魔王を倒して封印された戦士、100年後に復活してアイドルにはまる。

犬猫パンダマン

文字の大きさ
25 / 28

二十五話 前哨戦と勝者

しおりを挟む
 
 フェスティバル初日を終えたアイドルたちは宿に戻っていた。

 まだ宿の建築が進んでいないこともあってアイドル達は皆同じ宿にいるが、疲れていることもあり、互いを警戒することなく玄関付近のラウンジで時を待っていた。もうじきフェスティバルの運営委員長であるグレンが優勝者の発表ために訪れる。彼女らにとって今後の人生が決まると言っても過言ではなかった。

「キャー!!」

 その時2階の部屋から突然叫び声が聞こえてきた。
 一同が階段の方に振り向く。

「あの声はミィナさんですわ」

 黒髪しばり隊のレズリーが心配そうな声で言うと、元冒険者であるフローネが立ち上がった。

「私が見てくるから、何人かで隣の建物にいるラウラ様を呼んできてくれ」

 グレイク流体術を会得しているフローネは素手で駆けあがっていった。
 彼女をライバル視しているレズリーもついて行く。

 階段を上がって2人が見たのはおびえた表情で部屋から出てくるミィナであった。

「ミィナさん! 大丈夫ですの?」

 急いでミィナに近づくレズリーは先程までの震えあがった彼女ではなかった。
 肩を抱き寄せて落ち着かせると、ミィナは冷静さを取り戻した。

「部屋のクローゼットに男の人がいて……」

 ミィナの言葉にフローネがすかさず反応して扉を勢いよく蹴り開ける。
 部屋には魔法で眠らされて倒れた男がいた。

 アイドル達には護身用として、ラウラの睡眠魔法が入った小型のマジックポットが配られており、大事にならずに済んだ。辺りは散らかされた様子もなく、ベッド周辺も綺麗なまま。ミィナは無事だった。

不埒ふらちものがっ!」

 フローネはそう叫ぶと、殴りたいのを我慢して縛り上げていった。





 縛られた男はクロカミ共和国の重鎮たちからミィナ殺害を依頼された暗殺者であった。

 評議員の多くは魔法のない世界を目指すグレイク流出身者で構成されており、彼らにとって多くの精霊を呼び寄せるラウラや魔族は排除すべき敵である。仮にミィナの暗殺が成功していたらどうなったであろうか。

 人間と魔族の融和を願っていたミィナが死ねば、同様の想いを持っている魔族の中にも人間に裏切られたと感じる者が少なからずいるだろう。そうして人間と魔族の対立をさらに深くさせれば魔族の数を減らすことができる。

 さらに参加アイドルに死者が出たとなれば、安全性の問題を訴えて自国のアイドルたちをフェスティバルから引き揚げる口実になる。国際的なイベントが中止になれば、3国の協調路線に水を差すこともできる。仮に暗殺に失敗したとしても、セレスティア出身の暗殺者の責任にしてしまおうという狙いだった。



 やがて暗殺者の男は目を覚ますと、ばれないように静かに自分の状態を確認した。
 椅子に体を縛り付けられて目隠しをされている。
 手も背中側で縛られているが緩く簡単に外せそうだ。
 目の前には数人の女がいるが警戒するほどの強さではない。

 先程は魔法での不意打ちを食らってしまったが、ここから逃げ出すだけならば誰かを人質にでもすれば問題なくできるだろう。ミィナの暗殺には失敗したが元の目的を考えれば、最悪の場合、他のアイドルでもかまわないはずだ。男は反撃の機会を待った。

 だが男の目論見はあっさりと崩れ落ちてしまった。ラウラの登場である。

「この男が侵入者というわけね」

 ラウラは念のために索敵魔法をかけて、侵入者が1人だけであることを確認した。
 男は自身も魔法の心得があったが故に、ラウラの老獪な魔力を敏感に感じ取った。
 そして例え近接戦闘になろうとも全くかなわないだろうと理解したのだ。

 ならば残された道はただひとつ、暗殺者としてのプライドを抱き、何も漏らさぬように死ぬだけだ。男が意志を固めたその時であった。

「あなたが起きているのは分かっているわ、答えなさい。そのポケットから見える布……それはパンツね!?」

 そう、男の服にはミィナのパンツが挟まっていた。

 ミィナの隙をつこうと着替え中にクローゼットから姿を現した男は、魔法で撃退される際に着替えのパンツを引っ掛けてしまったのだ。

「い、いや、これは……」

 男は突然の事に慌て戸惑った。暗殺者として殺されるのも覚悟していただけに、よもや下着泥棒として捕まることになろうとは。だがこれならば、まだ生き残る道はあるはずだ。そう考えなおした。

