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十七話 グレンの野望
しおりを挟むアレクサンドギルドの修練場では、シミズ、ロアン、ドットスがグレンの訓練を受けていた。
彼らはグレンが目覚めたばかりの頃、共にグローアント討伐に向かった若者たちである。
3対1で模擬戦を行ったがグレンにはまだまだ届かなかった。
「甘いっ!」
巨漢のドットスが膝から崩れ落ちるとあとはもう一方的で、シミズとロアンはあっという間にやられてしまった。確かにグレンとの戦力差はあるが、ラウラの魔法を受けていないグレンとならばもっと肉薄していてもおかしくない。
原因は紅一点のフローネの離脱だった。
フローネが家庭の事情で故郷に帰ることになったのだ。
淡い恋心を抱いていた3人はフローネが遠くに行ってしまった喪失感を味わっていた。
まだ若い彼らは折り合いをつける事が出来ずに実力を発揮できないでいた。
「シミズ、ロアン、お前らはドットスに頼り過ぎだ。いなくなったらめちゃくちゃじゃねーか。ドットスお前もだ。守ってばかりじゃなくてもっと攻めて来いよ。……いいか、役割ってのは大事だが、人間や頭のいい魔物と対峙する時にはあえてそれを崩すことも必要だ。それにお前らはまだ若いんだし違う可能性が見えてくることもある。よく考えて見るんだな」
彼らはフローネがいなくなって3人になったので、新たなコンビネーションを模索している最中だった。
「俺はこれからライブに行かなきゃならん。お前らも元気があるなら後で来い。きっと、いや必ず新たな自分を発見できるはずだ!」
シミズたちが起き上がるのを確認するとグレンは走り去っていった。
「おっさん、相変わらず凄えな……でも遠くに行っちまった気がするぜ……」
「ええ、色んな意味で遠くに感じますね。近づこうとは思わないですけど……」
彼らはグレンに渡された手作りの宣伝チラシを見つめていた。
修練場を飛び出したグレンの足取りは軽かった。
遂にこの日がやってきた。
ミィナのライブである。
今までのような屋外でのゲリラライブではなく、準備されたステージでの初めてのライブだ。
ここまで来るのにミィナは多くの苦労を経験した。
路上で歌っていても誰も相手にしてくれず嘆くこともあった。
おひねりを拾ったら上から見下ろされたこともあった。
握手をしたらクマさんパンツを渡されたこともあった。
中でもミィナの正体が魔族であるとばれたことが何より大変だった。
一部の人々が知っていたとはいえ彼らは好意的であった。
だがそうでないものも当然いる。
そんな中で立ち上がったのは嘗てミィナを特集したタブロイド紙であった。
魔族と知らずに特集を組んでしまった彼らは、それを誤魔化すために人間と魔族との融和を訴えるようになった。だが所詮は大衆紙、あとに続く者など誰もいないと考えられていた。
そこに現れたのが魔法教会である。
彼らは街中でミィナが魔法を使うことによって精霊が集まることを見つけて目を付けたのだ。精霊が数多く集まれば、自分たちも今までより多くの精霊魔法を使えるようになり、大きな利益が狙えると判断したのである。
そうしてミィナは徐々に受け入れられるようになり、2つの組織がスポンサーとして付いたことでライブ会場を押さえることが可能になった。
会場では学芸会を終えた幼児とその家族たちが帰り支度をし、それと入れ替わるように揃いの鉢巻きをした男性がぞろぞろと中に入っていった。
その中でひときわ目立つ三角帽子がいた。
「で、ここに連れて来てどうしようってのよ?」
グレンは一旦屋敷に戻ってラウラを誘ったのだ。
「ラウラには女性陣を引っ張ってもらいたいんだ。見ての通りほとんどが男性で彼女らは肩身が狭そうだ。ラウラと一緒なら彼女らも盛り上がるしミィナも嬉しいと思うぞ」
ラウラとしてもミィナとは誼を通じた中であるので応援するのに異論はない。
「で、でも、私はライブも初めてだし皆を引っ張るっていうか、弟子も取ったことないから……」
「そうなのか?」
ラウラはこれまで1人も弟子を取ったことがなかった。
偉そうにするのは好きだが、だらしない私生活を見られて偉そうに説教されるのが嫌だったのだ。
「私にはまだ早いかなって……」
むしろ遅すぎだろ。
聞き耳を立てていた誰もがそう思った。
「ん~そうか。それじゃあ俺の隣で真似してくれればいい。彼女にもこっちに来るように声をかけてくるよ」
「っ!! それくらいは私がやるわ」
ラウラが引きつった表情の女性陣を連れてくると同時にライブが開幕した。
ミィナはこれまでにない規模の会場に緊張していたが、ファンに後押しされて歌い出した。
手拍子でリズムを取っていたこれまでと違い、チェンバロによる演奏がついたことでミィナのダンスはキレが増した。
それにのせられるようにファンも熱量が上がっていく。
初めてライブにきたラウラもそうであった。
「なかなかっ、楽しいじゃない!!」
「分かるかっ!?適度な運動はっ、美容にもいいらしいぞ」
それを聞いてラウラは益々笑顔になる。
グレンはほくそ笑んだ。
グレンは仲間たちと感じられる一体感がなにより好きであり、ミィナのことを性的な目で見ていたわけではない
。それをラウラにも理解してもらいたかった。
そしてあわよくば秘密裏に計画していた劇場建設事業に協力させようとしていたのだ。
後日このライブの記事はタブロイド紙でも取り上げられ、人間と魔族の融和の第一歩として歴史に残ることになった。
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