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第27話 俺の視線はバレバレですか?

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「ケンセーのエッチ!!」

 俺は何故、寝起きに怒られてるのだろうか。

「男性の朝の生理機能についてなら勘弁してほしい」
「違うわよ!」
「じゃあ、何なんだよ」

 正直、朝からこのテンションはきつい。
 低血圧じゃないけど、もっとゆっくりさせてくれ。
 せっかくいい夢見てたのに。

「私、ずっと考えてたの。なんでケンセーって、装甲機人の力をあんなに引きだせるのかなって。だって、操縦はほとんど素人みたいなものなのよ? おかしいじゃない」

 それは前の世界の知識とか、ロボゲーの経験値とか。
 説明がめんどくせー。
 つか、レトがこんな話するの珍しいな。
 普段は馬鹿みたいことしか言ってない印象があるんだけど。

「それでねそれでね。私は一つの結論にたどり着いたのよ。操縦に大事なのは想像力。なのに、ケンセーに想像力なんてちっとも感じない」

「なんかレトさん、当たりきつくない?」

「だったら答えは一つ。妄想力よ! ケンセー、あんた、いつもエッチなこと考えてるでしょ! それが機人の能力を引きだしてるのよ!」

 俺は中学生か!!

「あ~、すっきりした。ようやく胸の支えが下りた感じだわ」
「そこまで真剣に考えることでもなくない?」

 いや、そうでもないか。
 
 普通の大学生だった俺が、何故か聖王機を操れるほどの能力を持っている。
 その原因は、むしろ考えるべきことだよな。
 もしかして、この世界に転移してきた時に何かあったのか? 
 理不尽な神様とか、おっちょこちょいな女神様に会った記憶はないぞ。

 ひょっとしたら、レトの考えは大きく違ってないかもしれない。
 元いた世界の常識は、この世界の人間にしてみれば、途轍もない想像力の塊りだ。
 例え、俺がそれら全てを理解していなくても、こっちの常識に当てはめれば?

 う~ん、どうもいまいちしっくりこないな。

 まあ、今はそんなことより訓練だ。
 前の戦いでは、団長は敵アスラレイドにやられてしまった。
 俺より数段上の戦闘技術をもつ団長でさえ、かなわない相手。

 新型ハードなんて、そうそう手に入らない。
 結局はソフト面を鍛え上げるしかないんだ。

 せっかく早起きしたので、いつもより早く演習場に向かう事にした。
 早朝は正規の騎士たちが訓練に励んでいる。
 参加させてもらえるか分からないけど、見るだけでも十分に勉強になるし。

 最近は結構戦いに慣れてきたけど、その分、油断しやすい時期だって、誰かに言われたしな。基本を大事にしたい。

 顔見知りの騎士であるミンツを見つけたので、参加をお願いしたところ、快く受け入れられた。どうやら最近は騎士たちも、ラヴェルサ討伐で遠征が多いらしく、訓練に参加する人数が減っているそうだ。
 
 夜間の緊急出撃から数日、確かにこれまでよりも戦う頻度が増えたし、他の傭兵団からも、そんな話を聞く。手放しで喜べることじゃないけど、俺にとっては自分を鍛えるチャンスだ。

 準備運動を済ませて、ミンツと向かい合う。

 互いに木剣を構えて距離を詰めていく。

 どんどん緊張感が増してきた。

 俺はまだ一度も騎士から一本をとったことはない。
 当然だ。彼らは俺の何十倍もの時間を費やしてきたんだから。
 それでも、少しづつ成長しているのは実感できている。
 相手の攻撃が見えてきたし、最初の二、三撃なら耐えられるようになった。

 でも、受けてるだけじゃ意味がない。
 せっかくの訓練なんだから、自分から仕掛けなくちゃ。

 俺の場合、装甲機人での戦いは一撃離脱が多い。
 ランスは勿論そうだし、ハンマーも構えて突っ込むだけで体勢を崩せるから。
 大きな動作は、大きなリスクがついてまわる。
 現実の俺に、それを補うだけの爆発力は無い。

