聖女の御旗に集え!! ~ こんな世界、俺がぶっ壊してやるよ!!

犬猫パンダマン

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第36話 新たな旅にはまだ早い!

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 俺は今、自由都市同盟ロジスタルスの北端にある拠点にいる。

 そこで何をしているかといえば、天井を見上げて寝てるだけ。

 あの時はアドレナリンで気にならなかったけど、俺の腹は副長の剣で切られていた。あと1cm深かったら今頃天国で寝てたかもしれない。

 これまでの連戦で疲労が貯まっていたのもある。
 四日間も寝ていたなんて、よっぽど疲れていたんだ。
 目が覚めたのもつい先ほどだ。

 あのラヴェルサとの決戦、いや正確には副長との戦いを終えた俺は、団長の助言に従ってロジスタルスに落ち延びた。

 団長はそのまま気を失ったみたいだけど、どうやらフォルカに詳しい話をしていたらしい。フォルカの誘導に従ってここまでやってきた。

 俺はイオリと一緒にラグナリィシールドで、フォルカは団長と改良型リンクスでの移動だ。

 その時のことは全く覚えていない。恐らく、操縦に精一杯でほとんど会話を交わさずにここまでやってきた。そしてそのまま倒れてしまったのだろう。

 リンダとルシオは無事に生きているのだろうか。
 団長はどうなったんだろうか。

 あの時、フォルカは団長のことを母さんと呼んでいた。
 孤児だと聞いていたけど、きっと複雑な事情があるんだろう。

 それにレトが機人の浄化をしてくれていたなんて全然知らなかった。

「俺は何も知らないな……」

 この世界に来て、言葉を覚えて、自分は知らない事ばかりなのは分かっていた。
 それでも周りの事ぐらいなら、もっと理解していると思っていた。

「う~ん、む~」

 どこからかレトの声が聞こえてくる。
 なんだか寝言を言ってるような感じだ。
 姿を消してる感じじゃないけど。

 なんだか鼻がムズムズしてきた。
 勢いよく、クシャミを出す。
 すると、あろうことか、俺の鼻の穴からレトが飛び出してきたじゃないか。

「あ、あんた何すんのよ! 看病してあげた私に対して随分じゃない!」
「だからって鼻の中で寝るんじゃねーよ。でも、看病してくれたのか。ありがとな」

「ふん、調子のいいこと言っちゃってさ。じゃあ、私を見て何か言うことあるんじゃないの?」
「ん~?」

 薄目になって観察する。
 そういえば何かが違う。

「レトさん、また体変えた?」
「そう、正解! 何よケンセー、私のことちゃんと見てるじゃない。ひょっと変身するとこ、また見たかった?」
「いや別に?」

 そう言った途端に、レトはおもちゃを欲しがる子供のように腕を振ってジタバタしだした。

「そうよね、そうよね。一度見たら、もうポイするのね、酷いよ」

 ひと目で分かるウソ泣きだ。
 レトも色々ヴァリエーション増やしてんなぁ。
 でもちょっと面倒くさいパターンだ。
 聞かれていたら誤解されるやつ。

「剣星さん、お久しぶりです。目覚めたって聞いて」

 部屋に入ってきたのは、フォルカだ。
 レトはするするとフォルカに近づいて行った。

「聞きなさいよ。ケンセーってば酷いのよ。私のことをね――」
「うんうん、それは剣星さんが悪いね」

 フォルカはすげー適当に返事した。
 二人がいつの間にか仲良くなってた。
 というより、レトが普通に姿を見せてることに驚きだ。

「ちょっと聞きたいんだけど、イオリは大丈夫なのか?」

 一番聞きたかった事を尋ねた。
 フォルカは間髪入れずに答えてくれる。

「ええ、イオリさんも先程目覚めました。つきましては、こちらの代表者から色々説明があるので会議室に来てほしいとのことです。もちろんイオリさんも一緒に」

「ああ、わかった」

 とりあえず、イオリが無事なだけでも嬉しい。
