『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる

暁刀魚

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8 山育ち、自身の力を顧みる

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 さて、シオリ殿からは一旦距離を取った。
 向こうが何を考えているのかは知らないが、声をかけてこないなら無視してもいいだろう。
 何よりこっちからあの空気に突撃するとか、冗談じゃない。
 取り巻きが襲いかかってきかねないぞ。
 人間相手の殺生は、何よりも禁忌だ。
 加護薬があれば死なないのだろうが、それにしたって人と争うべきではない。

 気を取り直して、ここ最近の日課を俺は再開する。
 何をしているかと言えば――瞑想だ。
 といっても、地面に座り込んだりはしていない。
 歩きながら呼吸を整えて、意識を内に集中させているのである。
 目的は当然、魔力を体内で練り上げるためだ。

 ここで少し話が逸れるが、俺は爺ちゃんに鍛えられ「氣」というものを操れるようになっている。
 これは言うなれば体内の生命力を活性化させるもの。
 氣を高めた人間は爆発的な身体能力を獲得し、妖怪とすら正面から渡り合えるのである。
 まぁ、現代ではその技法は失われてしまったようだけど。

 とにかく、氣を操るために最も重要なのが呼吸だ。
 氣は体内を巡っているものだから、呼吸という形でそれを循環させる必要がある。
 これと同じ要領で、魔力を体内で練れないか試しているのだ。
 今のところ、成功はしていない。

 理由はいくつかあって、俺自身が氣を練るという動作を慣熟しすぎているということが大きい。
 魔力を練ろうとして、氣をねってしまうということが多々あるのだ。
 他にはダンジョンの外には魔力が存在しないから、ダンジョンの外では練習ができないというのもある。
 そりゃあ当然といえば当然のことなのだけど。
 では魔力とは一体何なのだ?
 色々と考えるものの答えは出ない。
 何より、瞑想中にそういったことを考えるのは雑念だ。
 今は置いておこう。

 さて、進展がないかといえばそうではない。
 自力で魔力を生成することはできていないが、魔力を体内に取り込むことには成功しているのだ。
 これは単純で、魔物が倒した時に落とす魔力を呼吸で取り込み体内の魔力と一つにしているのだ。
 加護薬が自動でやっていることを、手動でやっているようなものだな。

 こうして取り込んだ魔力を、俺はいい感じに氣とミックスしていた。
 妖力と魔力は相性が悪いものの、氣と魔力はそこまで相性が悪いわけではない。
 そもそも、氣と妖力もそこそこ相性が悪く、近しい力である魔力が氣と相性がいいのは当然だろう。
 思うに、妖力と魔力は似て非なるものなのだ。
 似て非なるからこそ反発しあい、交わらない。
 これを交わらせるのは、相当な難題だぞ。

 とにかく、できることで言えば氣と妖力を混ぜ合わせたほうが多い。
 だが、妖力には少し……というかかなり問題があって、普段から俺はそれを利用していない。
 そこで氣と魔力を混ぜ合わせるのだ。
 これの一番の利点は、戦闘中に氣を高めることに集中しなくていいという点。
 魔力で氣の代用が可能だからだ。
 氣は、常に高めるために意識を集中する必要がある。
 もはや大分慣れてしまったが、戦闘中に氣を高めるというのは非常に困難な行為だ。
 これを意識せず魔力で代用できるというのは、非常に優秀だ。
 そして、咄嗟のタイミングで使用する力を魔力から氣に切り替えることで瞬発力を高める。
 更には魔力と氣を混ぜ合わせると更に身体能力が向上する。

 何とも、優秀な力だ。
 コレを故郷の山でも使えたら、爺ちゃんにも勝てるかも知れないなぁ。
 とか思ったりもする。
 しかし、同時に気を抜いてはいけないとも思う。
 配信で見た、最深部の戦いはとにかく派手だった。
 俺の戦い方が拳一本だから、強さを比べられるものではないが。
 派手さという意味では天と地の差がある。
 これがもしも、その派手さが実力に直結していたら。
 間違いなく、俺は最深部で全く刃が立たないだろう。

 それはゴメンだ。
 何としても、強くなる必要がある。
 謙虚でなければ、向上心を持って挑まなければ。
 そう思い直しつつ、瞑想に集中する。
 気配は今も探知しているから、魔物が通りかかったら解除して戦闘。
 人が通りかかったら、目立たない程度に瞑想を緩める。
 そんな感じで、俺は探索を進めていた。

「それにしても――」

 しばらく探索を続けて。
 そろそろ切り上げるかを考える時間。
 そんな折に、俺は一旦瞑想を中断した。

「――今日は、魔物が少し多くないか?」

 首を傾げる。
 明らかに今日は魔物の出現頻度が多かった。
 いや、実際には普段とそこまで変わらないのだが。
 今日は普段より人が多いにもかかわらず、出現頻度が変わらないのである。
 それは少しおかしい……のだが。
 素人である俺が、うまくそれを言語にできるわけもなかった。

 そんな時である。
 スマホが、それはもうやかましい音を立てて揺れる。
 明らかに人の危機感を煽るような音だ。
 見れば、スマホの画面にこんな通知が入っていた。


「東地区中央ダンジョン第二階層にて、|暴走《タイラント)発生警報発令……?」


 なにやら、変なことが起きているようだが。
 そもそも、暴走タイラントとやらは何なんだ……?
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