ
1 / 28

一話 伝説の戦士、一文無しになる

しおりを挟む
 
「アレク!!今だっ!!」

 アレクはグレンの声と同時に魔王に突進して剣を振り下ろす。

 アレクに握られた剣――勇者の剣――はようやく本来の役目を果たす時がきた。
 一撃目が入るとすかさず二撃目、三撃目と続ける。
 痛みを感じる時間もない程の早さで繰り返される斬撃は、魔王を切り刻んでいった。

「アレクっ!」

 私たちはとうとうやりきったんだ。
 動かなくなった魔王を見て、私は疲れ切った表情のアレクに抱きついた。
 グレンとラウラには悪いとは思ったけど、この感激を誰よりも早くアレクと共有したかった。
 私の回復魔法で彼を癒してあげたかった。

 戦いを終えてみんなが安堵の表情を浮かべて笑っている。
 疲れているけど、ほっとしたようなそんな気分で安心しきっていた。

 その時だった。

 魔王は既に動かなくなっていたけど、いつのまにか体が溶けてどろどろに変化して私たちに向かってきたのだ。

 それにいち早く気づいたのはグレンだった。
 グレンは疲れて動けない私たちの前に立つと、体を大きく広げて魔王の最後の攻撃を一身に受けた。
 グレンはいつもと同じように皆の前に立って守ってくれた。
 でもここまできてお別れになるなんてつゆほども思わなかった。
 体が徐々に石のように固くなっていく。
 私の魔法でも癒す事が出来ない魔王の強力な呪い。
 それでもグレンは笑顔だった。

「みんな、どうやら俺はここまでみたいだ。……後は任せたぜ」

 その言葉を最後にグレンは完全に石になった。
 なぜ魔王の死をきちんと確認しなかったんだろう。
 なぜもっと魔法の鍛錬をしなかったんだろう。
 後悔ばかり思い浮かんだ。
 魔導士のラウラも同じ気持ちだったと思う。

 グレンはなぜ最後の瞬間笑顔になれたのだろうか。
 それはきっと私たちのことを信じていたからだと思う。

 だからこの時誓ったんだ。
 きっとこの世界を平和にしてみせるって。

 アレクと二人で……


 『ソフィア 聖女と呼ばれた少女 第二部 完』




「――とまあ、朗読はここまでだ!!」

 良く晴れた露店通りでの朗読を終えると商人は本を閉じ、その息子がのぼりを持って客寄せを始めた。

「あの時の感動が今、蘇る。聖女ソフィア様の自伝本、新装版新発売だよ!さあ、買った買った!!」

 本は飛ぶように売れてあっという間に完売した。
 それもそのはず、ここはアレクとソフィアが建国したアレクディア聖王国の首都アレクサンドだからだ。

 勇者アレクは魔王討伐の報酬として荒れ果てた旧魔王領をもらい受け、何年もかけて整備した。
 まさに建国の父であり、聖女ソフィアは建国の母であった。
 ソフィアはやや小悪魔的なところもあったが、気取らない性格もあり好意的に受け取られていて人気があった。
 年配の住人には二人に直接会ったことのある住人もおり、いまだに崇拝している者がいる。

 笑顔で店じまいする商人とは異なり静かに笑う男がいた。
 その男こそソフィアの自伝に出てきた戦士グレンである。
 グレンは自然に封印が解けて、街に下りてきたばかりだった。

 グレンは食堂のテラスで食事を終えると商人の大きな声に耳を傾けていた。
 腹を休めながら情報収集でもしようと思っていたら、自分たちの冒険のことを話しており驚いていた。

「しっかし、ソフィアは相変わらずだったんだな……」

 ソフィアは聖女と呼ばれていたが、普段はちょっといたずら好きな普通の女の子だった。
 ただアレクが関わるとめんどくさい性格になるだけだ。

「つーか、すげー盛られてる。 なんか俺の描写格好良すぎじゃない?」

 グレンはあんなこと言ったっけと疑問に思っていたが、ソフィアのイタズラだろうと理解した。
 それに本にするならそれなりに体裁を整えるだろうしな、と。
 ただソフィアのおかげで、当時グレンの知名度が急上昇したのは、当然のことながら知る由もない。

 グレンには石になっていた間の記憶はなく、彼にとっては仲間と別れたのはつい数日前のことだった。
 本になっているということはあれから随分と時間が経過したんだなと思い、時の流れの切なさや寂しさを感じていた。

「あの~、お勘定よろしいですか?」

 仲間たちとの旅を思い出していると給仕に声をかけられた。

 今はお昼の稼ぎ時であり、店としても長居されたら迷惑だ。
 声掛けした給仕の少女はまだ14、5歳といったところで、傷だらけのグレンにお願いするのは勇気がいることだろう。

 グレンは財布に手を突っ込んだ。

「これで足りるかい?」

 そういってセレスティア硬貨を取りだした。
 この国の硬貨ではないが店の看板には使える硬貨一覧が書かれており、問題ないとグレンは考えていた。
 だが給仕は怪訝けげんな顔をして、少し待って下さいと伝えて店の中に引っ込んでしまった。

 グレンは不思議に思っていたが、給仕はいかつい顔をしたハゲ頭の店主を連れてすぐに戻ってきた。
 エプロン姿だったが顔といい、体格といい、実は元冒険者や兵士だったと言われても不思議ではない様相だ。

「兄ちゃん、持ってるのはこの硬貨だけか?」

 グレンは頷いた。
 グレンが封印される前に生きていた時代で一番信用の高い硬貨だったからだ。
 だが店主は納得しなかった。

「これじゃあ、足りねえなぁ。それによ、こんな鐚銭びたぜにどこも受け取ってくれないぜ?いったいどんな田舎からきたんだよ」

 鐚銭……質の悪い硬貨のことで通常の硬貨よりも価値が低い。
 だがグレンの時代はどの硬貨も同じようなものだった。
 魔王軍との戦争が終わると豊かになり硬貨の質も上がっていったのだ。

「マジですか、いやまあ生まれは随分田舎ですけど」
「それじゃ、あるだけ出してみな」

 そう言われて全財産を出すものの全く足りなかった。
 なにしろグレンは封印から解かれて街にくるまでの数日間、ほとんど食事らしい食事などしていなかったのだから、それはもう食べまくってしまっていた。

「どうにかなりませんかね?」

 グレンは祈るような気持ちで問いかけた。

「どうにもなんねえな。両替屋にいっても駄目だろうしな。兄ちゃん……皿洗いでもするか?」

 グレンは迷うことなく頭を下げた。
 せっかく封印が解けたのにいきなり食い逃げ犯になりたくないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...