 それを聞けただけでも良しとしよう。

 体を起こしてベッドから立ち上がる。
 流石にずっと寝ていただけあって、関節が変な感じ。

 三度、屈伸運動をして歩きだす。
 問題なさそうだと確認して部屋を出た。

 レトは姿を消さずにそのままで付いてくる。
 それだけ、ここの人間を信用しているのかもしれない。

 会議室と思わしき場所に着くと、フォルカに続いて中に入った。
 そこにいたのは二人だけ。

 偉そうに机に脚を乗せている中年男、いわゆるイケオジの類だ。
 そしてその横に静かにたつ眼鏡美人。クイってやってほしい。
 イオリの姿はまだ見えない。
 どうやら先に来たようだな。

「おう、よく来たな。テキトーに座ってくれ」
「はい、この度は色々お世話になりまして。ありがとうございました」

 この男性とは初対面だと思う。初めてここに来た時に誰かと挨拶した記憶が僅かにあるけど、この人じゃなかった気がする。

「気にするな。こっちも息子が世話になったってな。まあ、楽にしてくれ」

 それを聞いてため息をついたのはフォルカだ。
 ってことは、もしかしてこの人がフォルカの父親?
 つまり……

「団長の元旦那さんですか?! 八股の?!」

 って、やべぇ。つい馬鹿な事を聞いちまった。

「違う、九股だ」

 そこ、修正するのかよ!
 変なプライド持ってんじゃねーよ。

「俺はキルレイドだ。今はそう名乗ってるよろしくな、ねーちゃん」

 俺への挨拶だと思ったが、視線は部屋に入ってきたイオリに対してだった。
 イオリは軽く頭を下げた。

「助けていただいて感謝する。……さっそくですまないが、いくつかお尋ねしたいことがあります」

「おう、そうだな。だが話は長くなる。まずは席に着いてくれ。ねーちゃんはここだ」

 そういってキルレイド自分の膝を指さした。
 イオリはそれを無視して空いている席に着く。

 キルレイドはお構いなしに平然としている。
 これがいつのも彼なのだろう。
 眼鏡の女性はため息をついて咳払いした。

「こちらは自由都市同盟ロジスタルスの特別軍事顧問キルレイド。私は秘書のモニカと申します。記録には残らない会談ですので、気を楽にしてもらって結構ですよ」

 モニカさんは営業スマイル全開で微笑んだ。

「まず、私の方から軽く状況を説明させていただきます」
「待ってくれ、アルフィナ様はどうなったのだ? 先にそれだけでも教えてくれ」

 イオリの声は次第に小さくなっていった。
 それだけ不安が大きいのだろう。

 俺は副長から話を聞いているから想像できるけど、イオリにしてみれば作戦は失敗して死んだと思ってるかもしれないんだ。

「ルーベリオ教会の作戦は成功した。そして聖女様は生きている」

 それだけ聞けば完全勝利の報告だ。
 イオリの目がパッと輝く。

 だけど続く説明を受けると、その表情は次第に曇っていく。

 聞いた内容は副長が話してくれたことと、ほとんど同じだった。

 ラヴェルサは聖女を求めている。
 教会は聖女を探し出し、成長させて差し出す。
 そしてラヴェルサは沈静化する。

 聖女を助けたら、ラヴェルサはさらに狂暴化することが予想される。
 だから聖女は死ぬまで幽閉される。
 時が経って聖女が死ぬと、次の聖女を求めてラヴェルサは再び活動を開始する。

 話を聞いて、イオリは結構衝撃を受けているようだ。
 今まで教会を信じてい生きてきたんだ。
 当たり前だよな。

「そ、そんな……では教会はそれを知っていたというのか!」
「そうだ」

「教会はアルフィナ様を助けてくれないのか!」
「そうだ」

「アルフィナ様は全てを分かっていたというのか!」
「その通りだ」

「では我々はいったい何のために戦ったというのだ。これまで多くの戦士たちは、何のために死んでいったのだ!」
「それは次の戦いのためさ。ラヴェルサの数が多いままじゃ、次の戦いまでに被害が増す恐れがあるからな。それは教会が支持基盤を失う事を意味している」