「そ、そうです、盗みました。魔がさしたんです。許して下さい……」

 皆の注目が集まる中、ミィナは微笑みながら男に近づくと膝に手を当てながら声を出した。

「私のファンなら、こんなことしちゃ駄目ですよ。ねっ?」

 そしてクルッと振り向いて頭を下げた。

「他の方たちと違って、ファンってちょっと熱心な人が多いんですよね。皆さん、ご迷惑をおかけしました」

 その言葉にアイドル達がざわめいた。

 ミィナの挑発的なセリフで、彼女たちはたった一つの椅子をめぐって争っているライバルであることを思い出したのだ。今まさに協力して解決に向けて動いていたのに、勝ち誇るようなミィナの態度に反発する空気がかもしだされ、セレスティアの歌姫エレノアが声をあげた。

「ちょっとお待ちなさい。ミィナさんの部屋は元々私の部屋でした。その方は私の部屋に忍び込んだつもりだったのではないでしょうか?」

 つまり忍び込んだ男は自分のファンである。
 エレノアがそう主張するとミィナとの間に激しい火花が散り始めた。
 元々エレノアの部屋の予定であったが、低血圧のために朝の日当たりが良い部屋と交換したのだ。

 その事実を知らなかったミィナは驚きつつも鋭い視線をエレノアに送る。
 一方エレノアも年季の入ったアイドルとして一歩も引かない。

 取り残されていた黒髪しばり隊であったが、彼女らも負けてはいなかった。

「あっ、そういえば私達最初に入る部屋を間違えちゃってミィナさんの部屋に荷物をおろしたんですよ~。その時に結構うるさくしちゃったんで、その時に私達の部屋だと勘違いしちゃったかもです」

 リーダーのマユラが反撃の狼煙のろしを上げるとウンウン頷いて加勢に加わるが、エレノアはそれを一蹴した。

「そんなことあるわけないでしょう。現実的に可能性があるのは私とこの子だけでしょうね」

 そういって自信ありげにミィナを指さした。
 彼女の中ではそれは決定事項であり、魔族であるミィナに負けるはずがないと確信していた。

「それなら本人に聞けば分かることですわ。ラウラ様、それくらい待ってくださいますよね?」

 レズリーの問いにラウラは頷いた。
 この男を連れて行かれる前に誰のファンであるかを白黒つけたい。
 それはこの場にいたアイドルたちの総意であった。
 彼女らは男を取り囲むように近づいて行く。

「「「 誰のファン? 」」」

 男は困惑していた。ミィナの暗殺に来たはずなのに失敗して、誰のファンであるかを問われている。正直言って誰でも良かった。男は唯一知っていた女性の名を挙げた。

「彼女……エレノアさんです」

 エレノアは静かに歓喜し、他のアイドルたちはがっくりと肩を落とした。
 だがその中でマユラだけが周りに合わせているだけだった。
 茶番に付き合ってやったが、こんな勝敗に意味などない。
 欲しいのは人気投票1位アイドルのセンターであるという結果だけ。
 そんなふてぶてしさだった。

「あーあ、やっぱりエレノアさんの大人の魅力には勝てないかー」

 その言葉にくやしさなど微塵も感じられなかった。
 ラウラがパンツ泥棒、もとい、暗殺に失敗した男を連行すると入れ替わるようにグレンが宿に入ってきた。

 一同に緊張が走る。

「どうやら全員集まっているようだな。さっそくではあるが優勝者を発表する」
「……………………」





「優勝者は……黒髪しばり隊!!」

 黒髪しばり隊の面々は歓声を上げると一斉に抱き合って喜んだ。

「私達本当にやったんだな!」
「ええ、その通りですわ。皆さんのおかげです」

 惜しくも敗退したエレノアとミィナも悔しさを堪えながらも拍手で祝福した。
 彼女たちもメインステージではないが明日も出番がある。
 グレンは敗者たちにも激励の言葉をかけて宿から去っていった。

 フェスティバルの人気投票優勝者は黒髪しばり隊。

 その知らせはあっという間にグレンランドの街に、そして大陸中に広まっていった。
 ファンたちは歓喜し、明日の大型劇場でのライブを楽しみに眠りについた。

 そしてアイドル達もまた今日の疲れをとるために、ライブの準備もほどほどにして体を休めることにした。そのため深夜遅くに宿を抜け出す者がいることに誰ひとり気づくことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...