 だったら、ここで学んだとおり、コンパクトに剣を振る。

 重さが足りないのか、ミンツは俺の剣を軽々と片手で受けた。
 それでも負けじと攻撃を繰り出し続ける。

 恐らくミンツは俺の攻撃を敢えて受けている。
 本来であれば、軽々と捌いて攻勢に転じることができるはずだ。

「すごいね、剣星」

 唐突なミンツの囁き。

 称賛の言葉は、今の状況では皮肉にしか聞こえない。
 手に力が入っていくのを感じる。

 その後の結果は無様なものだった。




「途中までは良かったね」

 戦闘訓練の後の反省会、ミンツの口から出てきたのは意外な言葉だった。
 俺としては、初めから遊ばれていたような感じだった。
 体内の赤光晶のおかげで怪我は全くないけど、実戦ならすぐに死んでいたはずだ。

「それ、どういう意味?」
「そのままだよ。と言っても、納得してくれそうにないね。なんというか、君の動きって、分かりやすいんだよね。僕が対応できるのは、そのおかげかなって」

「なるほど、わからん」
「剣星ってさ、結構、動体視力がいいよね。その目で普段から、イオリさんのことじっと見てるでしょ?」

 そりゃ、確かにそうだけど。

 って、バレバレですか。そうですか。

「変な意味じゃないよ。太刀筋がそっくりだってこと。だから、次の攻撃も予測できちゃうんだ」
「そ、そういう意味か」

「でも、それって凄い事だなって感心してたんだ。誰かの技を借りて経験の無さを補うなんて、誰にでもできることじゃない」
「なんか、こそばゆいな」
「まあ、技の鋭さとか、迫力は段違いだけどね」

 なるほどな。俺の相手は無人機のラヴェルサだと思ってたから気にしてなかったけど、人間相手だと動きが読まれてしまうのか。

 イオリの師事する流派のことが知られていたら、ハンマーでも今のようになってしまうかもしれない。本人ならそれでもなんとかするんだろうけど。

 それに先日のようにリグド・テランと戦う可能性もあるんだ。
 イオリだけじゃなく、他の人の動きも参考にした方がいいのかもしれない。

 他人の動きに、浮気したら今までのことを忘れてしまうんじゃないかって不安もあるけど。

 ミンツと別れて小休憩を取るために長椅子に向かった。

 水分補給しながら訓練の様子を見ていると、俺をあしらっていたミンツが苦悶の表情を浮かべていた。

「結局、俺の実力なんてその程度なんだよな」

 だったら、覚悟を決めて一つのことに専念するしかない。
 ラヴェルサの攻勢が強くなっている時に余計な事をするべきじゃないだろう。

「ん?」

 気づけば、イオリが近づいてきていた。
 先日、自分の気持ちをはっきりと自覚したせいだろうか。
 体が熱くなってきてるのを感じる。

 イオリは俺のすぐ側まで来ると、腰を落として耳元に口を近づけた。

「体を清めたら迎えをやる。アルフィナ様がお呼びだ」
「ああ、わかったよ」

 返事を聞いてすぐにイオリは立ち去っていった。

 いつもなら一言二言会話があるのに、なんとなく不機嫌さがにじみ出ている感じ。結構感情表現豊かだけど、こんな表情は初めて出会った時以来だな。

 女性にはそういう日もあるしな。

 俺は演習場の風呂に入り、案内の男に従った。
 何やら同じ道を通ったり、遠回りしてる気がする。
 よっぽど、隠しておきたいのだろう。

 俺は案内された部屋でアルフィナを待った。
 案内役が見てるから姿勢を正して待った。
 それから一時間くらい経った頃、ようやくアルフィナと再会した。

「下がれ」

 アルフィナの無機質な言葉を受けて案内役が部屋を出る。
 それを確認するとアルフィナは表情を崩した。

「息災であったか?」
「ちょっと前まではね」

 アルフィナが不思議そうな顔をする。
 慣れない姿勢を保っていたので、俺の足は軽く痙攣していたのだ。

「まあよい、楽にせい」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

 足を崩して椅子に座る。
 アルフィナは俺を見て微笑んでくる。
 なんだか、恥ずかしくなってきた。

「それで、今日はどうしたんだ? いきなり話したいことがあるだなんて」
「なんじゃ、せっかちな奴め。そういえば、あの羽虫はおらんようじゃの? あの者にも聞いておきたいことがあったのじゃがな」

