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第五章 「モーニングスター」
第40話 「帰還」
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~憲章暦997年2月10日(星の日)~
ノーヴェ村の見慣れた丘が見えてきた。
馬車の車輪がきしむ音と、静かな風の音が耳に届く。
俺は手綱を握りながら、隣に座るアイラと、後ろで揺られるリーリアに目をやった。リーリアは目を閉じたまま、頬に当たる風を感じているようだった。
あの日、奴隷オークションの会場でリーリアを失い、追って、交渉して、ようやく手にした再会。すべてが夢だったかのように、今は静かで穏やかな時間が流れていた。
ノーヴェ村の門が見えた瞬間、胸の奥にしまい込んでいたものが、ふっと緩んだ。
「ここが……アルさんの村……」
アイラが隣で静かに呟く。
馬車から降りて、門の前に立つ。
リーリアが小さく息を吸った。
「懐かしい……でも、少しだけ怖い……」
俺は何も言わず、そっとリーリアの背中を押した。
俺たちが村の入口をくぐると、ちょうど畑仕事をしていた村人たちがこちらに気づいて、驚いたように目を見開いた。
「リーリア!? リーリアじゃないか!」
誰かが叫び、次々と村人たちが俺たちの存在に気が付く。
その中に、よく知った顔があった。
「姉ちゃんっ!!」
そう言って、少年が走り出した。リーリアの弟、テオだった。泣きながら走ってきて、リーリアの腰に飛びついた。
「テオ……ごめんね、ごめん……もう大丈夫だから……」
リーリアの目にも涙が浮かんでいた。
俺は二人の再会を見つめながら、そっと視線を外した。今だけは、邪魔をしたくなかった。
やがて、村人たちが次々に集まり、俺たちを取り囲んだ。
「無事だったのか……」
「本当によかった……」
安堵と喜びの声。どの顔も、温かく、優しかった。
中には、リーリアを送り出したことに罪悪感を抱えている者もいたかもしれない。
けれど今は、誰もが再会を喜んでいた。そして、人混みの奥から、静かに歩いてくる男の姿があった。
村長――。
リーリアの父親だった。
「……リーリア」
その声には、父親としての後悔が滲んでいた。
「お父さん……」
リーリアが小さく頷く。二人の間にあった沈黙が、全てを物語っていた。抱き合うことも、言葉を交わすこともなかったが、それで十分だった。
俺が家に戻ったのは、夕日が山の向こうに沈んだ頃だった。
アイラとリーリア、それから俺の三人で囲む夕食は、質素だけれど温かかった。囲炉裏の火がぱちぱちと音を立て、湯気の立つ鍋からは香ばしい香りが広がっていた。
「この村……空気がきれいですね」
アイラがそう言って、窓の外を眺める。
「わたし、こんなに落ち着いた気持ちになったの、久しぶりかもしれません」
「俺もだよ。やっぱり、帰る場所があるってのは、いいもんだな」
俺がそう返すと、リーリアが箸を止めた。
「ねえ、アル兄……それに、アイラさんも……」
少し緊張した面持ちで、リーリアが言葉を紡ぐ。
「決めたの。……私、魔法学校に行きたい」
その言葉に、俺もアイラも顔を上げた。
「私は、今回助けられるだけだった。けど、次は、誰かを助けられる人になりたい。魔法を、ちゃんと学びたいの」
「……リーリア」
俺は思わず口を閉ざした。リーリアの目は真っ直ぐで、まるで一切の迷いを断ち切ったかのようだった。
「……すごいな、リーリア」
「わたしも、応援します。きっと、リーリアさんなら立派な魔法士になれます」
アイラの言葉に、リーリアが微笑む。
「ありがとう……ございます」
その笑顔は、強さと希望を帯びていた。
夕食のあと、リーリアは自宅に戻った。
とりあえずアイラには、クロエの使っていた部屋を使ってもらうことになった。
一人になった俺は、夜空を眺めていた。
星の光と月明かりが、静かな庭を青く照らしていた。
虫の羽音、木の葉のざわめき……あまりにも静かで、それでいて確かな命の気配があった。
――俺たちは、始まったばかりだ。
リーリアが自分の足で未来を選び、進み始めたように、俺にもやるべきことがある。
アイラにも、ここで束の間の休息をとってもらいたい。
リアディスに戻れば、また忙しい日々が始まるだろう。
「ここからだ」
小さく呟いた声が、夜の静けさに溶けていった。
そして俺は、再び歩き出す準備を、心の奥でそっと整え始めた。
◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆
【資産合計】1,011,555ディム
【負債合計】0ディム
【純資産】1,011,555ディム
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ノーヴェ村の見慣れた丘が見えてきた。
馬車の車輪がきしむ音と、静かな風の音が耳に届く。
俺は手綱を握りながら、隣に座るアイラと、後ろで揺られるリーリアに目をやった。リーリアは目を閉じたまま、頬に当たる風を感じているようだった。
あの日、奴隷オークションの会場でリーリアを失い、追って、交渉して、ようやく手にした再会。すべてが夢だったかのように、今は静かで穏やかな時間が流れていた。
ノーヴェ村の門が見えた瞬間、胸の奥にしまい込んでいたものが、ふっと緩んだ。
「ここが……アルさんの村……」
アイラが隣で静かに呟く。
馬車から降りて、門の前に立つ。
リーリアが小さく息を吸った。
「懐かしい……でも、少しだけ怖い……」
俺は何も言わず、そっとリーリアの背中を押した。
俺たちが村の入口をくぐると、ちょうど畑仕事をしていた村人たちがこちらに気づいて、驚いたように目を見開いた。
「リーリア!? リーリアじゃないか!」
誰かが叫び、次々と村人たちが俺たちの存在に気が付く。
その中に、よく知った顔があった。
「姉ちゃんっ!!」
そう言って、少年が走り出した。リーリアの弟、テオだった。泣きながら走ってきて、リーリアの腰に飛びついた。
「テオ……ごめんね、ごめん……もう大丈夫だから……」
リーリアの目にも涙が浮かんでいた。
俺は二人の再会を見つめながら、そっと視線を外した。今だけは、邪魔をしたくなかった。
やがて、村人たちが次々に集まり、俺たちを取り囲んだ。
「無事だったのか……」
「本当によかった……」
安堵と喜びの声。どの顔も、温かく、優しかった。
中には、リーリアを送り出したことに罪悪感を抱えている者もいたかもしれない。
けれど今は、誰もが再会を喜んでいた。そして、人混みの奥から、静かに歩いてくる男の姿があった。
村長――。
リーリアの父親だった。
「……リーリア」
その声には、父親としての後悔が滲んでいた。
「お父さん……」
リーリアが小さく頷く。二人の間にあった沈黙が、全てを物語っていた。抱き合うことも、言葉を交わすこともなかったが、それで十分だった。
俺が家に戻ったのは、夕日が山の向こうに沈んだ頃だった。
アイラとリーリア、それから俺の三人で囲む夕食は、質素だけれど温かかった。囲炉裏の火がぱちぱちと音を立て、湯気の立つ鍋からは香ばしい香りが広がっていた。
「この村……空気がきれいですね」
アイラがそう言って、窓の外を眺める。
「わたし、こんなに落ち着いた気持ちになったの、久しぶりかもしれません」
「俺もだよ。やっぱり、帰る場所があるってのは、いいもんだな」
俺がそう返すと、リーリアが箸を止めた。
「ねえ、アル兄……それに、アイラさんも……」
少し緊張した面持ちで、リーリアが言葉を紡ぐ。
「決めたの。……私、魔法学校に行きたい」
その言葉に、俺もアイラも顔を上げた。
「私は、今回助けられるだけだった。けど、次は、誰かを助けられる人になりたい。魔法を、ちゃんと学びたいの」
「……リーリア」
俺は思わず口を閉ざした。リーリアの目は真っ直ぐで、まるで一切の迷いを断ち切ったかのようだった。
「……すごいな、リーリア」
「わたしも、応援します。きっと、リーリアさんなら立派な魔法士になれます」
アイラの言葉に、リーリアが微笑む。
「ありがとう……ございます」
その笑顔は、強さと希望を帯びていた。
夕食のあと、リーリアは自宅に戻った。
とりあえずアイラには、クロエの使っていた部屋を使ってもらうことになった。
一人になった俺は、夜空を眺めていた。
星の光と月明かりが、静かな庭を青く照らしていた。
虫の羽音、木の葉のざわめき……あまりにも静かで、それでいて確かな命の気配があった。
――俺たちは、始まったばかりだ。
リーリアが自分の足で未来を選び、進み始めたように、俺にもやるべきことがある。
アイラにも、ここで束の間の休息をとってもらいたい。
リアディスに戻れば、また忙しい日々が始まるだろう。
「ここからだ」
小さく呟いた声が、夜の静けさに溶けていった。
そして俺は、再び歩き出す準備を、心の奥でそっと整え始めた。
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