「だが、あなたが話した事が真実であるという証拠はない」
「俺は元々ルーベリオ教会の所属だ。筆頭騎士だったこともある。以前はデクスと名乗っていた」

 イオリはその名を聞き、一瞬だけ俺を見て、キルレイドに食って掛かった。

「あの八股男か!」

「違うな。十股だ」
「見栄はってんじゃねーよ! さっきは九股って言っただろ!」

 ……やべぇ。

 イオリの勢いに釣られて、つい突っ込んでしまった。

「ともかく、俺は教会で地位が上がるにつれて真実に近づいていった。そこで知ってしまったのさ。今のお前さんのようにな」

「そういわれれば、その顔の傷に見覚えがある。そうか……」

 イオリはキルレイドさんの言葉を信じたんだろう。俯いてしまった。

「俺は十四年前、真実を知りながら戦っていた。そんなことをしてはいけないと思いつつ、教会に従っていた。そして平和が訪れた。だが現実はどうだ。一年後にはラヴェルサは活動を再開し、再び戦いが始まろうとしていた。俺は何をやってるんだと虚しくなったよ」

 つまりラヴェルサの元にいた聖女は決戦から僅か一年で亡くなったということだ。
 そして決戦から三年後に生まれたアルフィナが聖女の力を受け継いだのか。

 イオリが勢いよく音を立てて、席を立った。

「イオリ、もしかしてこれからアルフィナを助けに行く気なのか?」
「当たり前だ! 剣星、あの時お前が! いや、すまない。全ては私の力の無さが原因だ。お前にあたるなんてお門違いもいいところだ」

 俺に責任を押し付けられたら、どれだけイオリの気が楽になるだろうか。理性が残っているからこそ、自分を追いつめてしまうんだ。

「お待ちください、話はまだ終わっておりません」
「そうだぜ、それにここには整備中の機人しかない。もう少しだけ話を聞いておけ」

 モニカさんとキルレイドさんの説得を受けて、イオリは席に戻った。

「それに教会に戻ったって拘束されるだけだぜ?」

 イオリはその言葉を全く信じる様子がない。

 でも俺には一つだけ心当たりがあった。
 俺がここにいるのも、それが理由なんだろう。

「剣星の方は分かってるみたいだな。まあ、当然か。そもそもお前がグルディアスを殺したからせいだからな」

 やっぱり、という感情しか沸いてこない。
 俺が殺されるとしたら、それが理由だろう。

「本来であれば教会……帝国もだが、剣星をリグド・テランに差し出したかったはずだ。だがそれを拒んだのが聖女様だ。そこで教会上層部とリグド・テランとの間に密約ができた。今の聖女様は体が弱い。強く拒絶して心身を弱くしては決戦を前に死んでしまうかもしれない。それは教会にとっても、リグド・テランにとっても不利益となる。だったら聖女様がいなくなってから、剣星を差し出せばいい」

「ちょっと待ってください。教会は分かるけど、リグド・テランにもって。あいつらはラヴェルサと組んでるんじゃないんですか?」

「敵ではないというだけで、味方ではない。特性を利用しているに過ぎないのだろう。奴らとしては教会勢力とラヴェルサが勝手につぶし合いをしてくれるのがベストだ。仮に戦いの前に聖女様が死んでいたら、ラヴェルサは次の戦いまでに戦力を増やしていくだろう。それは対抗する教会側も同じことだ。リグド・テランにとっては面白くないだろう?」

「それはまあ、理解できますけど……」

「何を言う! それはリグド・テランの考え方だ」

 イオリが身を乗り出して声を上げた。

「教会勢力が戦力を増加させるのに何の不都合があると言うのだ。……聖女様を差し出せばラヴェルサとの戦いが終わると言うのなら、無傷の戦力でリグド・テランに対抗できるではないか!」

「だが実際にはそうはならない。それは教会上層部とリグド・テランが何百年も前から繋がっているからだ」


 寝起きには刺激が強すぎるって。

 
 頭痛くなってきた。
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