「いつも一緒にいるわけじゃないからな。そうだ、そういえば俺もアルフィナに聞きたいことがあったんだ。初めて会った時、俺に別の世界から来たのか聞いたよね? それって前にもそういう人がいたってこと?」

「妾は別の世界のことなど何も知らん。そのような者あったこともない。ただ時折、声が漏れてくるのじゃ。妾にしか見えぬ空の道からのう。こことは違う、どこか遠い場所に繋がっておるのじゃろう」

 アルフィナが嘘を言ってるとは思えない。
 彼女の誠実さだろうか。
 だけど、どこか寂し気だ。

「そのような世界があるのなら行ってみたいと思っておった。叶わぬことじゃと諦めておった。そこにお主の存在よ。妾の喜びがどれほどだったか、お主には分からぬじゃろう。お主の世界の話を聞いて、どれだけ胸が弾んだことか、知らぬじゃろう」

「だったら、戦いが終わったら探してみようぜ、向こうの世界に――」

 自分の言葉にすぐに後悔した。
 なんてアホな事を言ってしまったんだ。

「それは叶わぬであろうな」

 アルフィナは聖女として覚悟を決めている。
 ラヴェルサと戦い、世界を守るために命を懸けると。
 それは聖女の義務とか責任とかじゃない、彼女自身がそう望んでいるんだ。

 目の前にいるのは、まだ十一歳の小さな女の子だ。
 普通とはちょっと違うけど子供らしいところもある。
 まだまだ、生きていたいはずだ。

 でも、俺に何が言えるってんだ。
 何の覚悟もない俺の言葉なんか、虚しく響くだけだ。


 俺は何故、アルフィナにここまで肩入れしているんだろう。


 出会ってから数カ月、話したのも数えるほど。
 
 なぜアルフィナのことを気にかけているのか。
 なぜ胸がこんなに苦しいのか。

 俺はこんな奴じゃなかった。

 もっと他人に無関心で、愛想笑いが得意な、つまらない男のはずだ。

「剣星、そんな難しい顔をするでない」

 アルフィナは近づいてきて、自分の胸に俺を引き寄せた。
 まるで砂漠で見つけたオアシスのような安堵感。
 この暖かさはアルフィナが聖女だからってだけじゃない。

 アルフィナの優しさが心にしみてくる。

「剣星」
「ん?」
「もう落ちついたか? このようなこと、妾も恥ずかしいのじゃぞ?」

 アルフィナは視線を合わせずそう言った。
 名残惜しさを感じつつも、俺は素直に頷いた。

「そ、そういえば、お主、イオリのことはどう思っておるのじゃ? 演習場でずっと見ておったじゃろ?」

 またその話かよ。仕方ねえなぁ。

「イオリの動きは凄く綺麗で参考になるから――」

 アルフィナがじっと見つめてくる。
 嘘をつくなとでも言っているような真っすぐ力強い視線。
 俺はどうしてこの瞳に逆らえないんだ、くそっ。

「ああ、もう言うよ、言えばいいんだろ! 一目ぼれだよ。初めて見た時から目で追っちゃうんだ。笑った顔も怒った顔も全部好きなんだ! これでいいか!」
「う、うむ。中々に情熱的ではないか」

 あーもう、なんで本人以外を前にして思いの丈を吐き出しちゃうかな、俺は。自分の気持ちを初めてはっきり口にしたけど、なんか心が軽くなって、めちゃくちゃスッキリした感じがする。

「近頃、イオリもやたらと神経質になっておってな。その理由は想像できるのじゃが。お主にイオリの、いや、イオリもお主のことは悪く思うとらんはずじゃ。男勝りで粗暴なところが玉にきずじゃが、男に対する耐性は無かろう。少々強引でも、押し倒せば、なんとかなるやもしれぬぞ?」

「そんなことしないって!」

 アルフィナさん、なんか性格変わってません?
 それとも、これが素の彼女なのかも知れないな。
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